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参
降りしきる桜雨は、緋の色 【2−1】
しおりを挟む「団子は、二種盛りでいいか?」
「はい」
目的地に着いた。
川沿いに新橋まで歩き、橋の手前に立ち並ぶ店の中で、ひと際目立つ浅葱色の幟旗を掲げている茶店、三笠屋。図らずも、僕が葵様と草団子を食べる約束をしていた店だ。
店先の腰掛けにならんで腰をおろし、原田様が注文なされた草団子とみたらし団子の二種盛りを待つ間、茶を飲みながら花見をともに楽しむ。
早咲きの桜は、もう満開で。僕たちの上に清楚な花弁をひらひらと散らしてくれている。
もう、本当に春なのだな。
「——何も、気にすんな」
「はい? あの、何を、ですか?」
桜を見上げ、熱い番茶を少しずつ啜っている最中、不意に原田様が呟いた。
面食らい、当然、何を? とお尋ねすれば。当の原田様は頭上の桜を見上げたまま、僕を一切見ずに次の言葉を口にされた。
「いいじゃねぇか。惚れた女が、人のもんでもよ」
持っていた湯呑み茶碗を落としそうになった。唐突に放り込まれた言葉が、あまりに衝撃的すぎて。
それに、もう、この話は終わったと思っていた。団子屋に向かう道すがら、僕をからかって終わった雑談のひとつだと。
事実、僕が葵様への想いを認め、頷いた後。原田様はその話を広げることはなく、槍術の達人の逸話に切り替えられたのだ。
「その気持ちが本物なら、貫けばいい」
視線が、こちらに向いた。
闇色をした黒瞳が、真っ直ぐ、強く、僕を射抜いてくる。
「例え、想いが叶わぬ相手でも。相手にそれが伝わらなくても、ずっと想い続ければいい。それが、お前にとっての『生』であり、『未来』になる」
「原田、様っ」
「何も恥じるな。少しの卑下もするな。大事な相手を想う気持ちに身分なんか関係ねぇ。だが、相手の邪魔になることを気にするなら、陰からそっと見守っていればいい。いつでも護れるように。そのための鍛錬だろ?」
最後に、「俺の愛弟子なんだから、いざという時には誰よりも頼りにしてもらえるぜ」とつけ加えられた時には、既に、ひと筋の涙が頬を伝わり落ちていた。
花びらを舞わせる風が横から吹き、僕に頬の冷たさを教えてくれたことで、次の涙が零れ落ちる前に拭うことができたのは幸いだったと思う。
危うく溢れるところだった涙ごと、手の甲でごしごしと乱暴に拭うと、僕の手首越しに、綺麗に笑った口元が見えた。
あぁ……満足げに口元をほころばせたこの人は、なんと色めいているのだろう。
ひゅうと音を立てた風に舞い上がった薄紅の花弁が、その整った造形を彩るように横切っていった。
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