家庭訪問の王子様

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
7 / 9
第四章

chapter【4−1】

しおりを挟む



「なぁ、萌々ちゃん? 本当にやるのか?」
「もちろんよ。早くヤッちゃって、晶兄ちゃん。ほら、チャチャッと動くっ!」
「うー、マジかぁ。煌のヤツ、めちゃキレるんじゃね?」
 ビッと斜め上を指差した私に眉を下げて嫌そうな顔をした晶兄ちゃんだったけど、私の言う通り、行動を開始した。
 ――カチッ
 無機質な音が響き、晶兄ちゃんとその場で顔を見合わせて沈黙。反応を待つ。
「おわっ? なんだぁっ?」
「えっ? 何、何っ? 何が起きたん?」
 直後、煌兄ちゃんと武田くんの叫び声が二階から響いてきた。予想通りに。
 ふふふふっ。
「おい。今っ……あぁっ、やっぱり! お前らがブレーカーを落としやがったんだな!」
 勢いよくドアを開け放ち、階段を駆けおりてきた煌兄ちゃんが私たちに怒鳴る。一瞬で全てを察したようだ。
「この、どアホウ! ゲーム中だったのに、電源、全部落ちたじゃねぇか! 何してくれてんだよ!」
 わー、怒ってる、怒ってる。でも、これくらいは予想済みだもん。全然怖くないしー。
 てゆうか、私だって怒ってるんだもんね。それに、これは武田くんの奪還作戦なんだもん。どんなに怒られても引かない。
「煌兄ちゃん。電源落ちたなら、もうゲームは休憩したら? 皆でお茶しようよ、リビングで」
「あ? んな暇ねぇよ。有馬キャプテンから借りたソフトなんだから、明日には返すんだよ。つーわけで、お前らにはつき合えねぇ。じゃあな」
 えっ?
 強行作戦でリビングへと強制召還させるつもりだったのに、せっかく晶兄ちゃんに落とさせたブレーカーをチャッと元に戻した煌兄ちゃんは、また階段を上っていってしまう。
「ちょ、待ってよ。煌兄ちゃん!」
「お前ら、もう邪魔すんなよ。次に同じことヤッたら、ただじゃおかねぇからな」
「やっ、あの! せめて、武田くんだけでもリビングに……」
「萌々、うるせぇ。お前は、くだらねぇアニメ観てワーキャー言っときゃ、それでいいだろうが。あ、そうか。武田にアレは見せらんねぇか。だよなー。いくら呑気な武田でも、お前のアレ見たらドン引きだわ。引くわ、絶対」
「ひっ、ひどっ」
 階段を上っていく背中に手を伸ばしたけど、首だけをこっちに向けた相手からは見下すような声が飛んできただけ。

 ひどい!
 私だって、自分が重度のオタクだってこと、ちゃんとわかってる。けど、そんな言い方しなくてもいいじゃん!
「おい、煌。今の取り消せよ。萌々ちゃんに、なんてひどいこと言うんだ」
 階段に足をかけた状態で固まった私を追い抜いた晶兄ちゃんが、煌兄ちゃんに鋭い声を飛ばした。ショックで動けない私の代わりに怒ってくれてるんだ。
「あ? うっせぇよ。お前も、もうブレーカー落とすとか、わけわかんねぇことすんなよ。萌々と一緒にあの変なアニメでも観て、おとなしくしてろ」
 え、煌兄ちゃん、そこまで言う? 信じらんない。
「は? 俺はあんなマニアックなモン、観る趣味ねぇよ。そんな暇があったら筋トレしとくわ。観るなら、お前が観ろ。それより、萌々ちゃんへの暴言を謝れ」
 晶兄、ちゃん? あんなマニアックなモンって……。
「ああぁ? ふざけんな。俺は悪くねぇだろ。なんで、俺がそんなことしなきゃいけねん……」
 ――ガシャーンッ!
「やかましいっ!」
「萌々ちゃ……」
「萌々……」
「やかましいって言ったでしょ! 晶兄ちゃんも煌兄ちゃんも、いい加減、黙れ!」
 私が立てた物音に驚き、階段の中段から揃って視線を向けてきた二人を、下から怒鳴りつけた。

 この二人! もう、我慢できない!
 なんやかんや言いながら、結局、私のこと、けなしてるし!
「晶兄ちゃん! 煌兄ちゃん! 『ふざけんな』は、私のセリフよ!」
 階段の下で仁王立ち。間抜け顔の二人に、ビシッと人差し指を突きつけた。もう、我慢の限界!
「アニメが好きやったら、アカンの? 声優さんに萌えてたら、アカンの? ――晶兄ちゃん!」
「え? なんで、俺?」
「名前を呼ばれたら、すぐに返事するもんやろ!」
「はっ、はい!」
「私のアニメ好きをばかにしてるけど、晶兄ちゃんなんか、望遠鏡で星空見ながらアホみたいなウットリ顔かまして、恋人に話しかけるみたいにブツブツ呟いてるやん。星を相手に囁く、あの姿、めっさ気持ち悪いし! ――それから煌兄ちゃん!」
「あ? 俺は関係ねぇ……」
「あんたも名前呼ばれたら、返事っ!」
「あ、あぁ」
「煌兄ちゃんかて、カッコつけて強面キャラ気取ってんのかもやけど。深夜にバスケ中継観ながら小声で『やべっ、たぎるわ』だの『おぉ、かっけーじゃねぇの』とかブツブツ言いながら、ひそかにプレイのシミュレーションしてるの知ってるんよ。あれも、めっちゃ気色悪いんやからね!」
 もう、止まらない。さらに声が大きくなっていく。
「あんたら、兄弟揃ってブツブツキャラか! てゆうか、兄ブツブツと弟ブツブツやから、これから『ダブルブツブツ』って兄弟コンビになったらええねん! せや、そこに並び。私が今から宣材写真を撮ったげるわ。嬉しいやろ? これから学校でもブツブツコンビの『祥徳のダブルブツブツ』として活動しいや! まぁ、あんたらなんか、どうせ人気者にはなられへんやろうけどね! だって、二人とも最低最悪! 人への思いやりが欠片も無いんやからっ!」
 はぁぁ、と息を切らし、心のままに叫びまくった。
 声優さんのことまではディスられてなかったけど、普段から小馬鹿にされてたこととかが積もり積もってたせいか、全部ひっくるめてぶちまけてやった。

「はあぁぁ」
 息を整えるため、大きく深呼吸。沈黙の中、それを数回繰り返してから、しゃがむ。
 取りあえず、アホでブツブツな二人を怒鳴りつけてスッキリ。だから、さっき大きな物音を立てた原因を片づけることにした。けど――。
 ――ポタッ
 床に、雫が落ちていく。
「……うっ……ふ、ぅっ」
 おかしい。スッキリしたはずなのに、涙が止まらない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...