キミとふたり、ときはの恋。【 君と歩く、翡翠の道】

冴月希衣@商業BL販売中

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第一話

君と歩く、翡翠の道【3−7】

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「おい、武田。服はどうしたんだ?」
「えーっとぉ。花宮ちゃんがさ、乾かしてくれるっつーから、預けてきたっ」
 萌々ちゃんが?
 武田くんの後方、彼が親指で指し示した方角に目線をやる。
「……えっ? なんで、ハンガーっ?」
 すると、ハンガーにかけた体操服を木の枝に引っ掛け、それを団扇で扇いでる萌々ちゃんの姿が!
「あー、何かさ。折り畳み式のハンガーを持ってきてるとかで。自分に任せてほしいって言われちゃったから」
 す、すごい! 萌々ちゃん、すごいっ。

 そういえば萌々ちゃんのリュック、小柄な彼女には似合わない大きさだったっけ。こういうのを女子力って言うのかしら?
 よ、よし。これからは私も――。
「涼香? 君は、ハンガーを持ち歩かなくてもいいからね」
「え、どうして……」
 わかったの? というか、ハンガーが要らないなら、あれを――。
「もちろん、団扇も不要だよ」
「えーっ?」
 じゃあ、私、今のまんまの女子力ってことになるわよ。変わらないじゃん!
「涼香は、そのままでじゅうぶ……」
「白藤ちゃん、大丈夫っ! 土岐には俺がついてるからさ! こんな時は俺のジャージを貸せば、全然問題ナッシングーっ!」
 親指をグッと上に立てた武田くんが、奏人の声を遮って乱入してきた。目の前で肩をググッと組んで、ニカッと笑う。
 う……うわわっ!
 武田くんも、バッチリと身体を鍛えてたんだね! お腹のとこ、割れてるよ。すごく綺麗に!
 奏人と並んでると、目の保養のような! いえいえ、目の毒のような! この二人、眩しすぎるーっ!







「武田。俺が『服はどうした』と聞いたのは、服を着ろって意味だぞ。俺にジャージを貸すくらいなら、お前がそれを着ろ」
 奏人が、武田くんの顔を見返して諭す。武田くんが組んできた腕を振り払うことはせずに。
 だから、めちゃめちゃ至近距離。
「それから、そんな格好でウロウロするな。また、腹を壊しても知らないからな。あと、涼香の前で妙なポーズをとるな。その手を下ろせ」
 奏人の右手、人差し指が武田くんの鎖骨辺りをちょんと突いて、流れるような言い回しで一気に言い切る。
「えー? 白藤ちゃんだって俺の筋肉美に見惚れ……てーっ!」
 奏人に密着したまま私に笑顔を向けて、空いた片手でボディービルダーみたいなポーズを決めてた武田くんが、おでこを軽くはたかれた。
「馬鹿なことやってないで、早く服を着ろ」
 そして、武田くんの腕を外した奏人が、リュックから取り出したジャージを武田くんに押しつける。
「貸してやる」
「えっ? 俺も持ってきてるから、いいって」
「取りあえず、腹を隠せ。お前は昔からすぐに腹を壊すだろうが」
 ジャージを貸したい奏人と、遠慮する武田くんの押し問答。
 ……ねぇ? 何となく、よ? 何となくだけど。これって、いわゆる『彼ジャージ』になるような気がするんだけど。

「いや、いいし! 俺、もう腹壊すような年じゃねーし!」
「何を言ってる。つい最近も壊してただろう? だいたい、お前は昔から海に行く度に……」
「うわあぁ! もうやめてぇ! 白藤ちゃんの前で、それ以上の暴露はやめてくれよう!」
 武田くん、すごい慌てようだ。
『昔から』ってことは、小さい頃からってことよね? いったい、海で何があったのかしら?
「ふっ。それなら、おとなしく受け取っておけ。それで、要らなくなったら涼香に渡せ」
「え、私?」
「うん。預かっといてくれる? 荷物になっちゃうから悪いけど。俺、もう行くから」
「あ……」
 もう? もう、行っちゃうの?
 手早く足を拭いて靴を履いてる奏人の目の前に、慌てて立った。
「私! 入り口まで送る!」
「いや、いいよ。涼香はここでもう少し涼んで、身体を休めておいて?」
「でも……」
「ウォーキングラリーは、午後のほうがきついよ? ちゃんと休憩しといてくれるほうが、俺も安心なんだけど」
 さらり、と、髪がひと撫でされる。そのまま指先が滑って、耳のすぐ下で止まった。
「水分は、まめに摂取するんだよ? 先にゴールで待ってるから。班の皆と一緒に頑張って歩いてね」
「うん」
 数秒、慈しむように見つめられて。首筋をかすめた優しい指は離れていった。

「武田」
「おう、諸々、りょーかいだぜ。お任せあれ!」
 名前を呼んだだけなのに、親指を立ててニカッと笑い返した武田くんに奏人も小さく笑った。
「ん、頼むぞ。涼香、気をつけてね」
「うん。奏人も! 奏人も、気をつけて! 頑張ってね!」
 歩き出した奏人にちょっと大きめに声をかけたら、軽く手をあげて、笑みを返してくれた。
 それでも、リュックを片方の肩にだけ掛けて足早に去っていく背中は、もう私を振り返ることはなくて。寂しいけど、後でまたたくさん楽しい報告が出来るように、私は私で頑張ろうと思えた。
 でも、ひとつだけ。ひとつだけ、モヤモヤしちゃうことがある。それは、奏人が肩出ししたまま行っちゃったこと。
 ううううっ。たくましい腕を晒した、眩しい状態のまんまよー。奏人にドキドキする女子がいたら、どうしようっ?


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