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くずれゆく森
賓客
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ウィラードが手に持っていた書類を侍従に渡した。
侍従がそれをジャックスに報告している間、ウィラードは言う。
「私が成人する前からの言質録です。
記したのはヴァルトに赴任していた神父。証拠になるでしょう?」
ジャックスは玉座の周りを見回した。
レミーがいない。
「それによると明らかです。
祖父がどうして罪人になったのか。そこに記されている」
「燃やして」
ウィラードの言葉を遮るようにジャックスが命じた。
侍従もウィラードも動きを止める。
「再審議してあげる。けれどこんなのは証拠にならないから」
ジャックスには受け入れがたかった。
それは伝わった。
ヴァルト公爵は数秒の間ジャックスを見つめる。
侍従が戸惑いながら暖炉に投げ入れようと踵を返した。
何かにつかまえられて、彼は書類を取り落とす。
木の枝が床から生えていた。
腕を足を取られて身動きが封じられている。
「ラーポ、彼を止めて」
グラントが素早く命じた。
大カラスが末席から飛び立って玉座へ向かう。
玉座の前の床から生えてきた枝をとらえると後ろに引いた。
レミーの野望のために重要な役割を果たすジャックスを襲うなんて。
話がついているはずの二人の間でこれは承知されたことなのか。
それにしてもレミーがどこにもいないのは。
グラントは駆け出しながら考える。
そんなはずはないが。
別の可能性に己で首を振った。
グイドが思い浮かんだのだ。
まさか、ここまでしておいて、決裂が生じている?
「代わる。ラーポは逃げて」
グラントがすでに玉座の前に回っている。
棘が飛び出す前にラーポは天井近くへ逃れた。
襟の紋章に触れていたウィラードがグラントを睨み上げる。
「魔法使い」
枝が迫ってきた。
グラントは避けずにその一つを右手で掴む。
「王の退避を」
バロールに向かって叫んだ。
獣の手で枝を引く。
床から生え出した枝が途中でちぎれた。
「ここが終わったらおまえに話がある」
ウィラードが嬉しそうに笑う。
その姿が一度、グラントの眼前に迫った。
「用件は分かってるな」
一言言い置いて彼は離れる。
後ろを振り向くと、口を開けているジャックスをバロールの団員が連れ出すところだ。
枝は騎士団をジャックスから引き剥がし始める。
ホールの中が混乱した。
ウィラードひとりに空間が掻き回される。
グラントは床に落ちた書類を拾った。
「グラント」
アッシャーに声をかけられる。
隊は広間を出て行くところだった。
「私はカーラ殿下と約束していたから、そちらへ警護に出向く」
内乱の際の保護を、ワルタハンガが約束していた。
抗議しかけたグラントを制してアッシャーは言う。
「間もなく兵役期間を終える者は別働隊として都に置いていく。
我々はこんな怖いところに居られない。跡形もなく消えてしまう。
グラントのおばあさまではないにせよね」
傍で主人を守ろうと立ちはだかった魔物が棘に刺されて消えた。
侯爵は優雅な動きでグラントに耳打ちする。
「この木はグラントの杖と同じ素材だよ。魔力が通る」
ふわりと、薄情なほど軽やかに離れていった。
民間の兵団が右往左往していた。
ジャックスはもう広間にいない。
ラーポに声をかけて、兵団を全て王宮の前庭に配置させた。
広い敷地内を見渡す。
城の背後にある館が見えた。
枝がかき抱くように包んでいる。
ホルストと暮らしていた場所だ。
ウィラードは慰めているのか。
もしくは懺悔。
「あれは、魔物か?」
ついてきたコンウェイが尋ねる。
グラントは首を振った。
「人間だよ」
重そうな足音が近づいてきてそちらを見る。
長剣を携えたレイがいた。
「シェリーの居所を言え。あの枝は敷地の至る所に出てくる。
どういうわけだか知らないが彼女はこの城にいるのだろう?」
尋問のような口調にコンウェイは警戒する。
背後にはクイルの騎士が何人かついていた。
グラントは通りに近い館に視線を向ける。
レイは急ぎ足でダヴィの館へ歩いた。
客用の棟からは城がよく見える。
そっと窺い見た。
三階の窓からこちらを見ている人がいる。
腕に抱いているのは、クッション? それとも。
「シェリー」
グラントは少し笑って呼びかけた。
場にそぐわないとは分かっていたけれど。
「目はどう?」
久しぶりのその顔を見たら緊迫した状況だって忘れていた。
グラントをちゃんと見ている。
その顔は心配顔だけれども。
よかった。薬は効いたのだ。
中で誰かがシェリーを呼んだ。
彼女はアリアを抱いたまま窓から離れた。
「近くに行ってあげよう。彼女不安そうだった」
コンウェイがグラントの背中を叩く。
「レイがクイルのみんなと行ったんだから。
わたしまで詰めかけたら威圧になる」
「あの騎士が十人で来るよりたったひとりのグラントの方が安心できそうだったぞ」
「……、そう?」
十人のレイはものすごく怖いけど?
そんな表情にコンウェイは呆れていた。
「あの公爵は木の枝を使って何してるんだ?」
「たぶんシェリーを探してる。
今日の訪問の目的は主にふたつだろう。
ホルスト卿の再審を請うことと、シェリーをヴァルトへ連れて行くこと」
その言葉にコンウェイはグラントの腕を引く。
「それならなんでグラントがあの殿下のところにいないんだ。
彼女に望まれてるのはあの隊長じゃないだろう」
シェリーの望み。
聞いたことがなかった。
今のままで心地いい。それで満足だったから。
「グラント、のろのろするな。
彼女が目の前から消えて泣くのは自分なんだぞ」
グラントがコンウェイに何か言い返そうと口を開く。
その背に何かぶつかってきた。
自分の腹から祖母の木が生えている。
コンウェイとの間に割り入って、ウィラードが肩に手を添えた。
「シェリー殿下をヴァルトの賓客として招く。
今日は邪魔をするなよ。グラント・ルース」
驚愕した一瞬のうちにその姿は消える。
「館の枝か……っ」
膝をついて背後を見た。
あんなにあった枝が今はなくなっている。
全部ここへ来る。
枝を折り取って捨てた。
コンウェイがそばで倒れそうな顔になっている。
「平気だ。痛いけど」
脂汗だかなんだか分からない口元を一度袖で拭った。
「僧侶」
杖を握って負傷を治す。
幸い骨に異常はなかった。
「コンウェイ、離れないで。枝が来る」
館に向き直って杖を構える。
魔法で周りを囲むのと同時だった。
枝の津波が押し寄せて通り過ぎていく。
こんな数で館を探索されたらすぐ見つかってしまう。
レイたちも無事では済まない。
シェリーを守れない。
侍従がそれをジャックスに報告している間、ウィラードは言う。
「私が成人する前からの言質録です。
記したのはヴァルトに赴任していた神父。証拠になるでしょう?」
ジャックスは玉座の周りを見回した。
レミーがいない。
「それによると明らかです。
祖父がどうして罪人になったのか。そこに記されている」
「燃やして」
ウィラードの言葉を遮るようにジャックスが命じた。
侍従もウィラードも動きを止める。
「再審議してあげる。けれどこんなのは証拠にならないから」
ジャックスには受け入れがたかった。
それは伝わった。
ヴァルト公爵は数秒の間ジャックスを見つめる。
侍従が戸惑いながら暖炉に投げ入れようと踵を返した。
何かにつかまえられて、彼は書類を取り落とす。
木の枝が床から生えていた。
腕を足を取られて身動きが封じられている。
「ラーポ、彼を止めて」
グラントが素早く命じた。
大カラスが末席から飛び立って玉座へ向かう。
玉座の前の床から生えてきた枝をとらえると後ろに引いた。
レミーの野望のために重要な役割を果たすジャックスを襲うなんて。
話がついているはずの二人の間でこれは承知されたことなのか。
それにしてもレミーがどこにもいないのは。
グラントは駆け出しながら考える。
そんなはずはないが。
別の可能性に己で首を振った。
グイドが思い浮かんだのだ。
まさか、ここまでしておいて、決裂が生じている?
「代わる。ラーポは逃げて」
グラントがすでに玉座の前に回っている。
棘が飛び出す前にラーポは天井近くへ逃れた。
襟の紋章に触れていたウィラードがグラントを睨み上げる。
「魔法使い」
枝が迫ってきた。
グラントは避けずにその一つを右手で掴む。
「王の退避を」
バロールに向かって叫んだ。
獣の手で枝を引く。
床から生え出した枝が途中でちぎれた。
「ここが終わったらおまえに話がある」
ウィラードが嬉しそうに笑う。
その姿が一度、グラントの眼前に迫った。
「用件は分かってるな」
一言言い置いて彼は離れる。
後ろを振り向くと、口を開けているジャックスをバロールの団員が連れ出すところだ。
枝は騎士団をジャックスから引き剥がし始める。
ホールの中が混乱した。
ウィラードひとりに空間が掻き回される。
グラントは床に落ちた書類を拾った。
「グラント」
アッシャーに声をかけられる。
隊は広間を出て行くところだった。
「私はカーラ殿下と約束していたから、そちらへ警護に出向く」
内乱の際の保護を、ワルタハンガが約束していた。
抗議しかけたグラントを制してアッシャーは言う。
「間もなく兵役期間を終える者は別働隊として都に置いていく。
我々はこんな怖いところに居られない。跡形もなく消えてしまう。
グラントのおばあさまではないにせよね」
傍で主人を守ろうと立ちはだかった魔物が棘に刺されて消えた。
侯爵は優雅な動きでグラントに耳打ちする。
「この木はグラントの杖と同じ素材だよ。魔力が通る」
ふわりと、薄情なほど軽やかに離れていった。
民間の兵団が右往左往していた。
ジャックスはもう広間にいない。
ラーポに声をかけて、兵団を全て王宮の前庭に配置させた。
広い敷地内を見渡す。
城の背後にある館が見えた。
枝がかき抱くように包んでいる。
ホルストと暮らしていた場所だ。
ウィラードは慰めているのか。
もしくは懺悔。
「あれは、魔物か?」
ついてきたコンウェイが尋ねる。
グラントは首を振った。
「人間だよ」
重そうな足音が近づいてきてそちらを見る。
長剣を携えたレイがいた。
「シェリーの居所を言え。あの枝は敷地の至る所に出てくる。
どういうわけだか知らないが彼女はこの城にいるのだろう?」
尋問のような口調にコンウェイは警戒する。
背後にはクイルの騎士が何人かついていた。
グラントは通りに近い館に視線を向ける。
レイは急ぎ足でダヴィの館へ歩いた。
客用の棟からは城がよく見える。
そっと窺い見た。
三階の窓からこちらを見ている人がいる。
腕に抱いているのは、クッション? それとも。
「シェリー」
グラントは少し笑って呼びかけた。
場にそぐわないとは分かっていたけれど。
「目はどう?」
久しぶりのその顔を見たら緊迫した状況だって忘れていた。
グラントをちゃんと見ている。
その顔は心配顔だけれども。
よかった。薬は効いたのだ。
中で誰かがシェリーを呼んだ。
彼女はアリアを抱いたまま窓から離れた。
「近くに行ってあげよう。彼女不安そうだった」
コンウェイがグラントの背中を叩く。
「レイがクイルのみんなと行ったんだから。
わたしまで詰めかけたら威圧になる」
「あの騎士が十人で来るよりたったひとりのグラントの方が安心できそうだったぞ」
「……、そう?」
十人のレイはものすごく怖いけど?
そんな表情にコンウェイは呆れていた。
「あの公爵は木の枝を使って何してるんだ?」
「たぶんシェリーを探してる。
今日の訪問の目的は主にふたつだろう。
ホルスト卿の再審を請うことと、シェリーをヴァルトへ連れて行くこと」
その言葉にコンウェイはグラントの腕を引く。
「それならなんでグラントがあの殿下のところにいないんだ。
彼女に望まれてるのはあの隊長じゃないだろう」
シェリーの望み。
聞いたことがなかった。
今のままで心地いい。それで満足だったから。
「グラント、のろのろするな。
彼女が目の前から消えて泣くのは自分なんだぞ」
グラントがコンウェイに何か言い返そうと口を開く。
その背に何かぶつかってきた。
自分の腹から祖母の木が生えている。
コンウェイとの間に割り入って、ウィラードが肩に手を添えた。
「シェリー殿下をヴァルトの賓客として招く。
今日は邪魔をするなよ。グラント・ルース」
驚愕した一瞬のうちにその姿は消える。
「館の枝か……っ」
膝をついて背後を見た。
あんなにあった枝が今はなくなっている。
全部ここへ来る。
枝を折り取って捨てた。
コンウェイがそばで倒れそうな顔になっている。
「平気だ。痛いけど」
脂汗だかなんだか分からない口元を一度袖で拭った。
「僧侶」
杖を握って負傷を治す。
幸い骨に異常はなかった。
「コンウェイ、離れないで。枝が来る」
館に向き直って杖を構える。
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