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第一章
親友
しおりを挟む残暑から初秋へ、季節が移り変わった。今日の空は高く、いっそう青い。
「ふあぁ。澄んだ空って、見てるだけで気持ちいいなー。なぁ、椿?」
「そうだな」
「おっ、それに、あれ! あの雲! ソフトクリームみたいな形の、モコモコの真っ白い雲! 映画のラストシーンとおんなじじゃね? バッチリじゃん」
「ソフトクリーム? あぁ、あれか。そうだな、似てると思う」
「だろ? 今日、校外活動にして良かったろ? バッチリ、聖地巡礼日和だろ? はい、写真撮ってーっ」
「撮ってって……また俺のスマホで撮るのか?」
「いいじゃん。お前のスマホ、最新じゃん」
「まぁ、いいけど。じゃ、もっと右に寄れよ。あのラストシーンの主人公と同じ立ち位置で撮るんだろ?」
「うん、頼むー」
椿とのやり取りは、いつも短い。俺の心理はたいてい伝わってるから。
「撮った。今から画像送信する。全く、わがままな副部長だ」
「えへへっ。ゆるーい部活動が成り立ってるのは、理解ある部長のおかげです。こんな良い環境なのに、なんで部員が集まらないんだろ。俺ら以外は皆、掛け持ち部員だなんて寂しいぜっ」
我慢できずに零したぼやきが、ゆるい秋風に紛れる。
親友、椿と出会えた映画研究部は俺の大事な居場所だから、もっと活気が欲しいところだ。
入学した高校に映研があると知って勇んで入部したら、正式部員は一年生の俺らだけで、先輩たちは他の部との掛け持ち登録と判明。必然的にその日が初対面の俺たちが正副部長に就任した後、半年経っても部員が増えないから張り合いがないと愚痴りたくもなる。
「千明の気持ちもわかるけど、気長に待とう。来年になれば後輩が来るかもしれないし」
「そうだな。それまでは今日みたいに校外活動を二人で楽しむかー。次は椿の好きなアニメの聖地に行こうぜ」
「あぁ」
でも、部員を増やしたいのも本心だけど、こうして椿と二人で行動するのは最高に楽しい時間なんだ。
寡黙で几帳面、成績は常にトップクラスの冷静沈着男子、椿は無類のアニメ好き。言いたくないけど常に中の中の成績、お調子者でホラー系が大好物の俺とは話が合わないはずなんだけど、なぜか、めっちゃ気が合う。
先輩たちがいない今日みたいな日は、校外活動と称して聖地巡礼をすると決めてる。二人の好きな映画のロケ地を巡ってウキャウキャするだけの、ゆるーい活動だけど、これがまぁ、最高に楽しいんだ。
なんでだろ。椿と過ごす時間は、なんでこんなに楽しいのかな。
二人でバスや電車に乗って、コンビニでジュース買って、現地で写真を撮って、はしゃいで喋って笑って喋って、またたくさん喋りながら帰る。口を動かしてるのはほぼ俺だけど、ずっと微笑んでる椿を見るのは嬉しい。
そんで、家に帰ってからもメッセージを送り合うんだ。
——ブー、ブブッ
お、返信きた。
『そういえば、帰る前にもう一枚、撮ってた写真があったから送っとく。千明のこの表情、すげぇ可愛いな。ホラー映画のエンドロールには不似合いだ』
「あ? すげぇ可愛いって……」
何、言ってんだ?
喋り口調と全く同じ文章を送って寄越した親友に向けて唇が尖る。不服だ。
不服だけど、『すげぇ可愛いな』の部分ばかり見つめてしまう。
椿は、お世辞を言わない。俺は、それを知ってる。だから、これは椿の本心で。あいつが俺を見て、そう感じたってことで……。
「やべ。顔、熱くなってきた」
照れる。
男が男に可愛いって言われて照れるなんて、おかしい。なのに、頬が火照る。
どうなっちゃったんだろ、俺。わかんない、わかんない。
「へーじょーしん! よし、オッケー!」
よくわかんないけど、平常心と唱えてれば大丈夫なはず。だって明日もあいつと会う。こんな変な自分を知られるわけにはいかない。
何気ないメッセージの一文に過剰に反応して照れてる場合じゃない。
「へーじょーしん!」
意味不明なことで動揺すんな、俺っ。
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