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神さま
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年始からよく働いた。
大きな釜に四つ分の甘酒を振る舞い切った。
お駄賃にお餅をもらって昊はとても喜んでいる。
昼前にお参りに来た阿呂は娘を藍に見せた。
赤子は容赦なく髪をむしった。
昊が満足そうだった。
帰る時には気合を入れて神様にお願いした。
昊が天にのぼれますように。
ちゃんと龍になれますように。
土地の神様の守備範囲からは外れるかもしれない。
しかしそこは神様だ。
きっと連絡網を伝って叶えてくれそうな神様と話してくれる。
人の少ない元日午後の道を、稔次と3人で行く。
線路沿いの細道は今日は歩道のようだ。
「昊は天に飛んで行く時、稔次を連れていくの?」
仲良さそうな雷獣を。
「どうかな。稔次がついて来たいなら来るんだろう」
「意外。あっさりしてるんだね」
「雷獣は喧嘩弱いから。天にのぼってもなあ」
「戦力外かよ」
冷徹だった。
「昊は誰かに聞いたの? 龍の世界の話。
親もいなかったし、行ったこともないんだよね?」
そばをローカル車両が通っていく。
「竜王のところで聞いた。正確には従者づてにだが」
竜王とは。
ぽかんとしている藍を見て、昊は大きな口で笑った。
「海の底には八人の竜王がいて、世界の海を見守っておられる。
俺は稔次が海を渡る途中で消息を絶ったと聞いた。
で、探しに行ったんだ。海底へ」
150年前に海へ冒険に出ていたこの龍。
藍はもう一度あの家に行きたくなった。
そのへんは見逃した場面も多いのだ。
昊が玄関で話していたから。
神さまは送信してくれないだろうか。
「蛟龍が竜王に会いにくるのは仕官の時くらいだから。
珍しがられて話をしてもらえた。
竜王は普段人間のお姿で、かっこいいんだぞ」
「仕官?」
「天にのぼる力がない蛟龍は、その先あまり選べる道がない。
一つが海の底の竜王の国で従者にしてもらうことだ。
死ぬ思いで海底に辿り着いて仕官を願っても、雇ってもらえなければ地上に戻るしかないんだが」
龍の世界は相変わらず厳しい。
「俺は稔次を探していると話した。
探ってくれている間、従者から龍の国のことを聞いた」
二代目稔次が足元で跳ねた。
呼んだ? って聞いているみたい。
「竜王の元に遊びに訪れる老練の龍から従者は聞いたそうだ」
「又聞きか」
「しかも老練の、という箇所がな」
話は盛られているに違いなかった。
「それでも楽しい話だ。
ありがたく拝聴した」
昊はそしてちょっと嘆息する。
「残念だったが、稔次は見つからなかった。
それで俺は地上へ戻った」
昊はいつも世話になった人間を弔ってきた。
その人だけできなかったのでは心残りだったろう。
「仕官できなかった蛟龍はどうなるの?」
藍が聞く。
昊は言うのも恐ろしいというような顔をした。
「弱って死ぬのを待つ」
「厳しいんだって」
元日から野生の掟が厳しい。
「その従者の名誉のために言っておくと。
彼は天には辿り着いたそうなんだ。
だから一瞬だけ龍の国を見た。
出たところが先住の龍の縄張りのど真ん中で」
「運が悪い」
「あっという間にはたき落とされたそうだ。
天にのぼる力はあった。
だから仕官が叶ったんだろう」
歩くのを拒否する姿勢を示す雷獣を、昊は抱き上げた。
「そんな怖い世界に行くか? 稔次」
間近に目を合わせて問いかける。
子タヌキ風ポメラニアンに擬態している生物は、後ろ足をばたつかせた。
もちろん行く、と言っているように見えた。
大きな釜に四つ分の甘酒を振る舞い切った。
お駄賃にお餅をもらって昊はとても喜んでいる。
昼前にお参りに来た阿呂は娘を藍に見せた。
赤子は容赦なく髪をむしった。
昊が満足そうだった。
帰る時には気合を入れて神様にお願いした。
昊が天にのぼれますように。
ちゃんと龍になれますように。
土地の神様の守備範囲からは外れるかもしれない。
しかしそこは神様だ。
きっと連絡網を伝って叶えてくれそうな神様と話してくれる。
人の少ない元日午後の道を、稔次と3人で行く。
線路沿いの細道は今日は歩道のようだ。
「昊は天に飛んで行く時、稔次を連れていくの?」
仲良さそうな雷獣を。
「どうかな。稔次がついて来たいなら来るんだろう」
「意外。あっさりしてるんだね」
「雷獣は喧嘩弱いから。天にのぼってもなあ」
「戦力外かよ」
冷徹だった。
「昊は誰かに聞いたの? 龍の世界の話。
親もいなかったし、行ったこともないんだよね?」
そばをローカル車両が通っていく。
「竜王のところで聞いた。正確には従者づてにだが」
竜王とは。
ぽかんとしている藍を見て、昊は大きな口で笑った。
「海の底には八人の竜王がいて、世界の海を見守っておられる。
俺は稔次が海を渡る途中で消息を絶ったと聞いた。
で、探しに行ったんだ。海底へ」
150年前に海へ冒険に出ていたこの龍。
藍はもう一度あの家に行きたくなった。
そのへんは見逃した場面も多いのだ。
昊が玄関で話していたから。
神さまは送信してくれないだろうか。
「蛟龍が竜王に会いにくるのは仕官の時くらいだから。
珍しがられて話をしてもらえた。
竜王は普段人間のお姿で、かっこいいんだぞ」
「仕官?」
「天にのぼる力がない蛟龍は、その先あまり選べる道がない。
一つが海の底の竜王の国で従者にしてもらうことだ。
死ぬ思いで海底に辿り着いて仕官を願っても、雇ってもらえなければ地上に戻るしかないんだが」
龍の世界は相変わらず厳しい。
「俺は稔次を探していると話した。
探ってくれている間、従者から龍の国のことを聞いた」
二代目稔次が足元で跳ねた。
呼んだ? って聞いているみたい。
「竜王の元に遊びに訪れる老練の龍から従者は聞いたそうだ」
「又聞きか」
「しかも老練の、という箇所がな」
話は盛られているに違いなかった。
「それでも楽しい話だ。
ありがたく拝聴した」
昊はそしてちょっと嘆息する。
「残念だったが、稔次は見つからなかった。
それで俺は地上へ戻った」
昊はいつも世話になった人間を弔ってきた。
その人だけできなかったのでは心残りだったろう。
「仕官できなかった蛟龍はどうなるの?」
藍が聞く。
昊は言うのも恐ろしいというような顔をした。
「弱って死ぬのを待つ」
「厳しいんだって」
元日から野生の掟が厳しい。
「その従者の名誉のために言っておくと。
彼は天には辿り着いたそうなんだ。
だから一瞬だけ龍の国を見た。
出たところが先住の龍の縄張りのど真ん中で」
「運が悪い」
「あっという間にはたき落とされたそうだ。
天にのぼる力はあった。
だから仕官が叶ったんだろう」
歩くのを拒否する姿勢を示す雷獣を、昊は抱き上げた。
「そんな怖い世界に行くか? 稔次」
間近に目を合わせて問いかける。
子タヌキ風ポメラニアンに擬態している生物は、後ろ足をばたつかせた。
もちろん行く、と言っているように見えた。
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