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side柳【1】
しおりを挟むしまった!
柳が胸中で発した最初の言葉は、自らの失態への悔やみ。
やべぇ、やべぇ。この子、もしかして、〝あの眼鏡っ娘《こ》〟じゃん?
顔立ちを知ってるわけじゃないけど、顔の面積のわりに大きなレンズのこの黒縁眼鏡。それから薄いグレー色の手作りマスク。どっちも既視感ありありだ。やべぇじゃねーか。
実家である神社の境内で出逢った、漫画やアニメのモブキャラそのものの容姿の女の子。その子を同級生の松雪と認識したことで、柳は大いに焦っていた。
「……えーと、立てる? 怪我、してない?」
焦っていたし、ひどく狼狽していたが、自分のせいで転ばせてしまった相手を気遣うことは忘れていない。玉砂利に肘をついたまま動かない松雪に手を差し出した。
「同じクラスの子、だろ? ごめんな。歩けるか?」
「ち、ちっ、違います。人違い、ですっ」
は?
「見ず知らずの私に親切にしていただき、ありがとうございました。それから、さっき私が転んだのは単に足がもつれたからで、決して柳くんのせいではないのでお気になさらず! では、さようなら、柳くん!」
いやいや、人違いとか見ず知らずとかさ、何言ってんの? 嘘じゃん。がっつり俺の名前呼んでるじゃん。二回も。
「松雪さん!」
「うひゃあっ!」
驚きから呆れ顔へ。その後、きゅっと表情を引き締めた柳の叫びで、駆け出しかけていた松雪が身をのけぞらせ、足を止めた。
「なん……私……名前……嘘……」
「ふはっ!」
びくんっと大きく海老反りになった上半身の角度を保ったまま振り返り、切れ切れに言葉を紡ぐ松雪に、柳が吹き出した。
単語しか発してないが、松雪が言いたいことはバッチリ伝わってきている。
「そりゃ知ってるよ。名前。クラスメイトじゃん」
まるでゾンビでも見たかのように顔を強張らせている松雪に、柳の明るい笑顔がひらめいた。
「嘘。柳くんが私の名前を知ってるわけない。だって私、学校で喋らないし。影薄いし。目立たないように気配を殺して生きてるもん。誰にも……特に皆の人気者の柳くんが私を認識してるわけない」
うわぁぁ……。
相手を見ることなく俯いたまま言葉を連ねた松雪の主張に、柳は笑顔からいったん口を閉じ、声を出さずに内心の呆れ声を唇で形作った。
最後の母音の形で、ぽかんと十秒。
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