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昔話
おはなし会
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おはなし会。
なんだか楽しそうな響きのする会だ。
希望のあった一年生から五年生までの子どもたちが、学校帰りにやってくる。
本日、運よく体調が良いダヴィは、昼前にバレットに寄った。
ランチを用意したから、薬草園で一緒に食べようと誘いに来たのである。
既に来ていたシェリーとアリアと受けた。
屋根がガラスでできている薬草園は暖房がいらないくらい暖かい。
第一王子殿下と四人で囲むテーブルというのは、なんとも贅沢。
アリアは行儀よく一人でベンチに座っていた。
食後には摘みたての葉で淹れたお茶が出てきた。
ここで採ったらしい。
時々風が回ってきて、薬草の香りがする。
「どんな病も治りそうな薬草の数ですね」
見入ってしまうグラントにダヴィは頷いた。
「集めるのに二十年以上かかっている。
それでも全ての薬草という訳じゃないんだ。
育てられずに枯らしてしまった植物もたくさんあるよ」
「殿下のお薬もここから作るのですか?」
「そう。売るほどあるから」
実際、この中で一般に売れそうなものは店に卸されている。
エリンのお店のように。
アリアが足の下にあてがってもらった台を踏みながら辺りを見回している。
台の面がふわふわしていて心地よいようだ。
シェリーに周囲の様子を見せる。
薬草の庭園を興味深そうに観察した。
「グラントはどうして幻術を使い始めたの?」
ダヴィに聞かれ、あまり格好のいい理由から始めたわけではないことを思い出す。
「隠れるためです」
彼らしい理由にアリアは小さく笑った。
「ここへ来る道中、夜の森は怖かったんです。
わたしはまだ戦えなかった。だから魔法で隠れることにしました」
「どうやって動物から隠れるの?」
ダヴィは興味深そう。
「擬態です。樹木や石などに似せて、自分の周りを覆うのです。
そうすると、中にいる限りこの世の全てのものから隠れられます」
「中にいる者の気配はもれないのかい?」
「もれません」
「それを幼い頃に考えついたの?」
「祖母が似たような魔法を使います」
もっと攻撃的だけれども。
「グラントは家族全員が魔法を使えた?」
「いいえ。父は普通の人間で、学者でした。
おそらく植物の研究をしていた」
時が経ちすぎて覚えていない。
よく図鑑の間に葉が挟んであった。
「もうほとんど覚えておりません」
今はそのことが特に悲しいわけでもない。
ないものはない。それだけだ。
「シェリーの魔法はどういうふうに変身するものなの?」
ダヴィに尋ねられ、シェリーは首を振った。
アリアの本を得て自由に変身できるようになったが、仕組みなど説明できない。
「魔法は不思議ではないんだよ」
魔法使いでもないのに、ダヴィはそのことを知っている。
グラントは驚きを持って彼を見た。
「もちろん不思議な力が根底ではあるけど。
発現する現象には理があるようだ。
使う方がそれを知るのと知らないのでは雲泥の差が開く。
……って、本にあった」
最後は子どものように笑う。
図書館の方から職員が呼びにきた。
子どもたちが来はじめたと教えてくれる。
一年生から五年生までの貴族の子どもたちが部屋に集まってきた。
好きなクッションを取って座っている。
入り口につけた馬車から子どもだけ飛び出してくることが多かった。
一人だけ、騎士と婦人が子どもと下りる。
ダヴィは彼らを出迎えて、グラントとシェリーを紹介した。
騎士の方はダヴィの同級生で、婦人はその妹。
子どもは三年生の男の子だ。
騎士を目指しているらしく、小さな剣を帯びている。
この後すぐ習い事があるという。
友人たちは言葉を交わしてすぐに馬車へ戻った。
子どもたちの選りすぐった不思議な話は楽しかった。
アリアも笑っていたから、世代を越えて楽しい話だったのだ。
定番の、魔物が人間を騙そうとする話。
精霊が悪戯する話。
自分の家の影に何か住んでいると思う体験談まで。
アリアが本の精霊だというので、みんな話を聞きたがった。
本当に怖い話も知ってはいたが、読み聞かせたのは少し穏やかな怖い話。
精霊が大人数で攫ってきた娘を泥棒が偶然行きあって助ける話だった。
最後に泥棒が仕返しにあってしまうことは伏せた。
グラントが魔法使いだというので、今までに見た一番すごい魔法は何だったと聞かれた。
「……」
アリアとしばらく視線を合わせる。
子どもに見せられる範囲ですごいと思う魔法。
「火を灯す魔法、かな」
グラントは杖を握った。
あたりに天幕がかかったように暗くなる。
そこは見せもの小屋の中だ。
魔法使いが小屋の中に張られた線の上の蝋燭に順番に火を灯していくという。
それだけの演目だった。
「この人は二十年かけて習得したのが蝋燭に火をつけるという魔法一つだけだった」
蝋燭の火は次々に色を変える。
熱の力で勝手に回り出したり、ふらふらと空間を漂い出したりした。
小さな妖精でも舞っているかのような光景だ。
子どもたちは思わず見入っている。
「火は混ぜ物によって色が変わる。
台座の形を工夫すれば、熱の力で動き出す。
この魔法使いは自分の魔法をよく研究して、使いこなしていた。
だからわたしはこの魔法はすごいと思う」
「グラントはこの人が都にいる間、毎日通ったのですよ。
真冬だというのに、薄い上着一枚で寒い寒いって言いながら」
アリアの補足にくすくす笑いが起こった。
確かに綺麗だ。
シェリーも見せもの小屋の中を眺めて笑う。
「もう一つお聞きしてもよろしいですか」
先ほど親と一緒に入ってきた男の子が手を挙げた。
グラントが幻を片付けて促す。
「私は一つだけ魔法が使えます」
子どもたちがそちらを見た。
どんな魔法なのか興味がある。
「風が起こるだけの、魔法なんです」
見せられるようなものはない。
その子は顔を赤くした。
「これをどうしたらいいのか分からないのです。
魔法を習った方がいいですか?
それともこれだけのこととして剣を習った方がいいですか?」
「どのくらいの風が起こるの?」
グラントは杖を傍に置いて尋ねる。
男の子は両手のひらを上にして広げた。
そよ風程度の風が体の周りに起こる。
それだけで子どもたちはすごいと言った。
当人は困った顔をしている。
「思ったように強くなったりはしないのです。
今のところ、風呂上がりに涼しくなる魔法でしかなくて……」
ささやかな使い道に笑い声が上がった。
「強くして、どう使いたいの?」
首を傾げて、グラントは聞く。
「それは、戦いで敵を倒せたら…」
彼は小さな騎士として真面目に習っているのだ。
すでに何年か剣を習っている大きい男の子たちは理解できるというように頷いている。
「魔法は使う者の捉え方によって異なるんだ。
君が初めて風が起こると気づいたのはどんな時だったかな?」
男の子はしばらく考えた。
「暑い日です。
風が吹いたらいいのにと思いました」
「それなら、君の魔法はまだ武器ではないね」
グラントはその男の子のそばに行って手を差し出す。
何か掴む動きをした時、風が急に止んだ。
「風の精霊はたくさんいるんだけど、見たことあるかな?
君の友だちはとても小さい」
グラントが両手を開いた。
小さな精霊が二人いる。
子どもたちが歓声を上げて頭を寄せた。
突然見破られた風の精霊は怖がって身を竦めている。
同じ顔をしていた。
双子なのだ。
「この子の魔力が気に入って、近くにいたんだろう?」
魔法使いの質問に、精霊たちは何度も頷く。
グラントはその二人を男の子に渡した。
「君は風の精霊と仲良くなれる魔法使い。
一度いると分かれば、これからたくさん見るようになるよ。
人間の友だちが増えるように、精霊の友だちも増える。
彼らと一緒に戦うかどうかはそのうち決まるのではないかな。
君が大きくなるにつれてどう望むかによるんだよ。
それまでは騎士を目指して剣を習うのもいいと思う」
他の子からも精霊が見えるようになれるか聞かれる。
向こうが姿を見せたいと思った時には、と答えた。
不思議な話をする会のはずが不思議なものに遭遇した。
時間が来て帰る子どもたちは、馬車に駆け込んでいく。
何を見たのか早く報告したかった。
風の精霊を使う男の子は、母が迎えに来た。
ダヴィがまた少し話して、すぐ馬車に乗り込んでいった。
「グラントの魔法は武器なのかい?」
馬車を見送りながらダヴィが聞く。
「いいえ」
意外なほどきっぱりした答えがきた。
「わたしの魔法は、ただの事象です。
ジェロディの魔法は武器です。
わたしたちは扱い方の根本が違っています」
「彼はもともと軍人だから?」
「それもあるかもしれません」
グラントは図書館の敷地を出ていく馬車を見つめる。
侯爵家の紋章がついていた。
「わたしたちは同じものを見て魔法使いになったんです。
だけど違う魔法使いになった。
やはり使い手の望み方なんでしょう」
「同じもの?」
ダヴィが面白そうに聞く。
グラントは小さく笑った。
「祖父です。溶岩の魔物。
ジェロディは子どもの頃に祖父を見たことがある。
魔法使いになるならああなりたいと思ったそうです。
それはわたしも同じだったはずなのですが……。
わたしの魔法は武器ではありません」
「魔法って興味深いものだね」
穏やかに言う王子に、グラントは杖を掲げる。
「差し上げましょうか? 魔法を」
ダヴィは黒い石を見つめた。
魔法を授ける精霊、エニ。
本で読んで知ってはいる。
もともと幽霊のようにさすらっては偶然出会った人間に魔法を授けていた。
ひと騒ぎ起こした際に魔法使いに怒られて、石を棲家にするようになった。
ところが石からは自由に出入りすることが叶わなくなった。
エニは魔法使いの魔力を頼りに外界へ出てくる。
出てきた時には、人間にひとつ魔法を授ける。
そして、石の中で楽しむのだ。
魔法を授けたその後の話を。
「いらない」
ダヴィは首を振った。
「エニはきっと私には魔法をくれないよ」
「そんなことは……」
エニは寿命の短い人間には魔法を授けないことがある。
「私はね、一木で満足しているんだよ」
珍しく熱も出さずに何時間も外出しているのに、ダヴィは弱気なことを言った。
「誰かの人生の役に立ってみたかった。生きている間に。
いま、シェリーが頼ってきてくれて本当に嬉しい。
きっと私がいなくなっても彼女を支える柱はたくさんあるけど。
その一木になれて、満足だから」
さっぱりとした口調だった。
「私にはいらないよ」
なんだか楽しそうな響きのする会だ。
希望のあった一年生から五年生までの子どもたちが、学校帰りにやってくる。
本日、運よく体調が良いダヴィは、昼前にバレットに寄った。
ランチを用意したから、薬草園で一緒に食べようと誘いに来たのである。
既に来ていたシェリーとアリアと受けた。
屋根がガラスでできている薬草園は暖房がいらないくらい暖かい。
第一王子殿下と四人で囲むテーブルというのは、なんとも贅沢。
アリアは行儀よく一人でベンチに座っていた。
食後には摘みたての葉で淹れたお茶が出てきた。
ここで採ったらしい。
時々風が回ってきて、薬草の香りがする。
「どんな病も治りそうな薬草の数ですね」
見入ってしまうグラントにダヴィは頷いた。
「集めるのに二十年以上かかっている。
それでも全ての薬草という訳じゃないんだ。
育てられずに枯らしてしまった植物もたくさんあるよ」
「殿下のお薬もここから作るのですか?」
「そう。売るほどあるから」
実際、この中で一般に売れそうなものは店に卸されている。
エリンのお店のように。
アリアが足の下にあてがってもらった台を踏みながら辺りを見回している。
台の面がふわふわしていて心地よいようだ。
シェリーに周囲の様子を見せる。
薬草の庭園を興味深そうに観察した。
「グラントはどうして幻術を使い始めたの?」
ダヴィに聞かれ、あまり格好のいい理由から始めたわけではないことを思い出す。
「隠れるためです」
彼らしい理由にアリアは小さく笑った。
「ここへ来る道中、夜の森は怖かったんです。
わたしはまだ戦えなかった。だから魔法で隠れることにしました」
「どうやって動物から隠れるの?」
ダヴィは興味深そう。
「擬態です。樹木や石などに似せて、自分の周りを覆うのです。
そうすると、中にいる限りこの世の全てのものから隠れられます」
「中にいる者の気配はもれないのかい?」
「もれません」
「それを幼い頃に考えついたの?」
「祖母が似たような魔法を使います」
もっと攻撃的だけれども。
「グラントは家族全員が魔法を使えた?」
「いいえ。父は普通の人間で、学者でした。
おそらく植物の研究をしていた」
時が経ちすぎて覚えていない。
よく図鑑の間に葉が挟んであった。
「もうほとんど覚えておりません」
今はそのことが特に悲しいわけでもない。
ないものはない。それだけだ。
「シェリーの魔法はどういうふうに変身するものなの?」
ダヴィに尋ねられ、シェリーは首を振った。
アリアの本を得て自由に変身できるようになったが、仕組みなど説明できない。
「魔法は不思議ではないんだよ」
魔法使いでもないのに、ダヴィはそのことを知っている。
グラントは驚きを持って彼を見た。
「もちろん不思議な力が根底ではあるけど。
発現する現象には理があるようだ。
使う方がそれを知るのと知らないのでは雲泥の差が開く。
……って、本にあった」
最後は子どものように笑う。
図書館の方から職員が呼びにきた。
子どもたちが来はじめたと教えてくれる。
一年生から五年生までの貴族の子どもたちが部屋に集まってきた。
好きなクッションを取って座っている。
入り口につけた馬車から子どもだけ飛び出してくることが多かった。
一人だけ、騎士と婦人が子どもと下りる。
ダヴィは彼らを出迎えて、グラントとシェリーを紹介した。
騎士の方はダヴィの同級生で、婦人はその妹。
子どもは三年生の男の子だ。
騎士を目指しているらしく、小さな剣を帯びている。
この後すぐ習い事があるという。
友人たちは言葉を交わしてすぐに馬車へ戻った。
子どもたちの選りすぐった不思議な話は楽しかった。
アリアも笑っていたから、世代を越えて楽しい話だったのだ。
定番の、魔物が人間を騙そうとする話。
精霊が悪戯する話。
自分の家の影に何か住んでいると思う体験談まで。
アリアが本の精霊だというので、みんな話を聞きたがった。
本当に怖い話も知ってはいたが、読み聞かせたのは少し穏やかな怖い話。
精霊が大人数で攫ってきた娘を泥棒が偶然行きあって助ける話だった。
最後に泥棒が仕返しにあってしまうことは伏せた。
グラントが魔法使いだというので、今までに見た一番すごい魔法は何だったと聞かれた。
「……」
アリアとしばらく視線を合わせる。
子どもに見せられる範囲ですごいと思う魔法。
「火を灯す魔法、かな」
グラントは杖を握った。
あたりに天幕がかかったように暗くなる。
そこは見せもの小屋の中だ。
魔法使いが小屋の中に張られた線の上の蝋燭に順番に火を灯していくという。
それだけの演目だった。
「この人は二十年かけて習得したのが蝋燭に火をつけるという魔法一つだけだった」
蝋燭の火は次々に色を変える。
熱の力で勝手に回り出したり、ふらふらと空間を漂い出したりした。
小さな妖精でも舞っているかのような光景だ。
子どもたちは思わず見入っている。
「火は混ぜ物によって色が変わる。
台座の形を工夫すれば、熱の力で動き出す。
この魔法使いは自分の魔法をよく研究して、使いこなしていた。
だからわたしはこの魔法はすごいと思う」
「グラントはこの人が都にいる間、毎日通ったのですよ。
真冬だというのに、薄い上着一枚で寒い寒いって言いながら」
アリアの補足にくすくす笑いが起こった。
確かに綺麗だ。
シェリーも見せもの小屋の中を眺めて笑う。
「もう一つお聞きしてもよろしいですか」
先ほど親と一緒に入ってきた男の子が手を挙げた。
グラントが幻を片付けて促す。
「私は一つだけ魔法が使えます」
子どもたちがそちらを見た。
どんな魔法なのか興味がある。
「風が起こるだけの、魔法なんです」
見せられるようなものはない。
その子は顔を赤くした。
「これをどうしたらいいのか分からないのです。
魔法を習った方がいいですか?
それともこれだけのこととして剣を習った方がいいですか?」
「どのくらいの風が起こるの?」
グラントは杖を傍に置いて尋ねる。
男の子は両手のひらを上にして広げた。
そよ風程度の風が体の周りに起こる。
それだけで子どもたちはすごいと言った。
当人は困った顔をしている。
「思ったように強くなったりはしないのです。
今のところ、風呂上がりに涼しくなる魔法でしかなくて……」
ささやかな使い道に笑い声が上がった。
「強くして、どう使いたいの?」
首を傾げて、グラントは聞く。
「それは、戦いで敵を倒せたら…」
彼は小さな騎士として真面目に習っているのだ。
すでに何年か剣を習っている大きい男の子たちは理解できるというように頷いている。
「魔法は使う者の捉え方によって異なるんだ。
君が初めて風が起こると気づいたのはどんな時だったかな?」
男の子はしばらく考えた。
「暑い日です。
風が吹いたらいいのにと思いました」
「それなら、君の魔法はまだ武器ではないね」
グラントはその男の子のそばに行って手を差し出す。
何か掴む動きをした時、風が急に止んだ。
「風の精霊はたくさんいるんだけど、見たことあるかな?
君の友だちはとても小さい」
グラントが両手を開いた。
小さな精霊が二人いる。
子どもたちが歓声を上げて頭を寄せた。
突然見破られた風の精霊は怖がって身を竦めている。
同じ顔をしていた。
双子なのだ。
「この子の魔力が気に入って、近くにいたんだろう?」
魔法使いの質問に、精霊たちは何度も頷く。
グラントはその二人を男の子に渡した。
「君は風の精霊と仲良くなれる魔法使い。
一度いると分かれば、これからたくさん見るようになるよ。
人間の友だちが増えるように、精霊の友だちも増える。
彼らと一緒に戦うかどうかはそのうち決まるのではないかな。
君が大きくなるにつれてどう望むかによるんだよ。
それまでは騎士を目指して剣を習うのもいいと思う」
他の子からも精霊が見えるようになれるか聞かれる。
向こうが姿を見せたいと思った時には、と答えた。
不思議な話をする会のはずが不思議なものに遭遇した。
時間が来て帰る子どもたちは、馬車に駆け込んでいく。
何を見たのか早く報告したかった。
風の精霊を使う男の子は、母が迎えに来た。
ダヴィがまた少し話して、すぐ馬車に乗り込んでいった。
「グラントの魔法は武器なのかい?」
馬車を見送りながらダヴィが聞く。
「いいえ」
意外なほどきっぱりした答えがきた。
「わたしの魔法は、ただの事象です。
ジェロディの魔法は武器です。
わたしたちは扱い方の根本が違っています」
「彼はもともと軍人だから?」
「それもあるかもしれません」
グラントは図書館の敷地を出ていく馬車を見つめる。
侯爵家の紋章がついていた。
「わたしたちは同じものを見て魔法使いになったんです。
だけど違う魔法使いになった。
やはり使い手の望み方なんでしょう」
「同じもの?」
ダヴィが面白そうに聞く。
グラントは小さく笑った。
「祖父です。溶岩の魔物。
ジェロディは子どもの頃に祖父を見たことがある。
魔法使いになるならああなりたいと思ったそうです。
それはわたしも同じだったはずなのですが……。
わたしの魔法は武器ではありません」
「魔法って興味深いものだね」
穏やかに言う王子に、グラントは杖を掲げる。
「差し上げましょうか? 魔法を」
ダヴィは黒い石を見つめた。
魔法を授ける精霊、エニ。
本で読んで知ってはいる。
もともと幽霊のようにさすらっては偶然出会った人間に魔法を授けていた。
ひと騒ぎ起こした際に魔法使いに怒られて、石を棲家にするようになった。
ところが石からは自由に出入りすることが叶わなくなった。
エニは魔法使いの魔力を頼りに外界へ出てくる。
出てきた時には、人間にひとつ魔法を授ける。
そして、石の中で楽しむのだ。
魔法を授けたその後の話を。
「いらない」
ダヴィは首を振った。
「エニはきっと私には魔法をくれないよ」
「そんなことは……」
エニは寿命の短い人間には魔法を授けないことがある。
「私はね、一木で満足しているんだよ」
珍しく熱も出さずに何時間も外出しているのに、ダヴィは弱気なことを言った。
「誰かの人生の役に立ってみたかった。生きている間に。
いま、シェリーが頼ってきてくれて本当に嬉しい。
きっと私がいなくなっても彼女を支える柱はたくさんあるけど。
その一木になれて、満足だから」
さっぱりとした口調だった。
「私にはいらないよ」
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