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第三章
chapter【3−2】
しおりを挟む「あ、そうだ。君、バスケ部だろ? 萌々ちゃんはバスケものアニメも大好きでね。特に、男子部員たちが無駄にイケメンでキャッキャウフフと切磋琢磨してる系がお気に入りで、キャラクターの名前を略して続けて呼びながらウットリしてる時が最っ高に愛らし……んぐっ! んんんっ!」
――ガタンッ
「晶兄ちゃん、お腹すいたでしょ? 武田くんが鯛焼きも買ってくれてるから、食べたら? ほら、特別にアーンしてあげる。たっぷり味わってねっ」
「もっ、萌々ちゃ……ゴフッ!」
「えっ、花宮ちゃん? それ、一枚まるごと……」
「あ、いいんですよ。晶兄ちゃん、こう見えて大食いだから、鯛焼きはいつもこうやって食べてるんです。ねっ、晶兄ちゃん? 美味しいよねっ?」
余計なことをベラベラ喋る口を急いで塞ぐべく、咄嗟にローテーブルの上の鯛焼きを掴んで、ばか兄貴の口に突っ込んだ。
その勢いで、突き飛ばした晶兄ちゃんの後頭部がテレビボードにぶつかったけど、スルー。構わず上に馬乗りになって、突っ込んだ鯛焼きをさらにねじ込んでやる。
「同級生の前で余計なことばかり言う口は、この口ですかぁ? まだ喋り足りないなら、もう一枚、追加でねじ込んであげますけど、どうしますー? イエス? ノー? どっちー?」
「んんんっ、んんんっ!」
吐き出せないように口を覆い、さらに喉元もぐっと掴んで武田くんに聞こえないように囁けば、ぶんぶんと首が振られた。
恋してる相手の前で、青春バスケアニメをBLに変換してるアブナいヤツだとバラしかけたことは許し難いけど、反省したなら許してあげよう。今回だけは。
「は、花宮ちゃん。それって、まさかの……めちゃ情熱的な、騎乗……位」
両手を頬に当てて呟く武田くんが視界に入ったけど、聞こえなかったふりをした、その時。
「ただいま。あー、腹へった……ん? おい。なんだ、この地獄絵図は」
「こっ、煌兄ちゃんっ?」
「あっ、宮さま! おかえんなさーいっ!」
晶兄ちゃんのお腹からおりようとしていたタイミングで、煌兄ちゃんが帰ってきた。
「おい、萌々。取りあえず、晶の口から手ぇ離してやれ。苦しんでるだろ、それ」
「あ、うん」
煌兄ちゃんに言われ、晶兄ちゃんの口を押さえていた手を離して、そのお腹からもササッとおりた。
制服のスカートの折り目を整えながら武田くんを見やれば、リビングに入ってきた煌兄ちゃんの前に駆け寄って満面の笑みで話しかけてる。
「宮さま! 今日はお招き、ありがとうでっす!」
「あ? お招き? 何だ、それ」
あ、しまった。ミッション遂行のためとはいえ、武田くんを家に呼ぶ口実に煌兄ちゃんの名前を勝手に使ったことがバレたら……。
「あっ、あの、煌兄ちゃん? これには、理由《わけ》があっ……」
「ぐふぅっ!」
「あ……」
またまた、しまった。
煌兄ちゃんに言い訳しようと一歩踏み出した足は、まだそこに寝転がってた晶兄ちゃんのお腹をググッと踏んづけていた。
「ぐふっ! 萌々ちゃん、ひどっ」
「晶兄ちゃん、ごめん! 今のは、ごめん! でも、ちょっと待って。私、煌兄ちゃんに話が……あ、あれ? いない。武田くんもいない。なんでっ?」
カエルが苦しんでるみたいな声を出す晶兄ちゃんに謝りつつ振り向けば、そこにはもう誰もいなかった。
「ぎゃっ! まさか煌兄ちゃん、武田くんを追い出しちゃったんじゃっ……えっ、嘘!」
慌ててリビングから飛び出した私は、自分の目を疑った。
追い出す心配どころか、そんなに幅があるわけじゃない階段を仲良く肩を組んで上っていくバスケ部員二名の姿が目に入ってきたから。
ちょ、どういうこと?
「あっ、あの! 武田くんっ?」
ねぇ、待って? 待ってよ!
「おっ、花宮ちゃん」
階段を駆け上がりつつ呼びかけると、煌兄ちゃんの部屋に入るところだった武田くんが、満面の笑みを向けてきた。
「花宮ちゃん、サンキュー。マジ、サンキューっ。宮さまがゲームの対戦相手を探してたから、俺を家に呼んでくれたんだよな! 花宮ちゃん、マジ天使だわ。土産のアライグマ饅頭、全部食ってくれよ。ありがとなっ」
「え? あの……」
「てことで、俺、これから宮さまと対戦ゲーしながら、めくるめくオトナの世界に旅立ってくるから、また後でねーん。じゃっ!」
「あっ、武田くん!」
――カチャ
「えっ?」
鍵、かかった!
なぜ、かけた? なんでっ?
てゆうか、何のゲームで『めくるめくオトナの世界』に旅立つつもりっ? 武田くんんんっ!
ぴしっと敬礼しながら『じゃっ!』と元気よく煌兄ちゃんの部屋の中に消えていった武田くんの背中に伸ばした私の手と声は、すぐに閉められたドアに阻まれた。
直後にかけられた、ドアの鍵のカチャッという無情な音を脳内に響かせながら、唇を噛みしめる。
これは、どういうことだろう。
初めてお家に招いた武田くんと、これからお菓子を食べたり、映画を観たり、たくさんお喋りして楽しく過ごそうと思ってたのに。
そりゃ、もともとはスペシャルミッションのために呼んだわけだし、そっちは完遂できたから満足だけど。
でも、もう少しだけ楽しい時間を過ごしたい。ただ、それだけだったのに。
なんで、普段、ゲームなんてやりもしない煌兄ちゃんにそれを邪魔されてんの? どうして、私の好きな人を部屋に連れ込んで独り占めしちゃうの?
武田くんの崇拝ぶりからしたら、リビングにいても煌兄ちゃんにベッタリだったわよ。そんなの、当然わかってたわよ。
でも、せめて私もリビングで一緒に過ごしたかった。それなのにぃ!
「あんの、ムッツリ三白眼めっ。絶対に許さないんだから!」
ムッツリ三白眼男への報復、ギリギリと決定っ!
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