ただの魔法使いです

端木 子恭

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闇に寄り添い、願いを結ぶ

魔法使いは、今日も

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 先王の忌明けを待って、ダヴィがお妃を迎えた。

 夏の終わりのことだった。



 お相手はあの、風の精霊を使う男の子の母だ。

 その人は結婚後すぐにあの子が生まれたものの、夫を亡くしていた。



 未亡人を王妃としたことに否を唱える人はなかった。
 むしろ若い頃からの気持ちを大切にしたとダヴィに支持が集まった。


 グラントはだいぶ前に結婚する話を聞いて、先にシェリーとお祝いに行った。
 ダヴィの婚礼の儀には出席できそうになかったのだ。

 貿易島で摩擦が起こり、調停に出かけなければならなかった。


 シェリーも伴っていた。

 ひと月ほどでラグラスに戻ってみると、港でダルコとラーポが待ち構えている。
 フランカの到着を知らされた。

 隣国の装飾の美しい客船を見ながら、浜辺の迎賓館へ急いだ。

「どうなさいましたか」

 迎賓館のサロンで自信なさそうな表情をしているフランカがいる。

「シェリー、こちらは隣国の姫君でフランカ様。
 レイとは昨年から手紙をやり取りしていて……」

 フランカはグラントと連れ立って来たシェリーを見ると膝を折って挨拶した。

「初めまして、辺境伯夫人。
 本日はお約束もなく訪れましたこと、どうかご容赦くださいませ」
「レイのことですか?」

 この方のこんな顔はだいたいあの人が理由。
 まるでそういう人形になったかのように何度も頷くのを宥める。

「侯爵を賜ったとのこと、お喜び申し上げるお手紙を送ったのです。
 春のうちにお返事が来てそれきりです。
 私は何かご機嫌を損ねてしまったのでしょうか?
 シュッツフォルトに越して来たいと申したのが余計だったのでしょうか」
「押してますね」

 相変わらずの圧にグラントはやや後ずさった。

「準備がなかなか終わらなくて、お誘いできないのではないでしょうか」

 シェリーがおろおろするフランカに言う。
 すると彼女はシェリーに取り縋った。

「こちらでは冬に大変なことがあったとか。
 私は役人としてお仕事をなさる卿のそばにいたくて申し出ただけ」
「思いつめないでください。フランカ様。
 レイはこの夏、国土省に通って領地を見て回っているのです」

 グラントが小さく肩を揺らす。
 そんなことを聞いてはこの方がどう出るか。


 分かりすぎた。


「領地とは……?」
「放棄された領地です。今は荒れ放題ですが」

 フランカが数歩離れた。


 なんの目的なのか聞きたくて心がざわついている。


 グラントは苦笑しながらそれを見た。
 押しかけられるのも、いいか。

「ラグラス公、私、都へ行こうと存じます。
 荷物は倉庫にでも押し込んでくださいませ。
 直に会ってお尋ねします」

 フランカはそう言い置いて踵を返した。
 急に気がついたようにややつんのめりながら止まる。

「存ぜぬことながら、まだお祝い申し上げておらず失礼いたしました。
 ご結婚お慶び申し上げます。ラグラス公、夫人」

 お辞儀をするとあっという間に港の方へ行ってしまった。

「愛らしい方」

 小さな背中を見送ってからシェリーが呟く。
 次の春にはまたいい報告があるのかもしれないと笑っていた。

 リケに戻ったメイソンの長男からも経過は順調であると手紙をもらっている。
 父の方は相変わらず心配が絶えないようだった。

「早く城へ戻ろう。陛下を迎える準備をしなきゃ」

 グラントが嘆息する。
 婚礼を終えたダヴィが家族でラグラスを訪れることになっていた。


 海砦を歩いているとダルコが誰かを捕まえている。


 現金が足りないからと、最初の兵役受け入れの時に地域通貨を作った。

 材料は引き揚げた船の端材だ。
 色のついた高価な木がよく揚がった。

 名目は商品券である。使い方が銅貨と似ているだけ。

 兵士たちはそれを支給され、余暇に使った。
 手元に残った分は兵役終了とともに通貨へ換金する。

 観光客にも人気だったので海砦で対象店舗のみ使えることにした。
 為替ができて換金所が大盛況だ。
 一方で偽造も出てきてちょっと煩わしい。

「グラント、ちょうどいいや。
 こいつ悪巧みのためにラグラスの通貨を持ち出そうとしたくせにシラを切るんだ」

 つまみ上げた人間をダルコが突き出してきた。
 幻術にかけると、偽造通貨で相場を操る企みを白状する。

 海砦の頭領に締め上げられる人間を救い出して警吏に預けた。

 シュトラールをウィラードに任せて少しは時間が空くかと思ったものの。
 相変わらずグラントにはさまざまなことがふりかかる。



 城に入るとオークが駆け寄ってきた。
 誰と来たのか分かってグラントは渋い顔をする。

「じじい」

 杖をついた怖い顔の人が廊下で出迎えていた。
 コーマックは今、大砦の主。

 シェリーは杖ともだちに笑顔で挨拶する。
 じじいはグラントには絶対に向けない優しいだけの顔になった。

「無事に戻られて何よりだ、夫人ミストレス
 領主は陛下より後になろうかと心配していた」

 後半は眉が若干寄ってグラントを向く。

「日程の心配か」
「ケリーから手紙が来ている。
 孤児院の子どもの相談があるというので、受けておいた」
「……」
「私宛に来た手紙だ。グラントに言ったら受けるだろう、どのみち」

 それはそうかもしれないが。

 ケリーからコーマックへ、孤児院の子どもの一人が会計の学校へ行きたがっていると相談があった。
 孤児院は今セリッサヒルの屋敷に移っている。
 ナタリオを見てその子どもは会計士に憧れたらしい。

 ラグラスは職人島から学校の先生も多く連れて来ていた。
 こちらで通わせたいという希望である。

「もちろん、受けるよ」

 ジェロディは都に残りウィラードを手伝ってそこそこ忙しくしていた。
 子どもを学校に通わせるのはちょっと大変だろう。

「シェリー、戻られましたね」

 キッチンを手伝っていたはずのフットマンがやってきた。
 手にはお菓子をそれぞれ掲げて持っている。

「お疲れになったでしょう」
「キッチンへどうぞ。試作のお菓子がたくさんございます」
「陛下のお好みなどお聞かせください」

 オークも合わせてわあわあと連れて行った。

 アリアの声も向こうで混ざる。
 試飲でなく飲んでいるだけのバレルを叱っていた。

 スイートが牛乳を飲みすぎたのは誰かとキツめに問うていた。
 エルネストが淡々と宥めている。

 エコーがシェリーにダヴィたちの好みの音楽はと尋ねた。
 モスがどこにいるのかわからないが、おそらくラーポが話しかけているところだ。



「ただいま」



 グラントがそれを眺めて小さく呟く。




 春の終わりにグラントの傷はようやく完治した。

 夏の初めにシェリーに告げた。


 人生が続く限り一緒にいたい。
 どうなろうとも、どこへ行こうとも。
 一緒にいればそこに幸せがあるから。

 
 忌明けはまだだったが、ラグラスにシェリーは来た。
 ウーシーが一言「認める」というだけで済んだ。

 城の傍にある小さな教会の中だった。
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