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くずれゆく森
棄てられたひと
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「私はもう働けないのです。どうかご容赦ください」
その懇願は、まさかあれか。
ウーシーの顔が渋くなる。
不本意に拘束されて、金銭でやり取りを受け、知らない所で無償労働する。
「奴……」
「言わない。違法だったら困る」
グラントが「しっ」の口になった。
「どうなってんの、これ。
ひとを石に閉じ込める魔法?
こんなの俺だって見たことないよ」
「これを拾ってすぐコンウェイと別部屋になったんだ。
詳しく調べる機会がなかった。
ラグラスと合流している今がいい機会だ。
エルネストたちが知っているかもしれない」
「うん。俺、預かっていい? 聞いてみる」
「お願い」
ウーシーが宿舎の方へ歩いていく。
輸送管をあらかた移動させた。
グラントはユハのところへ寄る。
「ちゃんと石の上、歩けよ」
気づいて声をかけてくれた。
「グラントんとこの者がなんか用があるみたいだな」
背後を指して言う。
エルネストがこちらに来ていた。
ウーシーとはすれ違ってしまったろうか。
尋ねようとして振り向いた。
その視線がグラントの背後を窺い見る。
魔物たちが鎮火作業をしている背後で、幕壁の上部が弾け飛んだ。
「砲弾だ!」
ワルタハンガの兵士が声を上げる。
夜の闇の中を撃ってきた。
「火の玉が飛んでくるぞ!」
どういうことか判然としないままそんな叫びが上がる。
エルネストが移動した。
幕壁の穴に大きな盾を構える。
銅鑼を打つような大きな音が響いた。
「魔法使い」
火の塊だった。
自然には飛んでこないし人の技術によるものでもない。
グラントはエルネストのそばに駆け寄って森を見た。
大砲を撃ってきた崖までは、ウーシーの測ったところによると千五百歩の距離。
火は真っ直ぐの軌道で来た。
術者は崖下の、近い距離にいる。
「妙に大きな火だったね。
そんなに強い魔法使いの評判なんて聞いたことないけれど」
「ウーシーの持っていた石を見たぞ」
盾の陰でエルネストが言った。
「あれは少し前の兵器の試作品だ。
不良品ということで廃棄されたはず」
「この国の?」
「外国だ。研究などを禁止する国際的な倫理協定もある。
あまりに遠い国の話だということで、シュッツフォルトは参加していない」
「詳しいね」
「前の領主と似たような人間たちが犠牲になった。
だから少しだけ知っているんだ」
魔力は持っているのに外に出せない。
「石の中にいるのは魔物の命を奪える魔法使いだ。
自分の中に魔力として貯めるんだが、魔法として出すのが苦手な人々だった」
「魔力の貯蔵庫として、使ってる……?」
魔力を吸い取って貯める石みたいだ。
魔物から供給する専門の。
「それもあるんだが、彼らは力を奪った魔物を従えることもできる。
それが兵器研究の目的だった」
「人間が操る魔物部隊を作るの? 人間を使って?」
蓄える能力にはだいぶ個人差があったのではないかと思う。
この国の魔法使いたちの魔力の量が千差万別なように。
たくさん蓄えられる人は悲惨。
「そうだ」
エルネストは嫌な感情を押し隠すような口調だった。
魔力を無理やり使われては、苦痛ではないのかな。
何となくグラントはそう感じる。
祖母の木らしきものに魔力を吸われたシェリーやアリアを思い浮かべた。
魔力を吸い取られただけで著しく消耗してしまう。
勝手に使われるのは大変だろう。
「中の人は苦しいの?」
自分の自由を奪われただけでなく。
長い間、石が壊れるまで使役される。
聞かずもがなだった。
グイドは気づいたから離れることにしたのだ。
魔物が嫌いな彼は、最初は罪悪感などなかっただろう。
同じ立場の人間の死はただのきっかけで。
魔物を倒していたのではないと自覚した。
行なっていたのは人間への虐待だった。
近いところを走ってくる馬の足音がした。
森の道の中から声がする。
また大きな火球が飛んできた。
「打ち返せる? エルネスト」
「どうかな」
応じたエルネストが盾を振り上げる。
轟音と共に火の玉は弾け返って地面にぶつかった。
悲鳴と馬が転げる重い音。
グラントは駆け出して魔法使いを探す。
暗闇を灯りも持たずに走ってきた相手に、兵士の一団は身構えた。
魔物だと思われている。
剣士が立ち上がって剣を抜いた。
その後ろで慌てて立つ魔法使いがいる。
また新たな火の玉が闇に浮かんだ。
グラントの指の先が小さく光る。
弾かれた小さな溶岩が魔法使いをかすめた。
近くの木の幹に当たる。
砕けた木の破片が刺さって魔法使いは体勢を崩した。
「これ以上油井に攻撃しないでください」
右手が獣の形をしている。
「わたしの溶岩の方がそちらの火の玉より速いです。
撃ってくるなら次はもっと大きいのを投げますよ」
グラントは早足に魔法使いへと近づく。
「中に入っているのが何なのか分かってて使ってるのですか?」
相手の杖を掴んだ。
瞬く間に溶岩に飲み込まれて崩れていく。
「どこの兵士ですか」
魔法使いを掴もうとしたグラントの右手に、敵は石を握らせた。
食われていくような感覚に目を瞠る。
「……無理です。この魔物は大きい」
石から苦しげな声がした。
グラントはそれを掴んで奪い取る。
「もう働かなくていいんですよ」
そう言ってやって、左手に持ちかえた。
エルネストがグラントを呼ぶ。
「将が来る」
森の中から声をかけられたのはほぼ同時だった。
「ラグラス公」
明かりが揺れる。
森から出てきたのは立派な装備の馬。
それを駆っていたのはヘーレ公バルトサールだ。
「これは、何があったのか。
我々は違法な建築を取り締まりに行く道中だったのだ。
なぜラグラス公と戦っている」
彼は驚いた顔をしている。
後ろには隊列が並んでいた。
雪で細くなった森の道に長く連なる。
ヘーレ公は魔法使いから報告を受け、さらに顔を険しくした。
エルネストがグラントの前に立つ。
「直轄地を襲ったのはヘーレか」
「直轄地に勝手な建築物を建てたのはラグラスか?」
ヘーレ公は煩わしいことこの上ない言葉を放った。
その懇願は、まさかあれか。
ウーシーの顔が渋くなる。
不本意に拘束されて、金銭でやり取りを受け、知らない所で無償労働する。
「奴……」
「言わない。違法だったら困る」
グラントが「しっ」の口になった。
「どうなってんの、これ。
ひとを石に閉じ込める魔法?
こんなの俺だって見たことないよ」
「これを拾ってすぐコンウェイと別部屋になったんだ。
詳しく調べる機会がなかった。
ラグラスと合流している今がいい機会だ。
エルネストたちが知っているかもしれない」
「うん。俺、預かっていい? 聞いてみる」
「お願い」
ウーシーが宿舎の方へ歩いていく。
輸送管をあらかた移動させた。
グラントはユハのところへ寄る。
「ちゃんと石の上、歩けよ」
気づいて声をかけてくれた。
「グラントんとこの者がなんか用があるみたいだな」
背後を指して言う。
エルネストがこちらに来ていた。
ウーシーとはすれ違ってしまったろうか。
尋ねようとして振り向いた。
その視線がグラントの背後を窺い見る。
魔物たちが鎮火作業をしている背後で、幕壁の上部が弾け飛んだ。
「砲弾だ!」
ワルタハンガの兵士が声を上げる。
夜の闇の中を撃ってきた。
「火の玉が飛んでくるぞ!」
どういうことか判然としないままそんな叫びが上がる。
エルネストが移動した。
幕壁の穴に大きな盾を構える。
銅鑼を打つような大きな音が響いた。
「魔法使い」
火の塊だった。
自然には飛んでこないし人の技術によるものでもない。
グラントはエルネストのそばに駆け寄って森を見た。
大砲を撃ってきた崖までは、ウーシーの測ったところによると千五百歩の距離。
火は真っ直ぐの軌道で来た。
術者は崖下の、近い距離にいる。
「妙に大きな火だったね。
そんなに強い魔法使いの評判なんて聞いたことないけれど」
「ウーシーの持っていた石を見たぞ」
盾の陰でエルネストが言った。
「あれは少し前の兵器の試作品だ。
不良品ということで廃棄されたはず」
「この国の?」
「外国だ。研究などを禁止する国際的な倫理協定もある。
あまりに遠い国の話だということで、シュッツフォルトは参加していない」
「詳しいね」
「前の領主と似たような人間たちが犠牲になった。
だから少しだけ知っているんだ」
魔力は持っているのに外に出せない。
「石の中にいるのは魔物の命を奪える魔法使いだ。
自分の中に魔力として貯めるんだが、魔法として出すのが苦手な人々だった」
「魔力の貯蔵庫として、使ってる……?」
魔力を吸い取って貯める石みたいだ。
魔物から供給する専門の。
「それもあるんだが、彼らは力を奪った魔物を従えることもできる。
それが兵器研究の目的だった」
「人間が操る魔物部隊を作るの? 人間を使って?」
蓄える能力にはだいぶ個人差があったのではないかと思う。
この国の魔法使いたちの魔力の量が千差万別なように。
たくさん蓄えられる人は悲惨。
「そうだ」
エルネストは嫌な感情を押し隠すような口調だった。
魔力を無理やり使われては、苦痛ではないのかな。
何となくグラントはそう感じる。
祖母の木らしきものに魔力を吸われたシェリーやアリアを思い浮かべた。
魔力を吸い取られただけで著しく消耗してしまう。
勝手に使われるのは大変だろう。
「中の人は苦しいの?」
自分の自由を奪われただけでなく。
長い間、石が壊れるまで使役される。
聞かずもがなだった。
グイドは気づいたから離れることにしたのだ。
魔物が嫌いな彼は、最初は罪悪感などなかっただろう。
同じ立場の人間の死はただのきっかけで。
魔物を倒していたのではないと自覚した。
行なっていたのは人間への虐待だった。
近いところを走ってくる馬の足音がした。
森の道の中から声がする。
また大きな火球が飛んできた。
「打ち返せる? エルネスト」
「どうかな」
応じたエルネストが盾を振り上げる。
轟音と共に火の玉は弾け返って地面にぶつかった。
悲鳴と馬が転げる重い音。
グラントは駆け出して魔法使いを探す。
暗闇を灯りも持たずに走ってきた相手に、兵士の一団は身構えた。
魔物だと思われている。
剣士が立ち上がって剣を抜いた。
その後ろで慌てて立つ魔法使いがいる。
また新たな火の玉が闇に浮かんだ。
グラントの指の先が小さく光る。
弾かれた小さな溶岩が魔法使いをかすめた。
近くの木の幹に当たる。
砕けた木の破片が刺さって魔法使いは体勢を崩した。
「これ以上油井に攻撃しないでください」
右手が獣の形をしている。
「わたしの溶岩の方がそちらの火の玉より速いです。
撃ってくるなら次はもっと大きいのを投げますよ」
グラントは早足に魔法使いへと近づく。
「中に入っているのが何なのか分かってて使ってるのですか?」
相手の杖を掴んだ。
瞬く間に溶岩に飲み込まれて崩れていく。
「どこの兵士ですか」
魔法使いを掴もうとしたグラントの右手に、敵は石を握らせた。
食われていくような感覚に目を瞠る。
「……無理です。この魔物は大きい」
石から苦しげな声がした。
グラントはそれを掴んで奪い取る。
「もう働かなくていいんですよ」
そう言ってやって、左手に持ちかえた。
エルネストがグラントを呼ぶ。
「将が来る」
森の中から声をかけられたのはほぼ同時だった。
「ラグラス公」
明かりが揺れる。
森から出てきたのは立派な装備の馬。
それを駆っていたのはヘーレ公バルトサールだ。
「これは、何があったのか。
我々は違法な建築を取り締まりに行く道中だったのだ。
なぜラグラス公と戦っている」
彼は驚いた顔をしている。
後ろには隊列が並んでいた。
雪で細くなった森の道に長く連なる。
ヘーレ公は魔法使いから報告を受け、さらに顔を険しくした。
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