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くずれゆく森
実体のない王冠
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ジャックスが王の代行として外の領地を巡っている。
まだ夏も終わっておらず、収穫の時期でも何でもない。
大混乱の都の民から隠れるためではないかと噂された。
市場で奥様方と話しこんでから、グラントは城壁を出る。
アリアがもうひと月近く出てきていないのが気がかりだ。
本体が綺麗な状態なので精霊の身に何か危険が迫っているのではなさそう。
シェリーは引き続きダヴィの館に滞在していた。
伯父のそばにいられるのでその方がいい。
シェリーの目はゆっくりと見えるようになってきているようだった。
今までは明暗くらいしか判別できなかったものが、形が見え始めている。
グラントと同じくらいの背丈の兵士の見分けは難しい。
もしヴァルト公が登城しても決して姿を見られないように。
念を押して出てきた。
グラントはラグラスで王を出迎えるために一度帰るのだ。
その道すがら、ジョニール領を通る。
今年の収穫の状況を聞かなければならなかった。
都の混乱の訳。
それは、大きな規則の改定にある。
課税対象者が激増した。
店舗を構える店主たちから利益に応じて、借り上げ店舗では定額の営業税がかけられた。
さらに魔物を雇う店主には営業管理税が加わる。
産業省と商人たちを最も混乱せしめたのは、免許税だ。
業種をいちいち役所に届け出ないとさらに保証金が求められる。
登録代としての免許税なのだ。
そして、これから男子は十八歳から二七歳までの間に二ヶ月、どこかで兵役に就かねばならない。
希望制から義務へと変わった。
今年の納税から始める。
訓練を丸投げされた各騎士団や兵団は大わらわである。
希望の時期は秋からの二か月に集中した。
それはそうだ。
真冬の訓練をできる土地は限られる上、行き帰りの道が塞がれては結局春まで帰れなくなる。
騎士団の人気はバロールかクイルが高かった。
民間の兵団の希望者はバレットに集まっている。
バレットは民間の兵団で唯一、給料が出るからだった。
「銅貨一枚はばかになりませんよ……っ」
こちらも内臓にだいぶ負担がかかっているポーターが叫んだ。
二ヶ月間の日給に乗ずること希望者およそ八千人。
「経費が……! 売上を超えます! は……!」
破産、なんてとても口に出せない。
深傷を負った家令は何かが飛び出しそうなのか口元を抑えた。
「ラグラスは冬の交通ができる。
他のところのように秋口に集中しないからきっと大丈夫。
落ち着いて。きっとなんとかなるから。ね、ポーター」
慌てて宥めるが、大した効果は望めない。
グラントにも通知が届いてるって言えなかった。
いま言ったら倒れそうだ。
役所に問い合わせたら間違いないと返されたのだ。
兵役はどこの騎士団でも可能。
受け入れてくれさえすればどこにでも二ヶ月間所属できる。
シュトラールで訓練らしいことをできる人数は多くない。
ラグラスで残りを引き取るなら大変な人口移動になる。
相談しようとしたのに、ロミーもセスもこんな時には会ってくれなかった。
豪商の兵団ティトの団長トニー・ヴィゴルが面会を申し込んで来てくれて、即日会った。
そこでグラントはヘイゼルのことを聞いた。
課税の開始時期について猶予を求めたヘイゼルら中堅の豪商が投獄されている。
保釈金が莫大な上に、貿易税を来期まで二倍にすると言い渡された。
それでは利益はほとんど残らない。
「誰がそんな乱暴なことしたんです?」
驚いて尋ねた。
ジャックスが直々に話し合うと言った席でのことらしい。
王との会議に臨んだはずが、その場で逮捕されてしまったのだ。
「資産のことはまあ、いいんだよ」
ジェロディくらいの年齢のトニーは髭面の下の口を歪めた。
「喫緊の問題は彼らの身の安全だ。
牢獄で他の犯罪者と一緒にされている。
期間は短いが、その間に諍いでも起きたらと思うとね」
商売の規模が大きい。
突然かしらを失っては、国内の経済はさらに混乱する。
トニーはその影響の方を心配していた。
グラントは牢獄の中の人へ頼んでみると申し出る。
ティトがラグラスへの物資を支援してくれることになった。
急な変化は疲弊と反感を招く。
外の負担を軽くするためかな。
牢獄の警吏に頼んでフィンに届け物をしておいた。
薄い本だった。
新入りに優しくと手紙を添えた。
本にはメモ書きをしておいた。
フィンの財産は取っておいてある。
保管場所を記した。
ヘイゼルたちには毛布や着替えを差し入れした。
他の豪商からもすでにたくさん届いている。
ジョニールでは去年ほどではないものの良作の見込みである。
クラルスの見立てにグラントは小さく笑みを見せた。
急に短くなった日に急かされて葡萄の世話をしている。
「こちらにはすでにジャックス陛下がおいでになりましたか?」
ジョニールは都から近い。
グラントの質問に領主は頷いた。
「よろしくねって、挨拶して、1泊して行かれたよ。
グラントのバレルに取り憑いてもらった樽を供した。
いたく気に入られて、今年の分もいくつか納めることになったよ」
「時期になったらバレルをよこします」
今年の収穫が終わるのは根雪の直前になりそうだ。
そのような話をして、夕闇の中を出ようとする。
「行くのかい? 泊まってお行き。もう暗くなるよ?」
ジョニール公が引き止めた。
「去年のこの時期だよ。ほら、舞踏会の前。
森のベリーも豊作だった。
妻は大喜びで欲張って、いつもは行かないところまで行って風邪を引いたんだ。
気候が普段と違ったせいか、初めて見る木があって棘が刺さったとも言ってた。
私はそんな木に出会ったことがないんだが。
そんな危ない木も生えてるんだ。真っ暗闇を行くのは危ないよ」
馬に乗るのをやめて振り向く。
ジョニール公は本当に心配している表情だ。
「突然おかしなことを聞きますが、よろしいですか?」
クラルスは不思議そうに頷く。
「奥様は、魔法が使えますか?
または亡くなった人の魂や精霊などを見る方ですか」
「魔法はないよ。時々不思議なことを感じたりする人ではある。
ただし何か感じたり察知したりする程度だよ」
勘が鋭いってやつだね、とひとり合点した。
グラントは丁寧に領主の前を辞して領地を出る。
昨夏にすでにあの木が生えていた。
ウィラードが兵を進めようとしていたその半年前。
その時すでにあったとしたら。
「じじい、わたしは半輪ではないよ。
物事の半分も見えていない……」
自嘲の息が漏れた。
ウィラードについて、恐ろしい推論がたった。
それは矛盾なく事象の真ん中を貫いている。
そう思えた。
「そんなことをする理由は、何なんだろう」
速度を落として進む馬上でひとり呟く。
西の山の大きさとリビーで大体の位置は分かった。
崖が多くなってくる。
足元に気をつけて進めば平気だ。
ホルスト卿が亡くなったのは、二年前。
その後すぐ子息も亡くなられた。
祖父は陰謀に負けたと固く信じていたウィラード。
ヘーレ公の父上が亡くなったのもその年だ。
偶然だろうか?
ジョニールから南へ向かう道を変えた。
まっすぐ西の山へ。
ヘーレ領の近くへ。
行ってみることにした。
ヘーレの標高は高い。
西の辺境領は初めて近づく。
魔物も大きな動物も生息している地域だ。
ひとりでおつかいにくるのはさすがに危険すぎる。
領地の境界には立派な街道ができていた。
馬車が二台並んで走れるような幅がある。
山脈に沿って細長いヘーレ領の全部に通っているならすごい。
一大事業だったに違いなかった。
不遇に処されていた間も続けていたなんて、根気の良さが桁外れである。
その街道を南へ向かっていくと、森の中に見慣れない城が見えた。
ラグラスの山から流れてくる川より西側。
ヘーレ側にある。
崖の上に立つ青みがかった石の色の立派な城だ。
ずいぶん森が入り込んでいる。
自給のための畑や家畜などは見えなかった。
「ヴァルト……」
谷に挟まれて川の中洲のような場所に建つ。
そうだ。こんな地形なら、ヘーレを頼る。
交易も情報のやり取りも、海側に行くよりヘーレを越えて外国へ出た方が早い。
この立派な街道を通って、北から外へ出ることも可能だ。
バルトサールの居城はどこか分からなかった。
似たような立派な館が一定の間隔で建っている。
コーマックのところと同じような領地の運営をしている。
あの館は、物見塔と招客の両方の役割を兼ねるもの。
昼過ぎに川の方へ下りようと街道を逸れかけた。
ヘーレ領の森の途切れ方に違和感を覚える。
草が生えていて見えにくいが、石の溝が街道に接続されていた。
排水溝かとも思ったのだが。
ふと、ウーシーの顔が浮かんでしまった。
かっこいい、作りたいとはしゃぐ友達の顔。
移動式兵器。
ウーシーは高炉を入手したことで軌道を敷いた。
もしなければこういった溝を作ったのではないか。
グラントは戻って一つ前の森の切れ目を確かめる。
五千歩ほどの距離にあった。
溝がヘーレ領の中心から伸びてきて道へ接続されている。
馬でさらに先へ行くと、同じ間隔でまた溝があった。
不穏な感じにすぐ街道を離れる。
崖沿いをつづら折りに進んでヴァルトを迂回しようとした。
足元の地面を縫うように出た木の肌を見て、馬を止める。
「本当に子株なの?」
思わず問いかけた。
図書館で解説されていた子株の比ではなかった。
大きい。
根のような様子でいるが、これは枝だ。
幹があるのはきっと城の方。
養分を捕らえるためか、領地の防衛のためにか、ここまで伸びてきている。
森の中の薮に紛れて堂々と棘を出しているのもあった。
ここからがヴァルトの領地。
グラントは道を引き返す。
ヘイゼルの油井を目指した。
森でもう一泊して油井に辿り着いた。
「グラントだ!」
ウーシーの声が聞こえて不覚にもほっとする。
鉄道の駅から森の道へ走ってきた。
ここは少し前まで組み上げポンプと倉庫が一つしかなかった。
半年の間にシュトラールくらいの大きさの町のようになっている。
「一緒に機関車で帰る? グラントが荷を積んだらすぐ出れる」
「はい」
魔物や獣から隠れて帰ってきた親友にこの態度。
それがウーシーだった。
倉庫から石油の樽を貨車へ積む。
鉄砦の最近の様子を聞いた。
次の春に成人する見習い修道士の子が、ラガー作りを習得した。
来年からは仕事を任せようと思っている。
石炭の坑道が近頃不安定だ。
弱っているところを確認してほしい。
「あのさ、ラーポが伯爵領を回ってて不思議がってたんだよ」
「うん?」
会話の合間に何樽積むのと確認したら三十ときた。
「今年、納税の準備なんかしてない伯爵が多いんだって」
「新しい課税制度のせい?」
「そうなのかなあ? 都はどう?」
少し考えて、グラントは首を振る。
「みんなやってる。胃の腑の薬を飲みながら計算してる」
「そうだよねえ? 外の伯爵領は、むしろ税率が下がったんだ。
一年間の交易にかかる税金を半分にするって。
得なはずなんだけど、誰も会計士を雇ったりしてない」
「書類は、暦が終わるまでに出せばいいからねえ」
「うーん……」
なんだか二人とも釈然としないまま樽を積み終えた。
機関車に乗り込んで、グラントはやっと落ち着いて座る。
隣に座ったウーシーは城の様子を話した。
城の城下町は山の中腹まで整備が進んでいる。
幕壁は綺麗になった。
ウーシーはエルネストとオークと一緒に大砦の修復を終わらせている。
砦の屋上に大きな投石機を設置した。
「ウーシーがちゃんとしてる」
唖然としてしまう。
親友は愉快そうに笑った。
「グラントがいないから、面白いことが実行に移せない」
「悪友みたいに言わないで」
「真面目に言ってる」
海砦に到着したら夜半だった。
ダルコが飲み屋から歩いてきて砦に泊まるよう誘う。
兵舎でレイに連絡をつけたいと言ったら、何人かが頼まれてくれた。
このひと月の次第を大まかに記してやる。
陸に戻ってすぐ動いてもらいたかった。
シェリーのことや、父親のこと、メイソン卿のこと。
都で起こった変化を。
船で卒倒しなきゃいいな。
そんな気持ちで使者を見送った。
「兵役の話は? ラグラスにも通知は届いた?」
ダルコに聞いてみたら、まだ届いていないらしい。
「きっと、代行が持って来るのさ」
軽く言う海砦の頭領に、グラントは大変心苦しい数字を教えた。
「今バレットでは途方もない人数の申し込みを受けてる。
わたしが都を出る前にすでに八千人の希望者があった。
うちは雇用者に日当を払う方針だ。
実働日一日につき銅貨一枚。それを二ヶ月分」
ほう、と、二人の頭領はまだ実感が湧かない。
「ラグラスの兵役対象者はおよそ百五十人。
彼らにも無論賃金を出す。
賃金だけじゃない。冬の間の食料と燃料を確保しなきゃ。
春までの間、総じて八千人分をラグラスで」
「この冬からここに移動してくるの?」
やっと意味が分かったウーシーが身を乗り出した。
「今年の納税からっていうから罰金を避けるために人が殺到してる。
シュトラールじゃ訓練と認められる活動ができない。
一部はそちらに置くけれど、ほとんどラグラスに来ることになる」
「えーっと……。宿舎も、足りないね?」
「うん。最初の組はそれを作るところから始めるのかな。
兵団ティトが物資の支援をしてくれることにはなってる」
思案顔をしていたダルコがかぱっと口を開く。
「沈没船の引き揚げ作業は訓練になるか?」
「宝探し?」
ウーシーが楽しげに顔を明るくした。
「そんなもんかな。海賊船や、外国船の引き揚げに海の上へ連れ出すんだ。
船の扱いも覚えるし、体力も使う。寝泊まりだって船上で済む。
天候や天文なんかも詳しくなる」
「船に残された宝は自分たちのもの?」
夢のある質問をウーシーは投げかける。
ダルコは頷きかけて、グラントを見た。
領主はちょっと渋い顔をしている。
「船に元の所有者の証があれば、その国に通達する義務がある。
たとえ何百年前でもね。
海の条約に詳しい弁護士をまず探そう」
そうは言っても、と、言葉の終わりにグラントは笑った。
「いいね、宝探し。船に何人詰め込もうか」
案を採用してもらえてダルコは大きく笑みを広げる。
「だろ? 船の作業は危険だからな。海の藻屑に賃金はいらないんだろ?
いいことずくめだ」
「それは良くない」
「できるだけ安全にやるさ」
ダルコに人間を任せる時はちょっと不安がつきまとう。
「百年近くかけて俺が沈めた船がこの湾に沈んでる。
そいつらを引っ張り上げるだけだ。それなら危険は少ないな?」
「……」
危ないものが出ないことを祈るしかない。
ジャックスはリケから船でラグラスへやってきた。
港で出迎えた領民を無関心な顔で素通りした。
浜辺の迎賓館に入った後は領地のどこも見に行かない。
疲れたと到着早々休んでいた。
「船酔いされましたか?」
応接間へは侍従の一人が兵役の通達者と共にやってきた。
「そのようです」
レミーがついて来ていない。
彼は所用ということだ。
グラントは侍従が挨拶で労ってくれるのを静かに聞いた。
頭領たちも黙って座している。
兵役の担当者からバレットへの希望者の訓練地はラグラスかと確認があった。
その通りであると答える。
「これは非公式のお話ですが」
侍従が淡々と話した。
「今年の納税の際には、各領主より寄付を受け付けます」
ラーポがぴくっと眉を動かす。
「寄付とは」
「領地での余剰収益から、二割ばかりを目安に。
王宮で直に王に献上することができます」
特典みたいに言った。
「収益の二割とは、交易税のみの時より出費が大きくなりますが」
エルネストが落ち着いて尋ねる。
テーブルの下ではラーポを制していた。
「左様でございますか」
侍従は少しも顔色を変えない。
これを告げるために領地をまわっていたとは。
驚いた。
急に政治に介入し出したと思ったら、財を蓄えに動いていたのだ。
その後、侍従たちはちゃんと仕事をした。
ラグラスを端まで見て帰った。
大砦から鉄砦にかけての兵器の多さに注意を受けた。
ウーシーは不満顔をする。
反乱の可能性と見られたくなかったらもう少し数を減らすようにと睨まれた。
お世話を頼んだ領民によると、ジャックスは夜は体調が回復したらしい。
「ちゃんとお菓子は食べていったさ。
お土産に持って帰るほど気に入ってたよ」
船を見送った港でそのような報告を受けた。
主城で、落ち着いたラーポとエルネストに先週時点での希望人数を伝える。
大カラスはひっくり返りそうになっていた。
「八千……」
「一気に来る訳じゃないんだよ。
まずはあくる月から千五百人ずつ。三月以降は入れ替わる。
都から物資の援助も届くから」
ダルコが海砦で面倒を見る手筈を伝える。
「……、では、初月ダルコに五百人預けて、残りは一千。
主城で何か作業はあるか、エルネスト」
ラグラスの帳簿をグラントに示していた盾の精霊は落ち着いて言う。
「武器の手入れをさせたい」
彼の言う手入れとは、おそらく試弾も含まれていた。
「鉄砦では引き取れそうか」
「厳しいよ。新しい職人が来たばかりだ」
「では残りは森で引き受ける。薪をとってもらいたい」
「ヘイゼルさんが作ったような客人街。
あれを一定間隔で海砦から森砦、主城へと配置できる?」
グラントが言うのにラーポは可能であると返事する。
「外来者の待機と監視や有事の防衛、攻撃の拠点にするのですね?」
「そう。ノルトエーデにも、ヘーレにもそういった建物がある」
主城または海砦を起点に森砦を経由して回る仕組みを構築した。
「一気に貨幣をかけてやると破産だな。
ダルコ、沈没船の中に銅貨があったらもらえるか?」
エルネストが真剣に言った。
応じそうなダルコをグラントが止める。
「日当は日々渡すのではなくて、兵役終了後のまとめ払いにしておいて。
帳簿には全額仮払いで経費計上して。あとは会計士に任せる。
沈没船の物品については最初は触らないでおいて」
内緒でやってしまいそうな魔物を不安そうに見た。
なんだか怪しい顔のエルネストはダルコに言う。
「建材に使えそうなものを拾ったら、取り分けておいてくれ」
「おう。建材な。任せろ」
何か企んでいる。
「ところで、まさかとは思うんだけど、グラントは兵役に行かないよね?」
ウーシーが数を数えながら尋ねた。
二七歳という期限に何か引っかかっていたらしい。
「行くよ」
領主の言葉に全員唖然となった。
「なんで? 兵団持ってるのに」
「正式な訓練してないからって」
「ええ? バレットで訓練するの?」
「いや、ワルタハンガに」
「はあ? なんで? ラグラスで納めりゃいいよねえ?」
「わたしの給与を二ヶ月止めたら少しはマシかと思って」
人間たちの会話を聞く魔物たちが引いている。
「あの、鉱石の手元に主を遣わすのは反対です」
ラーポが真顔で述べた。
「あれだろ、俺たちが見張ってりゃいいんじゃねえか?」
「兵役の希望を今から出すか」
ダルコとエルネストがそれぞれ譲歩案を掲げる。
「心配いらないよ。親戚のお家に宿題やりに行くだけなんだから」
グラントはうっそりと答えた。
「仲良くやります」
まだ夏も終わっておらず、収穫の時期でも何でもない。
大混乱の都の民から隠れるためではないかと噂された。
市場で奥様方と話しこんでから、グラントは城壁を出る。
アリアがもうひと月近く出てきていないのが気がかりだ。
本体が綺麗な状態なので精霊の身に何か危険が迫っているのではなさそう。
シェリーは引き続きダヴィの館に滞在していた。
伯父のそばにいられるのでその方がいい。
シェリーの目はゆっくりと見えるようになってきているようだった。
今までは明暗くらいしか判別できなかったものが、形が見え始めている。
グラントと同じくらいの背丈の兵士の見分けは難しい。
もしヴァルト公が登城しても決して姿を見られないように。
念を押して出てきた。
グラントはラグラスで王を出迎えるために一度帰るのだ。
その道すがら、ジョニール領を通る。
今年の収穫の状況を聞かなければならなかった。
都の混乱の訳。
それは、大きな規則の改定にある。
課税対象者が激増した。
店舗を構える店主たちから利益に応じて、借り上げ店舗では定額の営業税がかけられた。
さらに魔物を雇う店主には営業管理税が加わる。
産業省と商人たちを最も混乱せしめたのは、免許税だ。
業種をいちいち役所に届け出ないとさらに保証金が求められる。
登録代としての免許税なのだ。
そして、これから男子は十八歳から二七歳までの間に二ヶ月、どこかで兵役に就かねばならない。
希望制から義務へと変わった。
今年の納税から始める。
訓練を丸投げされた各騎士団や兵団は大わらわである。
希望の時期は秋からの二か月に集中した。
それはそうだ。
真冬の訓練をできる土地は限られる上、行き帰りの道が塞がれては結局春まで帰れなくなる。
騎士団の人気はバロールかクイルが高かった。
民間の兵団の希望者はバレットに集まっている。
バレットは民間の兵団で唯一、給料が出るからだった。
「銅貨一枚はばかになりませんよ……っ」
こちらも内臓にだいぶ負担がかかっているポーターが叫んだ。
二ヶ月間の日給に乗ずること希望者およそ八千人。
「経費が……! 売上を超えます! は……!」
破産、なんてとても口に出せない。
深傷を負った家令は何かが飛び出しそうなのか口元を抑えた。
「ラグラスは冬の交通ができる。
他のところのように秋口に集中しないからきっと大丈夫。
落ち着いて。きっとなんとかなるから。ね、ポーター」
慌てて宥めるが、大した効果は望めない。
グラントにも通知が届いてるって言えなかった。
いま言ったら倒れそうだ。
役所に問い合わせたら間違いないと返されたのだ。
兵役はどこの騎士団でも可能。
受け入れてくれさえすればどこにでも二ヶ月間所属できる。
シュトラールで訓練らしいことをできる人数は多くない。
ラグラスで残りを引き取るなら大変な人口移動になる。
相談しようとしたのに、ロミーもセスもこんな時には会ってくれなかった。
豪商の兵団ティトの団長トニー・ヴィゴルが面会を申し込んで来てくれて、即日会った。
そこでグラントはヘイゼルのことを聞いた。
課税の開始時期について猶予を求めたヘイゼルら中堅の豪商が投獄されている。
保釈金が莫大な上に、貿易税を来期まで二倍にすると言い渡された。
それでは利益はほとんど残らない。
「誰がそんな乱暴なことしたんです?」
驚いて尋ねた。
ジャックスが直々に話し合うと言った席でのことらしい。
王との会議に臨んだはずが、その場で逮捕されてしまったのだ。
「資産のことはまあ、いいんだよ」
ジェロディくらいの年齢のトニーは髭面の下の口を歪めた。
「喫緊の問題は彼らの身の安全だ。
牢獄で他の犯罪者と一緒にされている。
期間は短いが、その間に諍いでも起きたらと思うとね」
商売の規模が大きい。
突然かしらを失っては、国内の経済はさらに混乱する。
トニーはその影響の方を心配していた。
グラントは牢獄の中の人へ頼んでみると申し出る。
ティトがラグラスへの物資を支援してくれることになった。
急な変化は疲弊と反感を招く。
外の負担を軽くするためかな。
牢獄の警吏に頼んでフィンに届け物をしておいた。
薄い本だった。
新入りに優しくと手紙を添えた。
本にはメモ書きをしておいた。
フィンの財産は取っておいてある。
保管場所を記した。
ヘイゼルたちには毛布や着替えを差し入れした。
他の豪商からもすでにたくさん届いている。
ジョニールでは去年ほどではないものの良作の見込みである。
クラルスの見立てにグラントは小さく笑みを見せた。
急に短くなった日に急かされて葡萄の世話をしている。
「こちらにはすでにジャックス陛下がおいでになりましたか?」
ジョニールは都から近い。
グラントの質問に領主は頷いた。
「よろしくねって、挨拶して、1泊して行かれたよ。
グラントのバレルに取り憑いてもらった樽を供した。
いたく気に入られて、今年の分もいくつか納めることになったよ」
「時期になったらバレルをよこします」
今年の収穫が終わるのは根雪の直前になりそうだ。
そのような話をして、夕闇の中を出ようとする。
「行くのかい? 泊まってお行き。もう暗くなるよ?」
ジョニール公が引き止めた。
「去年のこの時期だよ。ほら、舞踏会の前。
森のベリーも豊作だった。
妻は大喜びで欲張って、いつもは行かないところまで行って風邪を引いたんだ。
気候が普段と違ったせいか、初めて見る木があって棘が刺さったとも言ってた。
私はそんな木に出会ったことがないんだが。
そんな危ない木も生えてるんだ。真っ暗闇を行くのは危ないよ」
馬に乗るのをやめて振り向く。
ジョニール公は本当に心配している表情だ。
「突然おかしなことを聞きますが、よろしいですか?」
クラルスは不思議そうに頷く。
「奥様は、魔法が使えますか?
または亡くなった人の魂や精霊などを見る方ですか」
「魔法はないよ。時々不思議なことを感じたりする人ではある。
ただし何か感じたり察知したりする程度だよ」
勘が鋭いってやつだね、とひとり合点した。
グラントは丁寧に領主の前を辞して領地を出る。
昨夏にすでにあの木が生えていた。
ウィラードが兵を進めようとしていたその半年前。
その時すでにあったとしたら。
「じじい、わたしは半輪ではないよ。
物事の半分も見えていない……」
自嘲の息が漏れた。
ウィラードについて、恐ろしい推論がたった。
それは矛盾なく事象の真ん中を貫いている。
そう思えた。
「そんなことをする理由は、何なんだろう」
速度を落として進む馬上でひとり呟く。
西の山の大きさとリビーで大体の位置は分かった。
崖が多くなってくる。
足元に気をつけて進めば平気だ。
ホルスト卿が亡くなったのは、二年前。
その後すぐ子息も亡くなられた。
祖父は陰謀に負けたと固く信じていたウィラード。
ヘーレ公の父上が亡くなったのもその年だ。
偶然だろうか?
ジョニールから南へ向かう道を変えた。
まっすぐ西の山へ。
ヘーレ領の近くへ。
行ってみることにした。
ヘーレの標高は高い。
西の辺境領は初めて近づく。
魔物も大きな動物も生息している地域だ。
ひとりでおつかいにくるのはさすがに危険すぎる。
領地の境界には立派な街道ができていた。
馬車が二台並んで走れるような幅がある。
山脈に沿って細長いヘーレ領の全部に通っているならすごい。
一大事業だったに違いなかった。
不遇に処されていた間も続けていたなんて、根気の良さが桁外れである。
その街道を南へ向かっていくと、森の中に見慣れない城が見えた。
ラグラスの山から流れてくる川より西側。
ヘーレ側にある。
崖の上に立つ青みがかった石の色の立派な城だ。
ずいぶん森が入り込んでいる。
自給のための畑や家畜などは見えなかった。
「ヴァルト……」
谷に挟まれて川の中洲のような場所に建つ。
そうだ。こんな地形なら、ヘーレを頼る。
交易も情報のやり取りも、海側に行くよりヘーレを越えて外国へ出た方が早い。
この立派な街道を通って、北から外へ出ることも可能だ。
バルトサールの居城はどこか分からなかった。
似たような立派な館が一定の間隔で建っている。
コーマックのところと同じような領地の運営をしている。
あの館は、物見塔と招客の両方の役割を兼ねるもの。
昼過ぎに川の方へ下りようと街道を逸れかけた。
ヘーレ領の森の途切れ方に違和感を覚える。
草が生えていて見えにくいが、石の溝が街道に接続されていた。
排水溝かとも思ったのだが。
ふと、ウーシーの顔が浮かんでしまった。
かっこいい、作りたいとはしゃぐ友達の顔。
移動式兵器。
ウーシーは高炉を入手したことで軌道を敷いた。
もしなければこういった溝を作ったのではないか。
グラントは戻って一つ前の森の切れ目を確かめる。
五千歩ほどの距離にあった。
溝がヘーレ領の中心から伸びてきて道へ接続されている。
馬でさらに先へ行くと、同じ間隔でまた溝があった。
不穏な感じにすぐ街道を離れる。
崖沿いをつづら折りに進んでヴァルトを迂回しようとした。
足元の地面を縫うように出た木の肌を見て、馬を止める。
「本当に子株なの?」
思わず問いかけた。
図書館で解説されていた子株の比ではなかった。
大きい。
根のような様子でいるが、これは枝だ。
幹があるのはきっと城の方。
養分を捕らえるためか、領地の防衛のためにか、ここまで伸びてきている。
森の中の薮に紛れて堂々と棘を出しているのもあった。
ここからがヴァルトの領地。
グラントは道を引き返す。
ヘイゼルの油井を目指した。
森でもう一泊して油井に辿り着いた。
「グラントだ!」
ウーシーの声が聞こえて不覚にもほっとする。
鉄道の駅から森の道へ走ってきた。
ここは少し前まで組み上げポンプと倉庫が一つしかなかった。
半年の間にシュトラールくらいの大きさの町のようになっている。
「一緒に機関車で帰る? グラントが荷を積んだらすぐ出れる」
「はい」
魔物や獣から隠れて帰ってきた親友にこの態度。
それがウーシーだった。
倉庫から石油の樽を貨車へ積む。
鉄砦の最近の様子を聞いた。
次の春に成人する見習い修道士の子が、ラガー作りを習得した。
来年からは仕事を任せようと思っている。
石炭の坑道が近頃不安定だ。
弱っているところを確認してほしい。
「あのさ、ラーポが伯爵領を回ってて不思議がってたんだよ」
「うん?」
会話の合間に何樽積むのと確認したら三十ときた。
「今年、納税の準備なんかしてない伯爵が多いんだって」
「新しい課税制度のせい?」
「そうなのかなあ? 都はどう?」
少し考えて、グラントは首を振る。
「みんなやってる。胃の腑の薬を飲みながら計算してる」
「そうだよねえ? 外の伯爵領は、むしろ税率が下がったんだ。
一年間の交易にかかる税金を半分にするって。
得なはずなんだけど、誰も会計士を雇ったりしてない」
「書類は、暦が終わるまでに出せばいいからねえ」
「うーん……」
なんだか二人とも釈然としないまま樽を積み終えた。
機関車に乗り込んで、グラントはやっと落ち着いて座る。
隣に座ったウーシーは城の様子を話した。
城の城下町は山の中腹まで整備が進んでいる。
幕壁は綺麗になった。
ウーシーはエルネストとオークと一緒に大砦の修復を終わらせている。
砦の屋上に大きな投石機を設置した。
「ウーシーがちゃんとしてる」
唖然としてしまう。
親友は愉快そうに笑った。
「グラントがいないから、面白いことが実行に移せない」
「悪友みたいに言わないで」
「真面目に言ってる」
海砦に到着したら夜半だった。
ダルコが飲み屋から歩いてきて砦に泊まるよう誘う。
兵舎でレイに連絡をつけたいと言ったら、何人かが頼まれてくれた。
このひと月の次第を大まかに記してやる。
陸に戻ってすぐ動いてもらいたかった。
シェリーのことや、父親のこと、メイソン卿のこと。
都で起こった変化を。
船で卒倒しなきゃいいな。
そんな気持ちで使者を見送った。
「兵役の話は? ラグラスにも通知は届いた?」
ダルコに聞いてみたら、まだ届いていないらしい。
「きっと、代行が持って来るのさ」
軽く言う海砦の頭領に、グラントは大変心苦しい数字を教えた。
「今バレットでは途方もない人数の申し込みを受けてる。
わたしが都を出る前にすでに八千人の希望者があった。
うちは雇用者に日当を払う方針だ。
実働日一日につき銅貨一枚。それを二ヶ月分」
ほう、と、二人の頭領はまだ実感が湧かない。
「ラグラスの兵役対象者はおよそ百五十人。
彼らにも無論賃金を出す。
賃金だけじゃない。冬の間の食料と燃料を確保しなきゃ。
春までの間、総じて八千人分をラグラスで」
「この冬からここに移動してくるの?」
やっと意味が分かったウーシーが身を乗り出した。
「今年の納税からっていうから罰金を避けるために人が殺到してる。
シュトラールじゃ訓練と認められる活動ができない。
一部はそちらに置くけれど、ほとんどラグラスに来ることになる」
「えーっと……。宿舎も、足りないね?」
「うん。最初の組はそれを作るところから始めるのかな。
兵団ティトが物資の支援をしてくれることにはなってる」
思案顔をしていたダルコがかぱっと口を開く。
「沈没船の引き揚げ作業は訓練になるか?」
「宝探し?」
ウーシーが楽しげに顔を明るくした。
「そんなもんかな。海賊船や、外国船の引き揚げに海の上へ連れ出すんだ。
船の扱いも覚えるし、体力も使う。寝泊まりだって船上で済む。
天候や天文なんかも詳しくなる」
「船に残された宝は自分たちのもの?」
夢のある質問をウーシーは投げかける。
ダルコは頷きかけて、グラントを見た。
領主はちょっと渋い顔をしている。
「船に元の所有者の証があれば、その国に通達する義務がある。
たとえ何百年前でもね。
海の条約に詳しい弁護士をまず探そう」
そうは言っても、と、言葉の終わりにグラントは笑った。
「いいね、宝探し。船に何人詰め込もうか」
案を採用してもらえてダルコは大きく笑みを広げる。
「だろ? 船の作業は危険だからな。海の藻屑に賃金はいらないんだろ?
いいことずくめだ」
「それは良くない」
「できるだけ安全にやるさ」
ダルコに人間を任せる時はちょっと不安がつきまとう。
「百年近くかけて俺が沈めた船がこの湾に沈んでる。
そいつらを引っ張り上げるだけだ。それなら危険は少ないな?」
「……」
危ないものが出ないことを祈るしかない。
ジャックスはリケから船でラグラスへやってきた。
港で出迎えた領民を無関心な顔で素通りした。
浜辺の迎賓館に入った後は領地のどこも見に行かない。
疲れたと到着早々休んでいた。
「船酔いされましたか?」
応接間へは侍従の一人が兵役の通達者と共にやってきた。
「そのようです」
レミーがついて来ていない。
彼は所用ということだ。
グラントは侍従が挨拶で労ってくれるのを静かに聞いた。
頭領たちも黙って座している。
兵役の担当者からバレットへの希望者の訓練地はラグラスかと確認があった。
その通りであると答える。
「これは非公式のお話ですが」
侍従が淡々と話した。
「今年の納税の際には、各領主より寄付を受け付けます」
ラーポがぴくっと眉を動かす。
「寄付とは」
「領地での余剰収益から、二割ばかりを目安に。
王宮で直に王に献上することができます」
特典みたいに言った。
「収益の二割とは、交易税のみの時より出費が大きくなりますが」
エルネストが落ち着いて尋ねる。
テーブルの下ではラーポを制していた。
「左様でございますか」
侍従は少しも顔色を変えない。
これを告げるために領地をまわっていたとは。
驚いた。
急に政治に介入し出したと思ったら、財を蓄えに動いていたのだ。
その後、侍従たちはちゃんと仕事をした。
ラグラスを端まで見て帰った。
大砦から鉄砦にかけての兵器の多さに注意を受けた。
ウーシーは不満顔をする。
反乱の可能性と見られたくなかったらもう少し数を減らすようにと睨まれた。
お世話を頼んだ領民によると、ジャックスは夜は体調が回復したらしい。
「ちゃんとお菓子は食べていったさ。
お土産に持って帰るほど気に入ってたよ」
船を見送った港でそのような報告を受けた。
主城で、落ち着いたラーポとエルネストに先週時点での希望人数を伝える。
大カラスはひっくり返りそうになっていた。
「八千……」
「一気に来る訳じゃないんだよ。
まずはあくる月から千五百人ずつ。三月以降は入れ替わる。
都から物資の援助も届くから」
ダルコが海砦で面倒を見る手筈を伝える。
「……、では、初月ダルコに五百人預けて、残りは一千。
主城で何か作業はあるか、エルネスト」
ラグラスの帳簿をグラントに示していた盾の精霊は落ち着いて言う。
「武器の手入れをさせたい」
彼の言う手入れとは、おそらく試弾も含まれていた。
「鉄砦では引き取れそうか」
「厳しいよ。新しい職人が来たばかりだ」
「では残りは森で引き受ける。薪をとってもらいたい」
「ヘイゼルさんが作ったような客人街。
あれを一定間隔で海砦から森砦、主城へと配置できる?」
グラントが言うのにラーポは可能であると返事する。
「外来者の待機と監視や有事の防衛、攻撃の拠点にするのですね?」
「そう。ノルトエーデにも、ヘーレにもそういった建物がある」
主城または海砦を起点に森砦を経由して回る仕組みを構築した。
「一気に貨幣をかけてやると破産だな。
ダルコ、沈没船の中に銅貨があったらもらえるか?」
エルネストが真剣に言った。
応じそうなダルコをグラントが止める。
「日当は日々渡すのではなくて、兵役終了後のまとめ払いにしておいて。
帳簿には全額仮払いで経費計上して。あとは会計士に任せる。
沈没船の物品については最初は触らないでおいて」
内緒でやってしまいそうな魔物を不安そうに見た。
なんだか怪しい顔のエルネストはダルコに言う。
「建材に使えそうなものを拾ったら、取り分けておいてくれ」
「おう。建材な。任せろ」
何か企んでいる。
「ところで、まさかとは思うんだけど、グラントは兵役に行かないよね?」
ウーシーが数を数えながら尋ねた。
二七歳という期限に何か引っかかっていたらしい。
「行くよ」
領主の言葉に全員唖然となった。
「なんで? 兵団持ってるのに」
「正式な訓練してないからって」
「ええ? バレットで訓練するの?」
「いや、ワルタハンガに」
「はあ? なんで? ラグラスで納めりゃいいよねえ?」
「わたしの給与を二ヶ月止めたら少しはマシかと思って」
人間たちの会話を聞く魔物たちが引いている。
「あの、鉱石の手元に主を遣わすのは反対です」
ラーポが真顔で述べた。
「あれだろ、俺たちが見張ってりゃいいんじゃねえか?」
「兵役の希望を今から出すか」
ダルコとエルネストがそれぞれ譲歩案を掲げる。
「心配いらないよ。親戚のお家に宿題やりに行くだけなんだから」
グラントはうっそりと答えた。
「仲良くやります」
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