サラの真っ白な地図

雪猫

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本編

本番のその後

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「皆さんお疲れさまでした」

ケリー先生が笑顔で出迎えてくれた。舞台を降りた生徒達一人一人に労いの言葉をかけていく。

「ユリウスも、よく頑張りましたね」

穏やかに微笑むケリー先生に笑顔で返そうとしたサラに、重く気怠い違和感が襲った。
視界が霞み、景色が斜めに歪む。

き…気持ちわるい……

立っていられない程の不快な感覚に、サラはふらつき、膝をついた。

「ユリウス!」

レオナルドが倒れ込みそうなサラの体を受け止める。

「大丈夫…」

そうは言いつつも体は重力に打ち勝てず、レオナルドに寄りかかってしまう。

「…目眩を起こしたのかな」

ケリー先生がサラの顔を覗き込んだ。

「軽い眼振が起こってる。…少し休んだ方ががいいね」

「きっと…目が…回ったんだと思…」

説明しようとしてケリー先生に制止された。サラの両目がそっと手で覆われる。

「急に動いたら駄目だよ…と言いたい所なんだけど、ずっとここに居られないんだよね。次の出演者に譲らないと」

文化祭本部役員の生徒がこちらの様子をチラチラ見ている。出番の終わったBクラスは舞台近辺から退去するように、との指令が出ていた。

「とりあえず、ユリウス以外の皆は控え室に戻って着替えましょう」

級長であるティアナがざわめくBクラスの生徒たちに指示を出した。

さすがティアナ…とサラは瞼を閉じた暗闇の中で感心していると。
突然ふわりと体が宙に浮いた。
地上から足がすくい上げられる。

「わっ…!」

サラは驚いて目を開く。倒れ込んでいた体はレオナルドに抱きかかえられていた。

ドレスを着ている今、完全にお姫様抱っこ状態である。


「お、落ちる…っ」


体が不自然な体勢で浮いている事にサラは慄いた。
動きたいのに動けず、おろおろと挙動不審になってしまう。
赤ちゃんはこんな不安定な抱っこをされているのかと何故か同情したい気持ちになった。


「…手を首に回すといいよ」


いつの間にか横にいたニコラスが、真顔でサラに耳打ちをした。
教えられるまま、レオナルドの首に手を回す…。



「…………!」


─こ、これってお姫様抱っこ完成形なのでは?!


自分の体勢に気付いてサラは固まった。
サラを抱き上げているレオナルドは耳まで赤くなっている。

何か色々と…男子なのにとか、男子が女装してるだとか、中身は女子だけど、とか…感情が複雑に絡んで恥ずかしい。

「や、やっぱり降ろして…レオナルド」

レオナルドにだけ聞こえるようにこそっと告げた。


「……このまま連れて行く」

「えっ…いや、まっ…」


っええええーーーっ!


サラは心の中で悲鳴を上げた。

めまいどころじゃなく…動悸がして心臓に悪い!


一方、有言実行のレオナルドはしっかりとサラを抱きかかえ、控え室へと歩き出した。






「…面白いものを見てしまいましたね」

「あ、先生も思った?」

二人の姿を見送り、ニコラスが伸びをしながら笑う。

「放っておけないというか構いたくなるんだよねー」

「あまり虐めちゃ駄目ですよ」

「心外だなぁ。泣かせて喜ぶ趣味はないよ」

ケリー先生は目を細める。

「…どうか君たちは…いつまでも良い友人でいて下さいね」

そう言って、ケリーは去っていった。


どこか含みを持たせた言葉にニコラスは首を傾げる。



「……恋愛関係になるな、って事かな…?」


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