30 / 36
本編
本番のその後
しおりを挟む「皆さんお疲れさまでした」
ケリー先生が笑顔で出迎えてくれた。舞台を降りた生徒達一人一人に労いの言葉をかけていく。
「ユリウスも、よく頑張りましたね」
穏やかに微笑むケリー先生に笑顔で返そうとしたサラに、重く気怠い違和感が襲った。
視界が霞み、景色が斜めに歪む。
き…気持ちわるい……
立っていられない程の不快な感覚に、サラはふらつき、膝をついた。
「ユリウス!」
レオナルドが倒れ込みそうなサラの体を受け止める。
「大丈夫…」
そうは言いつつも体は重力に打ち勝てず、レオナルドに寄りかかってしまう。
「…目眩を起こしたのかな」
ケリー先生がサラの顔を覗き込んだ。
「軽い眼振が起こってる。…少し休んだ方ががいいね」
「きっと…目が…回ったんだと思…」
説明しようとしてケリー先生に制止された。サラの両目がそっと手で覆われる。
「急に動いたら駄目だよ…と言いたい所なんだけど、ずっとここに居られないんだよね。次の出演者に譲らないと」
文化祭本部役員の生徒がこちらの様子をチラチラ見ている。出番の終わったBクラスは舞台近辺から退去するように、との指令が出ていた。
「とりあえず、ユリウス以外の皆は控え室に戻って着替えましょう」
級長であるティアナがざわめくBクラスの生徒たちに指示を出した。
さすがティアナ…とサラは瞼を閉じた暗闇の中で感心していると。
突然ふわりと体が宙に浮いた。
地上から足がすくい上げられる。
「わっ…!」
サラは驚いて目を開く。倒れ込んでいた体はレオナルドに抱きかかえられていた。
ドレスを着ている今、完全にお姫様抱っこ状態である。
「お、落ちる…っ」
体が不自然な体勢で浮いている事にサラは慄いた。
動きたいのに動けず、おろおろと挙動不審になってしまう。
赤ちゃんはこんな不安定な抱っこをされているのかと何故か同情したい気持ちになった。
「…手を首に回すといいよ」
いつの間にか横にいたニコラスが、真顔でサラに耳打ちをした。
教えられるまま、レオナルドの首に手を回す…。
「…………!」
─こ、これってお姫様抱っこ完成形なのでは?!
自分の体勢に気付いてサラは固まった。
サラを抱き上げているレオナルドは耳まで赤くなっている。
何か色々と…男子なのにとか、男子が女装してるだとか、中身は女子だけど、とか…感情が複雑に絡んで恥ずかしい。
「や、やっぱり降ろして…レオナルド」
レオナルドにだけ聞こえるようにこそっと告げた。
「……このまま連れて行く」
「えっ…いや、まっ…」
っええええーーーっ!
サラは心の中で悲鳴を上げた。
めまいどころじゃなく…動悸がして心臓に悪い!
一方、有言実行のレオナルドはしっかりとサラを抱きかかえ、控え室へと歩き出した。
「…面白いものを見てしまいましたね」
「あ、先生も思った?」
二人の姿を見送り、ニコラスが伸びをしながら笑う。
「放っておけないというか構いたくなるんだよねー」
「あまり虐めちゃ駄目ですよ」
「心外だなぁ。泣かせて喜ぶ趣味はないよ」
ケリー先生は目を細める。
「…どうか君たちは…いつまでも良い友人でいて下さいね」
そう言って、ケリーは去っていった。
どこか含みを持たせた言葉にニコラスは首を傾げる。
「……恋愛関係になるな、って事かな…?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
離宮に隠されるお妃様
agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか?
侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。
「何故呼ばれたか・・・わかるな?」
「何故・・・理由は存じませんが」
「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」
ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。
『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』
愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる