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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【4−8】
しおりを挟む「違っ……奏人っ」
私たちがいる、一色家のプライベートビーチ。松が生い茂ってる林と岩場に挟まれていて、その上周囲には柵が張り巡らされてるからセキュリティーは万全って聞かされたけど。
ここは、外!
何度となく言ってる気がするけど、ここは外!
じゃあ外じゃなければいいのかと言われたら、それも困るけど。
でも、ここは外!
屋外でこんなこと、私には無理ぃ。
それに、もう夕方なんだから、一色くんたちが帰ってくるかもしれないじゃない。そうしたら……。
「奏人ぉ」
奏人とこうしてるところ、他人に見られたら……私、恥ずかしくて死んじゃうっ。
「やだぁ。見られたら、やだぁ……嫌なの」
奏人の後頭部に両手を回して身をよじり、小さく「嫌だ」と繰り返した。
恥ずかしい。とても。
胸元に顔を埋めてるせいで、奏人の髪が素肌にかかって、酷くくすぐったいのも。
私の柔らかな部分にあの形の良い唇が這い、軽く食んだり、そこをきつく吸い上げているのだと実感してしまうのも。とてもとても、恥ずかしい。
「ごめんね。泣いてない? 大丈夫?」
けれど、ゆるゆると首を振る私の頬に触れてきたこの指と唇の優しさも、とても愛おしいの。
奏人に痕をつけられるのは、恥ずかしいけど嫌じゃない。
私に印を残していく一連の動きに込められた奏人の『好き』が、直接体内に染み込んでくるから。
「ねぇ、わがままを聞いてくれてありがとう。とても綺麗についたよ。白いキャンバスに桜の花びらが舞ったみたいに」
薄く微笑んで見おろしてくる黒瞳が深みを増して私を絡め取ってくるから。だから――。
「もう、やだ。無理。恥ずかしい」
正直に言うの。
「涼香、ごめ……」
「でも綺麗についたなら、いいよ。奏人の『大好き』をいつも感じられるのは、すごく嬉しいから」
「涼香……」
「あっ! 今の『いい』は、いつでもどこでもオッケーって意味じゃないからね! 次からは、TPOを考えて……あーっ! 今の無し! 次は、ありませんっ!」
しまった。謝ってくれた奏人の表情に、胸がぎゅっと痛んで。それで、ついうっかり『次』の了解を口にするとこだったわ。危ない、危な……。
「承知しました。お姫様。言質《げんち》を取らせていただきましたので、次回以降は室内のみに限定いたします」
「……っ! 奏人っ?」
待って? そんな綺麗に微笑まれたら、ほんとに許可したことになっちゃう!
「室内で、ふたりきりの時ならいいんだね。許可ありがとう。ふふっ」
ああぁ、だから違うの。違うのよ。
「違っ。私が言いたかったのはっ……」
「駄目だよ。涼香が口にした約束でしょ? なら、守って?」
「あっ……んっ」
そうじゃない、違う、と言いたくて開いた口は、色めいた声を落としてきた唇に塞がれてしまった。何も言わせないかのように、強引に。
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