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参
降りしきる桜雨は、緋の色 【3】
しおりを挟むふた皿めの団子は完食したが、原田様が調子に乗って注文した追加の三種盛り団子は、結局持ち帰りにした。胸がいっぱいになって食べられなかったのだ。
勘定を済ませ、原田様と半分ずつ包んでもらって三笠屋を後にすると、京橋まで戻ってきたところで小雨が降り出してきた。
「あー、降ってきやがったか。どうする? 屯所のある鍛冶橋まで、あと少しだ。雨がやむまで寄ってくか?」
「いえ。夕刻から門番の務めがございますので、僕はこちらで失礼させていただきます。明朝、ご出陣のお見送りには必ずお伺いいたしますので」
「そうか。じゃあ、明日な」
「はい。本日は、どうもありがとうございました」
「ん。気ぃつけて帰れよ」
さっと片手を上げる簡単な別れの挨拶だけで、原田様は踵を返された。
そのまま振り返ることなく、歩いていかれるお姿を見送る。
短くなった髪と広い肩に桜の花弁が乗ったままなのが見て取れたが、僕は声をかけない。
ただ、見送る。
姿勢の良い後ろ姿を点々と彩る薄紅の花弁は、僕がそのお方と同じ時を過ごした証。何にも代えがたい、思い出の名残だ。
ただ、見送る。その人の背を。
悔恨の昏い闇に沈んでいた僕に、『光』を浴びせてくれた人。
武術を教え、無茶をすることの愚を教えてくれた人。
『その気持ちが本物なら、貫けばいい』
『それが、お前にとっての『生』であり、『未来』になる』
初めて、そのままでいい、と認めてくれた人。
血と死のにおいを纏って尚、煌々たる『生』と『未来』を見せてくれた人。
「……原田、様」
僕の、唯一のお師匠様。その後ろ姿が、角を曲がって見えなくなるまで見送った。
「必ず、戻っていらしてください。原田様っ……必ず!」
糸のように細い雨が降りしきる中。もう姿が見えなくなったお師匠様の名を呼んで俯いた僕の袂から、花びらが一片、散り落ちていった。
雨に濡れたせいか、僕の視界がひどく滲んでいたせいか。それとも、そう思い込みたいだけだったのか。
桜雨に打たれた花弁は原田様の纏う色、見事な緋色に染まっていた。
が、それを確と見定めることなく顔を上げ、僕も足の向きを変える。
迷いなく、真っ直ぐ踏み出してゆく。
原田様が示し、見せてくださった道————僕にとっての、光ある『明日』へと。
【了】
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