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いま必要なもの
AVANT
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お客様をお呼びした。
もうすぐいらっしゃる。
何を以てもてなそうか。
主は考える。
生まれは大陸のお方であるから。
吾の国の設はお好きであるかしら。
郷里の風光明媚な景色には及びもない。
されども此方には此方の良さがあろう。
庭園を整えながらあれこれ思いを巡らせた。
遠い遠い国の山中でお客様はお生まれになった。
両の親の願いでこの世にいで来て、それからはひとり。
さても長い旅をしてこの地へいらした。
小さき蝮のお姿の頃は心細かったことだろう。
草の根に潜み、明るみを避けて生き抜いた。
蛇としては大きな部類に入る頃には友もいたか。
鳥と話し、熊に飛び乗り。
気さくな性分のお客様のことだから。
手足を得た頃には目の利いた人間に飼われた。
こぶのような愛らしい角を愛でてくれる人間に。
この国へいらした時はもっと西の彼方にお住まいであった。
海峡をひと息に越えられなくて、海にもまれた。
ようやく陸地に流れ着いたが、幼いお客様は弱っていた。
海辺にひとり住んでいる人間が養ってくれた。
大変珍かな生き物である。
人間は一生をかけてお世話した。
大陸にいた時とは異なる生活が始まった。
この土地の人間はお客様を捕らえようとはしなかった。
王や貴人への献上品として追われることはなかったのだ。
こちらで出会う人間は、お客様を敬った。
まだ神ではないのに。
世話になった人間は数十年で老いて死んでしまう。
お客様はその度に弔いをなされた。
いつも立ち替わって世話をしてくれる人間がお好きでいらした。
主は門の埃をはらうと中へ入った。
庭の池の中に杜若を植える。
大きな魚を放した。
朱塗りの橋をかけて、小舟を浮かべる。
そうしておいて玄関をくぐった。
第一の間には何を置くべきか。
主はまたしばし考える。
お客様はお餅の好きな方である。
お餅そのものというより、それにまつわる思い出が好きなのだ。
川に近い農村を渡り歩くことが多かった。
お客様は祝いの席に必ず出てくる餅がお好きだ。
第一の間には膳の上にてんこ盛りのお餅を用意した。
それだけでは絵面がおとなしいと思い直す。
二十ほどの膳を用意した。
飯や、大福や、酒など、賑やかな食べ物を並べる。
第二の間には箪笥を用意した。
中には恭しく色とりどりの鉱石を台座に据える。
お客様はとりわけ藍銅鉱の色味を好まれる。
環にしておいた。
奥の間には文机を。
お客様は一番惹かれないかもしれない。
けれどもいま必要なものを何枚か置いた。
心苦しいことであるが、お招き致すのはお客様おひとり。
お連れの方にはお待ちいただかねば。
飽いてお疲れにならぬよう、気を遣わねばならない。
お客様の大切な方である。
主は思案した。
お連れさまはお客様のことを全くご存知ない。
千年という時間も実感されておらぬ。
ただ、今、目の前のお客様を可愛がっている。
物語をして差し上げるのはどうか。
くどくどしてはいけない。
お連れさまが飽きずに読んでいられるように。
さて、どのように為そうか……。
もうすぐいらっしゃる。
何を以てもてなそうか。
主は考える。
生まれは大陸のお方であるから。
吾の国の設はお好きであるかしら。
郷里の風光明媚な景色には及びもない。
されども此方には此方の良さがあろう。
庭園を整えながらあれこれ思いを巡らせた。
遠い遠い国の山中でお客様はお生まれになった。
両の親の願いでこの世にいで来て、それからはひとり。
さても長い旅をしてこの地へいらした。
小さき蝮のお姿の頃は心細かったことだろう。
草の根に潜み、明るみを避けて生き抜いた。
蛇としては大きな部類に入る頃には友もいたか。
鳥と話し、熊に飛び乗り。
気さくな性分のお客様のことだから。
手足を得た頃には目の利いた人間に飼われた。
こぶのような愛らしい角を愛でてくれる人間に。
この国へいらした時はもっと西の彼方にお住まいであった。
海峡をひと息に越えられなくて、海にもまれた。
ようやく陸地に流れ着いたが、幼いお客様は弱っていた。
海辺にひとり住んでいる人間が養ってくれた。
大変珍かな生き物である。
人間は一生をかけてお世話した。
大陸にいた時とは異なる生活が始まった。
この土地の人間はお客様を捕らえようとはしなかった。
王や貴人への献上品として追われることはなかったのだ。
こちらで出会う人間は、お客様を敬った。
まだ神ではないのに。
世話になった人間は数十年で老いて死んでしまう。
お客様はその度に弔いをなされた。
いつも立ち替わって世話をしてくれる人間がお好きでいらした。
主は門の埃をはらうと中へ入った。
庭の池の中に杜若を植える。
大きな魚を放した。
朱塗りの橋をかけて、小舟を浮かべる。
そうしておいて玄関をくぐった。
第一の間には何を置くべきか。
主はまたしばし考える。
お客様はお餅の好きな方である。
お餅そのものというより、それにまつわる思い出が好きなのだ。
川に近い農村を渡り歩くことが多かった。
お客様は祝いの席に必ず出てくる餅がお好きだ。
第一の間には膳の上にてんこ盛りのお餅を用意した。
それだけでは絵面がおとなしいと思い直す。
二十ほどの膳を用意した。
飯や、大福や、酒など、賑やかな食べ物を並べる。
第二の間には箪笥を用意した。
中には恭しく色とりどりの鉱石を台座に据える。
お客様はとりわけ藍銅鉱の色味を好まれる。
環にしておいた。
奥の間には文机を。
お客様は一番惹かれないかもしれない。
けれどもいま必要なものを何枚か置いた。
心苦しいことであるが、お招き致すのはお客様おひとり。
お連れの方にはお待ちいただかねば。
飽いてお疲れにならぬよう、気を遣わねばならない。
お客様の大切な方である。
主は思案した。
お連れさまはお客様のことを全くご存知ない。
千年という時間も実感されておらぬ。
ただ、今、目の前のお客様を可愛がっている。
物語をして差し上げるのはどうか。
くどくどしてはいけない。
お連れさまが飽きずに読んでいられるように。
さて、どのように為そうか……。
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