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くずれゆく森
マーシャの脱走
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この国には二週間ほど秋が訪れる。
昼の日差しは暖かく、夜が長い。
雪が降りそうにはないもののそろそろ暖房器具の動作を確認しておかなければならなかった。
「ずいぶんきれいになったんだ。
街路樹が育ってるなんて信じられない。
シュトラールなのに」
早朝の訪問者はそう言って笑った。
まるで友人のような雰囲気で腕を広げる。
「年とったね、ジェロディ」
朝日を見やった途端、辺りが白くなった。
記憶にあるよりずいぶん痩せた人が立っている。
どこからか勝手にいただいてきたのか、黒い騎士の服を着ていた。
「ガンナー……」
その襟を掴もうと片腕を伸ばす。
「忘れてない」
身を翻して避けたガンナーは肩を竦めた。
「悪いね、ジェロディ。俺は寿命でこの世を去る。
それを伝えにきたんだよ」
孤児院を振り仰いで、まぶしそうに言う。
「いい暮らしだ。お父さん、だって。
ここで暮らした子どもたちにそんなふうに慕われて。
ジェロディは幸せ者だ」
「誰かを巻きこんだのか」
ジェロディが歩を詰めようとした。
幻の世界で距離は縮まらない。
「話を聞いただけ。
ジェロディの今のこと、俺は何も知らなかったから」
興味がなかった。
言外にそう言わんばかりだ。
「子どもからお父さんのジェロディの話を聞いてさ。
なんだか長い間の空白が埋まった心地がしたよ。
俺は病にかかって、もうこの冬は越せない。
黙って勝ち逃げもずるいかなって考えて、会いにきたんだ」
兵舎の中になった。
ガンナーの姿が変化する。
「ジェロディ、外に行くよ。……任務に」
夜勤明けのガンナーがあくびをした。
城の夜警の詰め所から出てくる。
バロールの上着を脱いで腰に引っ掛けて歩いていた。
向かっているのは井戸の方。
部屋からそれを見つけたジェロディは兵舎を出る。
「ガンナー、ちょっと日帰り仕事に付き合え」
頭から水をかぶったばかりのガンナーが振り向いた。
すごく迷惑そうに。
「夜勤明けって、見たらわかるよね?」
落ち葉がざんざんと降る森の中を、狩人の格好で走る人間がいた。
すでに道から逸れてしまっている。
追っ手をうかがって身をかがめた。
草の絡まった地面の近くへ潜む。
ここは禁猟地域になっているあたりだ。
崖が多く、動物のねぐらが多い。
薮だらけになる。
「発見ー!」
オークの声がして、グラントは藪の奥を見た。
「捕らえて! オーク!」
「承知しました」
小人が、軽い体を生かして藪の上を蹴って走る。
あっという間に潜んでいた逃亡者に群がった。
「マーシャ、観念するんです」
「連れて帰りますよ」
「お腹は空いてませんか、マーシャ」
「お水を差し上げましょうか」
わあわあと喧しい。
「……うるさい!」
小人を振り払おうと腕を振り回しながらマーシャが立ち上がった。
その体が担ぎ上げられる。
「もう一日使った。すぐ戻るよ」
小人ごと標的を回収して、グラントは森の道へ近づいていった。
ラグラスでは兵役の受け入れが始まった。
急に千五百人も船でやってきた。
頭領たちが忙しく引き受け作業を始めた。
そんな折だ。
「マーシャが脱走しました。
三日以内に戻せたら不問にするが、ラグラス公はいかがされますか」
わざわざ。
わざわざリビーの近くから、都ではなくて南の辺境領に。
マーシャの幽閉先の監視員が知らせてきた。
彼は親切心から取り計らってくれた。
グラントはウーシーを引っ張って即座にラグラスを出た。
リビーのところで待ち合わせたウーシーが手を振っている。
その傍には木の精霊リビーがいて、木の枝の両腕を挙げていた。
秋の森はもはや薄暗い。
「リビー、今夜泊めて」
いきなりやってきたグラントにも、リビーは嫌な顔をしなかった。
「もちろん歓迎するよ。
グラントがここで泊まるのは久しぶりだね」
両手の先の枝葉がさわさわと音を立てる。
ウーシーがオークを従えてテントを作り始めた。
「ねえ、リビー、枝をいくつかもらってもいい?」
グラントは大体目線が一緒の精霊に請う。
マーシャは森に住む魔物の鳥たちが見張っていた。
「いいよ。虫でも燻すのかい?」
気のいい返事をした精霊は、良さそうな枝をグラントに渡す。
「バレットに植えてみようと思って。
根付いたら、リビーはジェロディに会いに来られるでしょ?」
相変わらず、発想が優しい。
マーシャはそんなグラントを横目に見た。
テントが出来上がると、オークが最初に入っていく。
居心地が良いらしく、中で大はしゃぎする声が聞こえた。
ウーシーが中で遊び相手になっている。
子どもの頃からこうだったと、マーシャは鼻で息を吐いた。
「あんた、出世したんじゃなかったの?」
小馬鹿にしたような口の形をして言う。
「名ばかりですから」
歯牙にもかけないようなうっそりをした表情で、グラントは答えた。
「中では休むだけだから、外で食べてしまって」
グラントがくれた固いパンを、マーシャは不服そうにかじった。
「幽閉に何の不満があったの?」
迷惑そうな顔をして尋ねる。
「ないない。何の不満もなかったのよ」
マーシャはにこにこと受け答えた。
「ただね、逃がしてくれるって声をかけてきたお客さんがいたの。
外国までは誰も追ってこない。そこでもっと大きな事業をしようって」
「乗ったの」
「そう」
グラントの目が、憚ることなく呆れている。
「で、相棒は?」
「はぐれちゃって」
おそらく置いて行かれた。
「それなら一人で行くしかないなって思ったのよ」
「ラグラスを越えなきゃ外国には出られない。
わたしは通さないよ」
「船があるじゃない。都に戻らなくても、リケからは外国へ行けるんでしょ?
お客さんは海路でこの国に来たって人なの。
荷船の貨物室に忍び込めばいい。
男の格好をして軽い荷物でも運んでやって、そのまま隠れればって教えてくれた」
「行動力の発揮しどころをよく考えて」
この人の夢は、いくつになっても博打だ。
「ケリーだって、次の春には大人になるんだよ。
親がいつまでも犯罪を重ねていたら、縁談だって来ない」
「あんたは親でもないんだから放っときなさいよ」
「親が手をかけて育てないんだから。
あんなにかわいい生き物、もう一生出会わない」
「私がお金を出したのよ」
「ひとを泣かせて巻き上げたお金でしょ」
「守るためにはどんどん悪いことするしかなかったの。
自分や、ケリーや、孤児院のこと。
だいたい、グラントが一緒にやってくれたら……」
マーシャはそこで黙った。
その先はなんと続けたらいいのだろう。
今でもぴったりくる言葉が見つからない。
「グラントは本当の子どもがいないから分からない」
捨て台詞を吐いてマーシャは最後の一口を飲み下した。
朝、寒くて風邪をひきそうと訴えるマーシャに蹴り起こされた。
ウーシーがしっかり目を詰めた仕切り越しにどうしてグラントの位置が分かったのかは謎だ。
背中を思い切り打たれて目が覚める。
オークまみれで寝ているウーシーが見えた。
あれは寒くなさそう。
「……今日中に、館へ帰るよ」
色々言いたいことがあるけれど、それがさっさと厄災から逃れるための方法だった。
リビーに挨拶して、細い道を馬で進む。
グラントのところはマーシャとオークがいて非常にうるさい。
もう少しで禁猟区域を出るという所だった。
右に曲がればマーシャの館の近くにいける。
ところがそちらの方向から馬の音がした。
短弓を手にしてウーシーがグラントの前に出る。
一緒に乗っているオークが二人、短い剣を抜いた。
別の小人はウーシーの前にはまりこんで手綱を握る。
見えてきたのは騎士だ。
軍服の色は黒く見えるほど深い藍。
見たことがない。
六人隊を組んで、剣を抜いていた。
「散開!」
グラントが叫ぶ。
ラグラスの馬が二手に分かれて獣道を走った。
「こちらに四名来ました」
オークが告げる。
「禁猟区の周辺は廃村が続く。
そこに出たら迎え撃つ」
グラントの言った通り、獣道から人の通る森の道に出てすぐ納屋付きの家の跡が見えた。
朽ちた柵を通り抜ける。
オークに手綱を渡して、グラントは馬を下りた。
森の道から出てくる騎士は普通の人間のようである。
馬上から剣を振り回す。
上がってきた剣をグラントは上から叩いて受けた。
力を逃して流したところを、オークが何人か飛びかかって落とす。
革の顔あてで人相が見えなかった。
内密の任務なのだろう。
弓が飛んでくるのを魔法で防いだ。
足を掴んで引き摺り下ろす。
地面に転がった騎士は動かなくなった。
残りの敵兵が道を引き返していく。
「とどめを刺しなさいよ」
馬上からマーシャが言った。
「治す」
倒れた兵士の治療に向かうグラントに嘆息する。
「呆れた。相変わらず弱いんだから」
そう言ったマーシャの肩に、小鳥が一羽とまった。
ぎらりと目を剥くと黒い巻き毛をむしり始める。
マーシャが悲鳴を上げた。
「何この鳥っ? グラント! 取って取って! この鳥! やっつけて!」
「マーシャが失言を謝って。それはマーシャに怒ってる」
「何を? 何を怒るのよ?」
「ラグラスの主人に対する口のきき方じゃないって言ってる」
マーシャがぎゅっと拳を握る。
グラントは地面に落ちた兵士を静かに引いていた。
「もういい。マーシャの頭をむしらないであげて」
ついでのようなグラントの言葉で鳥は攻撃を止める。
「マーシャ、もう昔とは立場が違います」
小人が指摘した。
小憎らしい物言いに彼女の目が吊り上がる。
「マーシャは罪人」
もう一人を回収しに納屋から出てきたグラントが言った。
「罪人だってこと、覚えておいて」
昼の日差しは暖かく、夜が長い。
雪が降りそうにはないもののそろそろ暖房器具の動作を確認しておかなければならなかった。
「ずいぶんきれいになったんだ。
街路樹が育ってるなんて信じられない。
シュトラールなのに」
早朝の訪問者はそう言って笑った。
まるで友人のような雰囲気で腕を広げる。
「年とったね、ジェロディ」
朝日を見やった途端、辺りが白くなった。
記憶にあるよりずいぶん痩せた人が立っている。
どこからか勝手にいただいてきたのか、黒い騎士の服を着ていた。
「ガンナー……」
その襟を掴もうと片腕を伸ばす。
「忘れてない」
身を翻して避けたガンナーは肩を竦めた。
「悪いね、ジェロディ。俺は寿命でこの世を去る。
それを伝えにきたんだよ」
孤児院を振り仰いで、まぶしそうに言う。
「いい暮らしだ。お父さん、だって。
ここで暮らした子どもたちにそんなふうに慕われて。
ジェロディは幸せ者だ」
「誰かを巻きこんだのか」
ジェロディが歩を詰めようとした。
幻の世界で距離は縮まらない。
「話を聞いただけ。
ジェロディの今のこと、俺は何も知らなかったから」
興味がなかった。
言外にそう言わんばかりだ。
「子どもからお父さんのジェロディの話を聞いてさ。
なんだか長い間の空白が埋まった心地がしたよ。
俺は病にかかって、もうこの冬は越せない。
黙って勝ち逃げもずるいかなって考えて、会いにきたんだ」
兵舎の中になった。
ガンナーの姿が変化する。
「ジェロディ、外に行くよ。……任務に」
夜勤明けのガンナーがあくびをした。
城の夜警の詰め所から出てくる。
バロールの上着を脱いで腰に引っ掛けて歩いていた。
向かっているのは井戸の方。
部屋からそれを見つけたジェロディは兵舎を出る。
「ガンナー、ちょっと日帰り仕事に付き合え」
頭から水をかぶったばかりのガンナーが振り向いた。
すごく迷惑そうに。
「夜勤明けって、見たらわかるよね?」
落ち葉がざんざんと降る森の中を、狩人の格好で走る人間がいた。
すでに道から逸れてしまっている。
追っ手をうかがって身をかがめた。
草の絡まった地面の近くへ潜む。
ここは禁猟地域になっているあたりだ。
崖が多く、動物のねぐらが多い。
薮だらけになる。
「発見ー!」
オークの声がして、グラントは藪の奥を見た。
「捕らえて! オーク!」
「承知しました」
小人が、軽い体を生かして藪の上を蹴って走る。
あっという間に潜んでいた逃亡者に群がった。
「マーシャ、観念するんです」
「連れて帰りますよ」
「お腹は空いてませんか、マーシャ」
「お水を差し上げましょうか」
わあわあと喧しい。
「……うるさい!」
小人を振り払おうと腕を振り回しながらマーシャが立ち上がった。
その体が担ぎ上げられる。
「もう一日使った。すぐ戻るよ」
小人ごと標的を回収して、グラントは森の道へ近づいていった。
ラグラスでは兵役の受け入れが始まった。
急に千五百人も船でやってきた。
頭領たちが忙しく引き受け作業を始めた。
そんな折だ。
「マーシャが脱走しました。
三日以内に戻せたら不問にするが、ラグラス公はいかがされますか」
わざわざ。
わざわざリビーの近くから、都ではなくて南の辺境領に。
マーシャの幽閉先の監視員が知らせてきた。
彼は親切心から取り計らってくれた。
グラントはウーシーを引っ張って即座にラグラスを出た。
リビーのところで待ち合わせたウーシーが手を振っている。
その傍には木の精霊リビーがいて、木の枝の両腕を挙げていた。
秋の森はもはや薄暗い。
「リビー、今夜泊めて」
いきなりやってきたグラントにも、リビーは嫌な顔をしなかった。
「もちろん歓迎するよ。
グラントがここで泊まるのは久しぶりだね」
両手の先の枝葉がさわさわと音を立てる。
ウーシーがオークを従えてテントを作り始めた。
「ねえ、リビー、枝をいくつかもらってもいい?」
グラントは大体目線が一緒の精霊に請う。
マーシャは森に住む魔物の鳥たちが見張っていた。
「いいよ。虫でも燻すのかい?」
気のいい返事をした精霊は、良さそうな枝をグラントに渡す。
「バレットに植えてみようと思って。
根付いたら、リビーはジェロディに会いに来られるでしょ?」
相変わらず、発想が優しい。
マーシャはそんなグラントを横目に見た。
テントが出来上がると、オークが最初に入っていく。
居心地が良いらしく、中で大はしゃぎする声が聞こえた。
ウーシーが中で遊び相手になっている。
子どもの頃からこうだったと、マーシャは鼻で息を吐いた。
「あんた、出世したんじゃなかったの?」
小馬鹿にしたような口の形をして言う。
「名ばかりですから」
歯牙にもかけないようなうっそりをした表情で、グラントは答えた。
「中では休むだけだから、外で食べてしまって」
グラントがくれた固いパンを、マーシャは不服そうにかじった。
「幽閉に何の不満があったの?」
迷惑そうな顔をして尋ねる。
「ないない。何の不満もなかったのよ」
マーシャはにこにこと受け答えた。
「ただね、逃がしてくれるって声をかけてきたお客さんがいたの。
外国までは誰も追ってこない。そこでもっと大きな事業をしようって」
「乗ったの」
「そう」
グラントの目が、憚ることなく呆れている。
「で、相棒は?」
「はぐれちゃって」
おそらく置いて行かれた。
「それなら一人で行くしかないなって思ったのよ」
「ラグラスを越えなきゃ外国には出られない。
わたしは通さないよ」
「船があるじゃない。都に戻らなくても、リケからは外国へ行けるんでしょ?
お客さんは海路でこの国に来たって人なの。
荷船の貨物室に忍び込めばいい。
男の格好をして軽い荷物でも運んでやって、そのまま隠れればって教えてくれた」
「行動力の発揮しどころをよく考えて」
この人の夢は、いくつになっても博打だ。
「ケリーだって、次の春には大人になるんだよ。
親がいつまでも犯罪を重ねていたら、縁談だって来ない」
「あんたは親でもないんだから放っときなさいよ」
「親が手をかけて育てないんだから。
あんなにかわいい生き物、もう一生出会わない」
「私がお金を出したのよ」
「ひとを泣かせて巻き上げたお金でしょ」
「守るためにはどんどん悪いことするしかなかったの。
自分や、ケリーや、孤児院のこと。
だいたい、グラントが一緒にやってくれたら……」
マーシャはそこで黙った。
その先はなんと続けたらいいのだろう。
今でもぴったりくる言葉が見つからない。
「グラントは本当の子どもがいないから分からない」
捨て台詞を吐いてマーシャは最後の一口を飲み下した。
朝、寒くて風邪をひきそうと訴えるマーシャに蹴り起こされた。
ウーシーがしっかり目を詰めた仕切り越しにどうしてグラントの位置が分かったのかは謎だ。
背中を思い切り打たれて目が覚める。
オークまみれで寝ているウーシーが見えた。
あれは寒くなさそう。
「……今日中に、館へ帰るよ」
色々言いたいことがあるけれど、それがさっさと厄災から逃れるための方法だった。
リビーに挨拶して、細い道を馬で進む。
グラントのところはマーシャとオークがいて非常にうるさい。
もう少しで禁猟区域を出るという所だった。
右に曲がればマーシャの館の近くにいける。
ところがそちらの方向から馬の音がした。
短弓を手にしてウーシーがグラントの前に出る。
一緒に乗っているオークが二人、短い剣を抜いた。
別の小人はウーシーの前にはまりこんで手綱を握る。
見えてきたのは騎士だ。
軍服の色は黒く見えるほど深い藍。
見たことがない。
六人隊を組んで、剣を抜いていた。
「散開!」
グラントが叫ぶ。
ラグラスの馬が二手に分かれて獣道を走った。
「こちらに四名来ました」
オークが告げる。
「禁猟区の周辺は廃村が続く。
そこに出たら迎え撃つ」
グラントの言った通り、獣道から人の通る森の道に出てすぐ納屋付きの家の跡が見えた。
朽ちた柵を通り抜ける。
オークに手綱を渡して、グラントは馬を下りた。
森の道から出てくる騎士は普通の人間のようである。
馬上から剣を振り回す。
上がってきた剣をグラントは上から叩いて受けた。
力を逃して流したところを、オークが何人か飛びかかって落とす。
革の顔あてで人相が見えなかった。
内密の任務なのだろう。
弓が飛んでくるのを魔法で防いだ。
足を掴んで引き摺り下ろす。
地面に転がった騎士は動かなくなった。
残りの敵兵が道を引き返していく。
「とどめを刺しなさいよ」
馬上からマーシャが言った。
「治す」
倒れた兵士の治療に向かうグラントに嘆息する。
「呆れた。相変わらず弱いんだから」
そう言ったマーシャの肩に、小鳥が一羽とまった。
ぎらりと目を剥くと黒い巻き毛をむしり始める。
マーシャが悲鳴を上げた。
「何この鳥っ? グラント! 取って取って! この鳥! やっつけて!」
「マーシャが失言を謝って。それはマーシャに怒ってる」
「何を? 何を怒るのよ?」
「ラグラスの主人に対する口のきき方じゃないって言ってる」
マーシャがぎゅっと拳を握る。
グラントは地面に落ちた兵士を静かに引いていた。
「もういい。マーシャの頭をむしらないであげて」
ついでのようなグラントの言葉で鳥は攻撃を止める。
「マーシャ、もう昔とは立場が違います」
小人が指摘した。
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【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
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