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昔話
僉議2
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出廷の日、まだ閉庁している時間にグラントは裁判所にいた。
目の前にはウーシーの所属する教会の総本山みたいな建物がある。
大きい。
そのシンボルマークに見守られる形で裁判所は建っていた。
この位置関係で嘘つけないってことかなあ。
洗礼を受けていないグラントは不思議そうに建物を眺める。
建物の間を通っている道は広かった。
馬車が四台同時に通れる。
王宮からまっすぐ来られる道なのだ。
扉が開くとまず受付で持ち込みの可否の判定を受ける。
今日はアリアが法廷に立つ。
マーシャのひととなりを証言するのだ。
アリア以外の精霊は入っていいかどうか。
オークは騒音で入廷禁止。
エコーは通信で禁止。
モスは呪いで禁止。
ちょっと納得いかない。
フットマンは可。
バレルは飲酒で禁止。
スイートは可。
アリアが心細いといけないとフットマンとスイートを残す。
グラントの杖は時間が来たら誰かに預けるのだ。
右腕は見えるようにしておく。
始業の時間が来た。
傍聴席が左右二列のベンチしかない小さな部屋で裁判が始まる。
裁判官の一段下に十人の裁判員が並んだ。
マーシャが警吏と入ってくる。
グラントに向けてにこっと笑った。
お互いの弁護士が挨拶して席につく。
まずどんな人物なのか、事前の証言の確認がなされる。
グラントについて質問に回答したのはレイと、もう一人はもとマーシャの部下だ。
どちらからもグラントは人から頼まれれば受けてしまう性格だと書かれている。
つまり、消極的で弱腰。
ソフィーの質問に答えればそういう印象になるようなシートだ。
それは強制されれば従ってしまうとも解釈されかねなかった。
レイを証人に選んだのはドマークか。
人選ミスだと思う。
ドマークの質問シートへの回答では印象が異なった。
無謀はしないが、目的が定まればそこへ行く筋道を立てる能力がある。
なるべく諍いにならないよう気をつけている。
意に反することをさせようとしても従わない頑固なところがある。
グラントのその頑固さに苦労したレイの証言は強力だった。
マーシャへの証言は、出産を助けた修道士がした。
どちらの弁護士からの質問でも、印象は情に篤い人になる。
マーシャは気がついたら一人で生きていた。
ジェロディに拾われるまで孤独だった。
愛くるしい様子でいればひどいことはされないと学んで大きくなった。
六年生の時にそれが通じない相手と出会って失敗した。
失敗から立ち直って、情のある親分になったみたいな話ができ上がる。
いつの間にか、精霊たちの隣にケリーがいた。
しらっとした表情で母親を見ている。
学校は?
グラントが声に出さずに聞いた。
休日です。
真顔で大嘘を返してくる。
行きなさい、って言ったところで裁判官に叱られた。
ドマークは苦笑いしてくれた。
アリアが到着した。
回答には自署が求められるので、アリアは文書で提出できない。
彼女は本を読む精霊だ。
書かない。
法廷に、見た目は三~四歳に見える女の子が呼ばれた。
年齢と職業を聞かれて答える様は、なんとも現実感がない。
マーシャの性格を尋ねられ「小狡い」と表現した。
「主グラントを利用してやろうと上面の笑顔で擦り寄ってくる人です。
私はグラントが八歳の時にやってきました。
マーシャが六年生の時です」
精霊は、物語を読むように話す。
シュトラールにいる子どもの魔法使いというのはグラントひとりだった。
大きな杖は人目を引いたが、ジェロディは常に持っているように言う。
ランチを忘れても届けないくせに、杖だけは届けに来た。
治安のよくない地域から、質の良くない学校に通うので、確かにないと心もとない。
六年生のマーシャは大けがの後、余計に商いに力を入れた。
子どもだったから侮られたのだ。
早く大人にならないと、またいつひどい目に遭うか分からない。
グラントがもし一緒に戦ってくれたら。
一緒に商いをしてくれたら。
自分はひどい目に合わずに済んだのに。
主に対する八つ当たりを、アリアは見続けてきた。
「マーシャは、まるで自分はグラントに一生分の恩を貸し付けたとばかり。
庇ってもらってきたのはマーシャです」
その言葉に、ソフィーが反応する。
「庇うというのは、具体的には?」
「法律の網にもかからないような小さな悪事のツケです。
あたりなしでくじを売ったのがバレたり。
場所の取り合いで不利になると逃げてくるのです。
当時まだ杖より背の低かったグラントに対してですよ?
グラントは喧嘩したくないからいつも魔法で逃します。
恨みを買うのはグラントで、マーシャではなかった」
裁判員の表情がちょっと変わった。
マーシャはそんなつもりはなかったような悲しそうな顔をしている。
グラントは無表情に見えた。
彼女が走ってくると、無理難題をふっかける。
いつの間にかそう身構えるようになっていた。
いつも一緒にいたから、マーシャは知っていた。
グラントはどんな魔法を使えるのかということを。
マーシャだったらこう使う。
彼女は次々と魔法の使い道を思いつけた。
グラントは必死にそれを叶えただけだ。
「大好きな主を庇いたい気持ちは分かるけれど……」
言いかけたソフィーを、アリアはきっぱりと睨みあげる。
「私ほど平等な精霊はありません。
主グラントをどう表現するかお聞きになってください。
のんびりが過ぎてぐずぐずとした人です。
態度が薄く冷めていてつまらない」
泣きそうだったはずのマーシャが吹いた。
ケリーまで同じように下を向いて笑っている。
グラントの視線がうっそりと天井に流れた。
なんだか、納得されている。
質問シートに答え終わる頃には、二人は仲が良かったんじゃないかという空気だった。
これがどう結果に出るのか、分からない。
ドマークの人選に疑問が残った。
目の前にはウーシーの所属する教会の総本山みたいな建物がある。
大きい。
そのシンボルマークに見守られる形で裁判所は建っていた。
この位置関係で嘘つけないってことかなあ。
洗礼を受けていないグラントは不思議そうに建物を眺める。
建物の間を通っている道は広かった。
馬車が四台同時に通れる。
王宮からまっすぐ来られる道なのだ。
扉が開くとまず受付で持ち込みの可否の判定を受ける。
今日はアリアが法廷に立つ。
マーシャのひととなりを証言するのだ。
アリア以外の精霊は入っていいかどうか。
オークは騒音で入廷禁止。
エコーは通信で禁止。
モスは呪いで禁止。
ちょっと納得いかない。
フットマンは可。
バレルは飲酒で禁止。
スイートは可。
アリアが心細いといけないとフットマンとスイートを残す。
グラントの杖は時間が来たら誰かに預けるのだ。
右腕は見えるようにしておく。
始業の時間が来た。
傍聴席が左右二列のベンチしかない小さな部屋で裁判が始まる。
裁判官の一段下に十人の裁判員が並んだ。
マーシャが警吏と入ってくる。
グラントに向けてにこっと笑った。
お互いの弁護士が挨拶して席につく。
まずどんな人物なのか、事前の証言の確認がなされる。
グラントについて質問に回答したのはレイと、もう一人はもとマーシャの部下だ。
どちらからもグラントは人から頼まれれば受けてしまう性格だと書かれている。
つまり、消極的で弱腰。
ソフィーの質問に答えればそういう印象になるようなシートだ。
それは強制されれば従ってしまうとも解釈されかねなかった。
レイを証人に選んだのはドマークか。
人選ミスだと思う。
ドマークの質問シートへの回答では印象が異なった。
無謀はしないが、目的が定まればそこへ行く筋道を立てる能力がある。
なるべく諍いにならないよう気をつけている。
意に反することをさせようとしても従わない頑固なところがある。
グラントのその頑固さに苦労したレイの証言は強力だった。
マーシャへの証言は、出産を助けた修道士がした。
どちらの弁護士からの質問でも、印象は情に篤い人になる。
マーシャは気がついたら一人で生きていた。
ジェロディに拾われるまで孤独だった。
愛くるしい様子でいればひどいことはされないと学んで大きくなった。
六年生の時にそれが通じない相手と出会って失敗した。
失敗から立ち直って、情のある親分になったみたいな話ができ上がる。
いつの間にか、精霊たちの隣にケリーがいた。
しらっとした表情で母親を見ている。
学校は?
グラントが声に出さずに聞いた。
休日です。
真顔で大嘘を返してくる。
行きなさい、って言ったところで裁判官に叱られた。
ドマークは苦笑いしてくれた。
アリアが到着した。
回答には自署が求められるので、アリアは文書で提出できない。
彼女は本を読む精霊だ。
書かない。
法廷に、見た目は三~四歳に見える女の子が呼ばれた。
年齢と職業を聞かれて答える様は、なんとも現実感がない。
マーシャの性格を尋ねられ「小狡い」と表現した。
「主グラントを利用してやろうと上面の笑顔で擦り寄ってくる人です。
私はグラントが八歳の時にやってきました。
マーシャが六年生の時です」
精霊は、物語を読むように話す。
シュトラールにいる子どもの魔法使いというのはグラントひとりだった。
大きな杖は人目を引いたが、ジェロディは常に持っているように言う。
ランチを忘れても届けないくせに、杖だけは届けに来た。
治安のよくない地域から、質の良くない学校に通うので、確かにないと心もとない。
六年生のマーシャは大けがの後、余計に商いに力を入れた。
子どもだったから侮られたのだ。
早く大人にならないと、またいつひどい目に遭うか分からない。
グラントがもし一緒に戦ってくれたら。
一緒に商いをしてくれたら。
自分はひどい目に合わずに済んだのに。
主に対する八つ当たりを、アリアは見続けてきた。
「マーシャは、まるで自分はグラントに一生分の恩を貸し付けたとばかり。
庇ってもらってきたのはマーシャです」
その言葉に、ソフィーが反応する。
「庇うというのは、具体的には?」
「法律の網にもかからないような小さな悪事のツケです。
あたりなしでくじを売ったのがバレたり。
場所の取り合いで不利になると逃げてくるのです。
当時まだ杖より背の低かったグラントに対してですよ?
グラントは喧嘩したくないからいつも魔法で逃します。
恨みを買うのはグラントで、マーシャではなかった」
裁判員の表情がちょっと変わった。
マーシャはそんなつもりはなかったような悲しそうな顔をしている。
グラントは無表情に見えた。
彼女が走ってくると、無理難題をふっかける。
いつの間にかそう身構えるようになっていた。
いつも一緒にいたから、マーシャは知っていた。
グラントはどんな魔法を使えるのかということを。
マーシャだったらこう使う。
彼女は次々と魔法の使い道を思いつけた。
グラントは必死にそれを叶えただけだ。
「大好きな主を庇いたい気持ちは分かるけれど……」
言いかけたソフィーを、アリアはきっぱりと睨みあげる。
「私ほど平等な精霊はありません。
主グラントをどう表現するかお聞きになってください。
のんびりが過ぎてぐずぐずとした人です。
態度が薄く冷めていてつまらない」
泣きそうだったはずのマーシャが吹いた。
ケリーまで同じように下を向いて笑っている。
グラントの視線がうっそりと天井に流れた。
なんだか、納得されている。
質問シートに答え終わる頃には、二人は仲が良かったんじゃないかという空気だった。
これがどう結果に出るのか、分からない。
ドマークの人選に疑問が残った。
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