ただの魔法使いです

端木 子恭

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くずれゆく森

赤い石

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 敵の武器なのに目をきらきらさせて報告する。

「千五百歩向こうから当ててきた。すげー狙いがいいな」

 敵まで褒められる。
 やっぱりウーシーだ。

「まだ見てない」
「砲弾に細工してあったんだよ! すげー高価な武器!」
「そうなんだ。そんなのいくつくらい用意してるんだろう。
 この辺りで溶鉱炉を持ってる領地なんてないでしょ? 輸入?」

 ヘーレは交易を制限されているはずだった。

「砲弾は今のところ2種類飛んできたよ。
 全部でもう二十発は撃ちこまれてる。
 連続して準備したって合間は結構あく。
 次の攻撃は早くて二千歩進むくらいの間だ」

 兵器に関して驚異的に根気がいい。
 鉄砦の主の言葉を聞いて、ユハすらややヒいていた。

 グラントは小隊長にウーシーを紹介する。
 痩せた修道士にユハは人の良さそうな笑顔を見せた。

「敵兵は捕らえたか? なぜ油井を襲ってきてるんだ」
「それはまだ謎です。全く近寄っては来ないから」
「いつから始まった」
「昨日の日暮れどきに二発着弾しました。
 採掘口の近くに一発、くみ上げ装置の筒にも一発。
 最初の二発だけは火薬を詰めてたので輸送管に延焼した。
 採掘口は封鎖済み。人員の避難は完了しています。
 非戦闘員はみんなラグラスの大砦に待機中」
「……、それ、友だちに教える内容じゃないな。
 うちの大隊長に報告してくれ」

 こういう人だと知っているコンウェイだけは平然としている。
 あとは唖然と口を開けていた。

「それはエルネストがしてます」

 頼りになる者が来ていると知り、グラントの肩がほっと落ちた。

「砲弾はどういう作りだったの?」
「どーんって飛んできてぶつかった時にまた爆発したんだってさ。
 最初の二発はそうだった。あとのは鉄製だ。
 そのままぶつかってくるけどめちゃくちゃ重い」

 最初のは火薬を詰めた砲弾。
 火薬自体高価だった。

 ワルタハンガでは火薬の爆発の効果で鉄の塊を飛ばすだけ。

「今、相手は石壁を崩そうとしてる?」
「おそらくね。崩落を確認したら入ってくるんじゃない?」
「だから友だちにする話じゃないんだって」

 ユハが再び嗜める。
 ウーシーは気づいたように馬車の中を覗いた。

「です」
「報告完了か」

 ややこしいのでグラントを馬車の中に戻す。
 中にもう一人知っている者を見つけてウーシーが喜んだ。
 
「あー、コンウェイ! よかった、グラントと一緒の隊なんだ。
 おもしろいだろ?」
「うん。なんだか、二度と体験できないようなの見た」

 コンウェイは含み笑いで答える。

「いいなあ。俺だって対象者なら一緒に行きたかったよ」

 本気っぽい。

「俺は一度先頭へ戻る。
 ラグラス兵を連れてきたのは大砲の奪取が目的だった。
 騎士団がいるなら捕縛もできるね」

 ウーシーは馬に命じて先へ行った。
 エルネストに教えるつもりである。

 総勢百名程度の隊員たちは油井にできた町に入れた。
 日が暮れて、もう今日の戦闘はないものと判断される。
 魔物たちが鎮火にあたった。

「もえっちまった輸送管はもう使わないだろ?
 土台もダメそうか?」

 ウーシーとグラントにユハは聞く。

「土台は使えるかもしれない」

 触ってみないと何とも言えなかったが。

「グラント。壊した方がいい管を移動させられるか。
 ひとまとめにしてくれれば俺たちが潰して燃えないようにしとく」

 グラントは作業を始めた。
 その横でウーシーが気づいて尋ねる。

「剣は?」
「ひとにあげた」
「そうかー。じゃあ新しいの要るね」

 人間の兵士たちに宿舎の準備を指示しているのはエルネストだ。
 木立の向こうにぽつりぽつり明かりが灯り始める。

 油が取れる直轄地は低い幕壁で囲まれていた。
 火事が燃え広がるのを防ぐ目的である。
 
「嫌な仕事をやめて家出するっていう知り合いに会った。
 それで、発つ時に武器をあげたんだ」
「幸あれ」

 とりあえず真っ直ぐの方向に祈りを送る修道士。

「わたしはその人が嫌いだ。
 けれど、人の命令で人の命を奪うような仕事から離れる決心をした。
 その行動だけは好きになった」
「敵を愛せたなー、グラント」
「ほぼ大嫌い」

 無表情で言ったグラントが、思い出してベルトの鞄を指した。

「その人の落とし物を拾ったんだ。
 不思議なもので、わたしは見たことがない。
 ウーシー、ちょっと出して見てみて」
「うん」

 ウーシーは小物入れの袋を取り出す。

「これ?」

 顔を近づけて、驚いたように離れた。

「声がするぅ…」
「そうなんだ。言ってることが、どうも……」

 グラントが言い澱んだ。
 小物入れの口をそっと開け、ウーシーは耳を近づける。

「新しいご主人ですか」

 か細い声は、初老の男性を思わせた。
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