サラの真っ白な地図

雪猫

文字の大きさ
29 / 36
本編

ついにダンスを披露します

しおりを挟む
サラが到着した時には全員が揃っていた。

「一体どこを迷ってきたのよ…」

サラのドレスの裾に付いた葉っぱや小枝を見て、ティアナは呆れた表情を浮かべた。

「ごめん…」

「…謝る暇があったらドレスを綺麗にしてちょうだい。もうすぐ二手に分かれてスタンバイするわよ」

ティアナの指示には無駄がない。
準備を終えた女子達がドレスの裾を綺麗にしてくれた。
途中クラスメイトから何やかんやと言われたが時間が無いので全て聞き流し、そのまま舞台脇に並んで開始の時を待った。






「次はBクラスによる発表です」

指揮者の合図で音楽が始まる。
男女が舞い踊るバロックダンスは基本的に単純な振付である。
一番手はティアナとレオナルド。
全員が仮面で素顔を隠した妖しげな空間。軽やかに艶やかに踊る二人の姿に、会場からはため息が漏れた。

サラの出番は一番最後で、身長がほぼ等しいニコラスと踊る事になっている。
ニコラスも特訓のおかげで子鹿ダンスを無事卒業し、リズムの取り方も上達していた。
練習通りにやれば大丈夫、と本番前に二人で気合いを入れた。

出番まで、あと三人…


─その時、会場が軽くどよめいた。


誰かが舞台の端でしゃがみ込んでいる。

ニコラス…いや、違う。あれは…ブレットだ。

苦痛に顔を歪めながら足首を押さえていた。

ブレットが踊れない…

クラスメイト達の表情が硬くなる。
ブレットの出番で男子が一人ずつ繰り上がり、ニコラスがサラとの対称からずれた。
このままでは、女子として最後に踊るサラの相手がいなくなってしまう。

ちらりとティアナを見たが、彼女も何も出来ず歯痒そうな顔をしていた。

今更音楽を止める事は出来ない。

男子が余るからと女子役になって、女子役の男子が最後にペア不在で取り残されてしまうなんて…

サラの頭は混乱した。

どうすればいい? 一人で踊る……?

一体私はどうしたら……!





「ユリウス、来い!!」





「…レオナルドっ!」


重い空気の中、サラに向かって強く真っ直ぐに差し伸ばされた手。

サラは答えるようにその名を叫んだ。



…レオナルドが二度踊る…!

クラスメイト達が間を空け、道を作る。
お互いに、場の雰囲気を壊さぬよう音楽に合わせて近寄るが、一番手で踊っていたレオナルドは対となるサラとの距離が遠い。

レオナルドがこれ以上スピードを出すとリズムが崩れてしまう…。


私が…行くしかない…!



「……!」

サラはステップにターンを追加した。
本来のリズムを崩さぬよう音楽に合わせながら少しずつ移動距離を伸ばしていく。
1ターンの所は2ターン
…2ターンの所は3ターン…


あと、少し…

届け…届け………っ!



全員が固唾を飲んで見守る中…

サラの体が一瞬くらっと揺れた。


「…届いたっ!」


誰かの声がした。


サラの手を掴んだ大きな手。

霞みかけた視界にレオナルドの顔が見えた。

レオナルドが笑ってる…

こんな緊迫した場面なのに、変なの。

サラも笑った。

中央から少し外れた所で二人で踊る。
皆が中央を開けて待っていた。ふらつく体をレオナルドにフォローしてもらいながらゆっくりと移動する。
サラ達が目指した場所で音楽が止んだ。


最後まで二人の手はしっかりと繋がれたまま、拍手と共に幕を閉じた。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

処理中です...