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本編
ついにダンスを披露します
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サラが到着した時には全員が揃っていた。
「一体どこを迷ってきたのよ…」
サラのドレスの裾に付いた葉っぱや小枝を見て、ティアナは呆れた表情を浮かべた。
「ごめん…」
「…謝る暇があったらドレスを綺麗にしてちょうだい。もうすぐ二手に分かれてスタンバイするわよ」
ティアナの指示には無駄がない。
準備を終えた女子達がドレスの裾を綺麗にしてくれた。
途中クラスメイトから何やかんやと言われたが時間が無いので全て聞き流し、そのまま舞台脇に並んで開始の時を待った。
◆
「次はBクラスによる発表です」
指揮者の合図で音楽が始まる。
男女が舞い踊るバロックダンスは基本的に単純な振付である。
一番手はティアナとレオナルド。
全員が仮面で素顔を隠した妖しげな空間。軽やかに艶やかに踊る二人の姿に、会場からはため息が漏れた。
サラの出番は一番最後で、身長がほぼ等しいニコラスと踊る事になっている。
ニコラスも特訓のおかげで子鹿ダンスを無事卒業し、リズムの取り方も上達していた。
練習通りにやれば大丈夫、と本番前に二人で気合いを入れた。
出番まで、あと三人…
─その時、会場が軽くどよめいた。
誰かが舞台の端でしゃがみ込んでいる。
ニコラス…いや、違う。あれは…ブレットだ。
苦痛に顔を歪めながら足首を押さえていた。
ブレットが踊れない…
クラスメイト達の表情が硬くなる。
ブレットの出番で男子が一人ずつ繰り上がり、ニコラスがサラとの対称からずれた。
このままでは、女子として最後に踊るサラの相手がいなくなってしまう。
ちらりとティアナを見たが、彼女も何も出来ず歯痒そうな顔をしていた。
今更音楽を止める事は出来ない。
男子が余るからと女子役になって、女子役の男子が最後にペア不在で取り残されてしまうなんて…
サラの頭は混乱した。
どうすればいい? 一人で踊る……?
一体私はどうしたら……!
「ユリウス、来い!!」
「…レオナルドっ!」
重い空気の中、サラに向かって強く真っ直ぐに差し伸ばされた手。
サラは答えるようにその名を叫んだ。
…レオナルドが二度踊る…!
クラスメイト達が間を空け、道を作る。
お互いに、場の雰囲気を壊さぬよう音楽に合わせて近寄るが、一番手で踊っていたレオナルドは対となるサラとの距離が遠い。
レオナルドがこれ以上スピードを出すとリズムが崩れてしまう…。
私が…行くしかない…!
「……!」
サラはステップにターンを追加した。
本来のリズムを崩さぬよう音楽に合わせながら少しずつ移動距離を伸ばしていく。
1ターンの所は2ターン
…2ターンの所は3ターン…
あと、少し…
届け…届け………っ!
全員が固唾を飲んで見守る中…
サラの体が一瞬くらっと揺れた。
「…届いたっ!」
誰かの声がした。
サラの手を掴んだ大きな手。
霞みかけた視界にレオナルドの顔が見えた。
レオナルドが笑ってる…
こんな緊迫した場面なのに、変なの。
サラも笑った。
中央から少し外れた所で二人で踊る。
皆が中央を開けて待っていた。ふらつく体をレオナルドにフォローしてもらいながらゆっくりと移動する。
サラ達が目指した場所で音楽が止んだ。
最後まで二人の手はしっかりと繋がれたまま、拍手と共に幕を閉じた。
「一体どこを迷ってきたのよ…」
サラのドレスの裾に付いた葉っぱや小枝を見て、ティアナは呆れた表情を浮かべた。
「ごめん…」
「…謝る暇があったらドレスを綺麗にしてちょうだい。もうすぐ二手に分かれてスタンバイするわよ」
ティアナの指示には無駄がない。
準備を終えた女子達がドレスの裾を綺麗にしてくれた。
途中クラスメイトから何やかんやと言われたが時間が無いので全て聞き流し、そのまま舞台脇に並んで開始の時を待った。
◆
「次はBクラスによる発表です」
指揮者の合図で音楽が始まる。
男女が舞い踊るバロックダンスは基本的に単純な振付である。
一番手はティアナとレオナルド。
全員が仮面で素顔を隠した妖しげな空間。軽やかに艶やかに踊る二人の姿に、会場からはため息が漏れた。
サラの出番は一番最後で、身長がほぼ等しいニコラスと踊る事になっている。
ニコラスも特訓のおかげで子鹿ダンスを無事卒業し、リズムの取り方も上達していた。
練習通りにやれば大丈夫、と本番前に二人で気合いを入れた。
出番まで、あと三人…
─その時、会場が軽くどよめいた。
誰かが舞台の端でしゃがみ込んでいる。
ニコラス…いや、違う。あれは…ブレットだ。
苦痛に顔を歪めながら足首を押さえていた。
ブレットが踊れない…
クラスメイト達の表情が硬くなる。
ブレットの出番で男子が一人ずつ繰り上がり、ニコラスがサラとの対称からずれた。
このままでは、女子として最後に踊るサラの相手がいなくなってしまう。
ちらりとティアナを見たが、彼女も何も出来ず歯痒そうな顔をしていた。
今更音楽を止める事は出来ない。
男子が余るからと女子役になって、女子役の男子が最後にペア不在で取り残されてしまうなんて…
サラの頭は混乱した。
どうすればいい? 一人で踊る……?
一体私はどうしたら……!
「ユリウス、来い!!」
「…レオナルドっ!」
重い空気の中、サラに向かって強く真っ直ぐに差し伸ばされた手。
サラは答えるようにその名を叫んだ。
…レオナルドが二度踊る…!
クラスメイト達が間を空け、道を作る。
お互いに、場の雰囲気を壊さぬよう音楽に合わせて近寄るが、一番手で踊っていたレオナルドは対となるサラとの距離が遠い。
レオナルドがこれ以上スピードを出すとリズムが崩れてしまう…。
私が…行くしかない…!
「……!」
サラはステップにターンを追加した。
本来のリズムを崩さぬよう音楽に合わせながら少しずつ移動距離を伸ばしていく。
1ターンの所は2ターン
…2ターンの所は3ターン…
あと、少し…
届け…届け………っ!
全員が固唾を飲んで見守る中…
サラの体が一瞬くらっと揺れた。
「…届いたっ!」
誰かの声がした。
サラの手を掴んだ大きな手。
霞みかけた視界にレオナルドの顔が見えた。
レオナルドが笑ってる…
こんな緊迫した場面なのに、変なの。
サラも笑った。
中央から少し外れた所で二人で踊る。
皆が中央を開けて待っていた。ふらつく体をレオナルドにフォローしてもらいながらゆっくりと移動する。
サラ達が目指した場所で音楽が止んだ。
最後まで二人の手はしっかりと繋がれたまま、拍手と共に幕を閉じた。
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