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第四章
chapter【4−1】
しおりを挟む「なぁ、萌々ちゃん? 本当にやるのか?」
「もちろんよ。早くヤッちゃって、晶兄ちゃん。ほら、チャチャッと動くっ!」
「うー、マジかぁ。煌のヤツ、めちゃキレるんじゃね?」
ビッと斜め上を指差した私に眉を下げて嫌そうな顔をした晶兄ちゃんだったけど、私の言う通り、行動を開始した。
――カチッ
無機質な音が響き、晶兄ちゃんとその場で顔を見合わせて沈黙。反応を待つ。
「おわっ? なんだぁっ?」
「えっ? 何、何っ? 何が起きたん?」
直後、煌兄ちゃんと武田くんの叫び声が二階から響いてきた。予想通りに。
ふふふふっ。
「おい。今っ……あぁっ、やっぱり! お前らがブレーカーを落としやがったんだな!」
勢いよくドアを開け放ち、階段を駆けおりてきた煌兄ちゃんが私たちに怒鳴る。一瞬で全てを察したようだ。
「この、どアホウ! ゲーム中だったのに、電源、全部落ちたじゃねぇか! 何してくれてんだよ!」
わー、怒ってる、怒ってる。でも、これくらいは予想済みだもん。全然怖くないしー。
てゆうか、私だって怒ってるんだもんね。それに、これは武田くんの奪還作戦なんだもん。どんなに怒られても引かない。
「煌兄ちゃん。電源落ちたなら、もうゲームは休憩したら? 皆でお茶しようよ、リビングで」
「あ? んな暇ねぇよ。有馬キャプテンから借りたソフトなんだから、明日には返すんだよ。つーわけで、お前らにはつき合えねぇ。じゃあな」
えっ?
強行作戦でリビングへと強制召還させるつもりだったのに、せっかく晶兄ちゃんに落とさせたブレーカーをチャッと元に戻した煌兄ちゃんは、また階段を上っていってしまう。
「ちょ、待ってよ。煌兄ちゃん!」
「お前ら、もう邪魔すんなよ。次に同じことヤッたら、ただじゃおかねぇからな」
「やっ、あの! せめて、武田くんだけでもリビングに……」
「萌々、うるせぇ。お前は、くだらねぇアニメ観てワーキャー言っときゃ、それでいいだろうが。あ、そうか。武田にアレは見せらんねぇか。だよなー。いくら呑気な武田でも、お前のアレ見たらドン引きだわ。引くわ、絶対」
「ひっ、ひどっ」
階段を上っていく背中に手を伸ばしたけど、首だけをこっちに向けた相手からは見下すような声が飛んできただけ。
ひどい!
私だって、自分が重度のオタクだってこと、ちゃんとわかってる。けど、そんな言い方しなくてもいいじゃん!
「おい、煌。今の取り消せよ。萌々ちゃんに、なんてひどいこと言うんだ」
階段に足をかけた状態で固まった私を追い抜いた晶兄ちゃんが、煌兄ちゃんに鋭い声を飛ばした。ショックで動けない私の代わりに怒ってくれてるんだ。
「あ? うっせぇよ。お前も、もうブレーカー落とすとか、わけわかんねぇことすんなよ。萌々と一緒にあの変なアニメでも観て、おとなしくしてろ」
え、煌兄ちゃん、そこまで言う? 信じらんない。
「は? 俺はあんなマニアックなモン、観る趣味ねぇよ。そんな暇があったら筋トレしとくわ。観るなら、お前が観ろ。それより、萌々ちゃんへの暴言を謝れ」
晶兄、ちゃん? あんなマニアックなモンって……。
「ああぁ? ふざけんな。俺は悪くねぇだろ。なんで、俺がそんなことしなきゃいけねん……」
――ガシャーンッ!
「やかましいっ!」
「萌々ちゃ……」
「萌々……」
「やかましいって言ったでしょ! 晶兄ちゃんも煌兄ちゃんも、いい加減、黙れ!」
私が立てた物音に驚き、階段の中段から揃って視線を向けてきた二人を、下から怒鳴りつけた。
この二人! もう、我慢できない!
なんやかんや言いながら、結局、私のこと、けなしてるし!
「晶兄ちゃん! 煌兄ちゃん! 『ふざけんな』は、私のセリフよ!」
階段の下で仁王立ち。間抜け顔の二人に、ビシッと人差し指を突きつけた。もう、我慢の限界!
「アニメが好きやったら、アカンの? 声優さんに萌えてたら、アカンの? ――晶兄ちゃん!」
「え? なんで、俺?」
「名前を呼ばれたら、すぐに返事するもんやろ!」
「はっ、はい!」
「私のアニメ好きをばかにしてるけど、晶兄ちゃんなんか、望遠鏡で星空見ながらアホみたいなウットリ顔かまして、恋人に話しかけるみたいにブツブツ呟いてるやん。星を相手に囁く、あの姿、めっさ気持ち悪いし! ――それから煌兄ちゃん!」
「あ? 俺は関係ねぇ……」
「あんたも名前呼ばれたら、返事っ!」
「あ、あぁ」
「煌兄ちゃんかて、カッコつけて強面キャラ気取ってんのかもやけど。深夜にバスケ中継観ながら小声で『やべっ、たぎるわ』だの『おぉ、かっけーじゃねぇの』とかブツブツ言いながら、ひそかにプレイのシミュレーションしてるの知ってるんよ。あれも、めっちゃ気色悪いんやからね!」
もう、止まらない。さらに声が大きくなっていく。
「あんたら、兄弟揃ってブツブツキャラか! てゆうか、兄ブツブツと弟ブツブツやから、これから『ダブルブツブツ』って兄弟コンビになったらええねん! せや、そこに並び。私が今から宣材写真を撮ったげるわ。嬉しいやろ? これから学校でもブツブツコンビの『祥徳のダブルブツブツ』として活動しいや! まぁ、あんたらなんか、どうせ人気者にはなられへんやろうけどね! だって、二人とも最低最悪! 人への思いやりが欠片も無いんやからっ!」
はぁぁ、と息を切らし、心のままに叫びまくった。
声優さんのことまではディスられてなかったけど、普段から小馬鹿にされてたこととかが積もり積もってたせいか、全部ひっくるめてぶちまけてやった。
「はあぁぁ」
息を整えるため、大きく深呼吸。沈黙の中、それを数回繰り返してから、しゃがむ。
取りあえず、アホでブツブツな二人を怒鳴りつけてスッキリ。だから、さっき大きな物音を立てた原因を片づけることにした。けど――。
――ポタッ
床に、雫が落ちていく。
「……うっ……ふ、ぅっ」
おかしい。スッキリしたはずなのに、涙が止まらない。
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