その声で名前を呼んで、何度でも

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その声で名前を呼んで、何度でも

名前を呼んで

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「詩音。呼んで? 俺の名前」
「リュカ」
「詩音。詩音っ」
 自分の名前を呼べ、と頻繁に要求するこの恋人は、それと同じくらい、僕の名前も呼んでくれる。
 リュカの声で紡がれる僕の名。——詩音。
 彼と出会うまではあまり好きではなかった名前だけれど。涼やかで弾力のある歌声を生み出す声音で呼ばれると、希少な宝石のように価値のあるものに思えてしまうから不思議だ。
「詩音が俺を好きになってくれて良かった。出会えて良かった。前にも言ったけど、アイドル、もうやめようと思ってたんだ。でも、続けてて良かった。お前とデュオを組めたんだから」
「僕も同じ気持ちだよ。あの日、社長にスカウトされなかったら、リュカに会えなかった。新しい世界に飛び込んだ日は片想いが始まった日だったけど、毎日が幸せだった。両想いになれた今は、もっと幸せ」
 出会えて良かった、と僕がいつも思ってることを笑って言ってくれる人に、心に満ちてる想いをストレートに伝える。
「俺も幸せだよ。毎日、詩音への『好き』が加速していってる。止まんない」
「……っ、ぁ」
 気持ちを全部乗せた笑顔を向けると、艶声の『好き』とともに、しっとりしたキスが降ってきた。
 二人の手が重なる。
 指先だけがそっと絡められ、シーツから持ち上げられたそれの行き先は、恋人の口元。
「リュカ? 何してるの?」
「んー? ただの挨拶?」
 ただの挨拶……僕の手の甲にチュッチュッとキスしたり頬ずりしたり、指の節を甘噛みしたりするのが、リュカにとっては挨拶なの?

「嫌か?」
「全然。でも、ちょっと、くすぐったい」
「はぁ? 『Saiサイ Geminiジェミニ』のセクシー担当が渾身のお誘いをかましてんのに、くすぐったいだけ? ふざけんな」
「わっ!」
 突然、視界が変わった。
「しーおーんっ」
 僕の名を呻き声のように呼んだ恋人が、少々、乱暴とも言える強い力で覆いかぶさってきたんだ。
 情熱的な抱擁はとても嬉しいけど、鍛え抜かれた体格の容赦ない締めつけは、ちょっと痛い。
 それにしても、どの角度から見ても綺麗な顔だなぁ。
 顎下から鼻筋を見上げるアングルって、普通、視線に耐えられないと思うんだけど、こんなにドキドキしちゃう。美形は、ほんとにお得だ。
「あ……」
 しまった。呑気に見惚れてる場合じゃなかった。これを聞かなくちゃ。
「リュカ。今の、お誘いだったの? 渾身の」
「やめろ。『渾身の』を繰り返すな。俺、もう、セクシー担当、返上する。めちゃ良い雰囲気だったのに、詩音をその気にさせられなかったんだ。マジ、へこむ。これから俺のことは役立たずのセク担って呼んでくれ」
「ええぇ?」
 役立たずのセク担って……そんなこと言えないよ。僕のほうが一つ年上だけど、芸歴はリュカのほうが七年先輩なんだから。
 それに、役立たずなんかじゃない。人気アイドルデュオ、『Saiサイ Geminiジェミニ』のセクシー担当は、ふにゃーっと眉を下げて落ち込んでる表情ですら、うっとりするぐらいイメケン。
 フランスの有名俳優を父に持つ美形ハーフに色っぽくチュッチュされたり頬ずりされたりして、僕が『くすぐったい』以外に何も感じなかったわけないんだ。
 実はバッチリ、その気になってたよ。


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