14 / 26
第一話
君と歩く、翡翠の道【3−7】
しおりを挟む「おい、武田。服はどうしたんだ?」
「えーっとぉ。花宮ちゃんがさ、乾かしてくれるっつーから、預けてきたっ」
萌々ちゃんが?
武田くんの後方、彼が親指で指し示した方角に目線をやる。
「……えっ? なんで、ハンガーっ?」
すると、ハンガーにかけた体操服を木の枝に引っ掛け、それを団扇で扇いでる萌々ちゃんの姿が!
「あー、何かさ。折り畳み式のハンガーを持ってきてるとかで。自分に任せてほしいって言われちゃったから」
す、すごい! 萌々ちゃん、すごいっ。
そういえば萌々ちゃんのリュック、小柄な彼女には似合わない大きさだったっけ。こういうのを女子力って言うのかしら?
よ、よし。これからは私も――。
「涼香? 君は、ハンガーを持ち歩かなくてもいいからね」
「え、どうして……」
わかったの? というか、ハンガーが要らないなら、あれを――。
「もちろん、団扇も不要だよ」
「えーっ?」
じゃあ、私、今のまんまの女子力ってことになるわよ。変わらないじゃん!
「涼香は、そのままでじゅうぶ……」
「白藤ちゃん、大丈夫っ! 土岐には俺がついてるからさ! こんな時は俺のジャージを貸せば、全然問題ナッシングーっ!」
親指をグッと上に立てた武田くんが、奏人の声を遮って乱入してきた。目の前で肩をググッと組んで、ニカッと笑う。
う……うわわっ!
武田くんも、バッチリと身体を鍛えてたんだね! お腹のとこ、割れてるよ。すごく綺麗に!
奏人と並んでると、目の保養のような! いえいえ、目の毒のような! この二人、眩しすぎるーっ!
「武田。俺が『服はどうした』と聞いたのは、服を着ろって意味だぞ。俺にジャージを貸すくらいなら、お前がそれを着ろ」
奏人が、武田くんの顔を見返して諭す。武田くんが組んできた腕を振り払うことはせずに。
だから、めちゃめちゃ至近距離。
「それから、そんな格好でウロウロするな。また、腹を壊しても知らないからな。あと、涼香の前で妙なポーズをとるな。その手を下ろせ」
奏人の右手、人差し指が武田くんの鎖骨辺りをちょんと突いて、流れるような言い回しで一気に言い切る。
「えー? 白藤ちゃんだって俺の筋肉美に見惚れ……てーっ!」
奏人に密着したまま私に笑顔を向けて、空いた片手でボディービルダーみたいなポーズを決めてた武田くんが、おでこを軽くはたかれた。
「馬鹿なことやってないで、早く服を着ろ」
そして、武田くんの腕を外した奏人が、リュックから取り出したジャージを武田くんに押しつける。
「貸してやる」
「えっ? 俺も持ってきてるから、いいって」
「取りあえず、腹を隠せ。お前は昔からすぐに腹を壊すだろうが」
ジャージを貸したい奏人と、遠慮する武田くんの押し問答。
……ねぇ? 何となく、よ? 何となくだけど。これって、いわゆる『彼ジャージ』になるような気がするんだけど。
「いや、いいし! 俺、もう腹壊すような年じゃねーし!」
「何を言ってる。つい最近も壊してただろう? だいたい、お前は昔から海に行く度に……」
「うわあぁ! もうやめてぇ! 白藤ちゃんの前で、それ以上の暴露はやめてくれよう!」
武田くん、すごい慌てようだ。
『昔から』ってことは、小さい頃からってことよね? いったい、海で何があったのかしら?
「ふっ。それなら、おとなしく受け取っておけ。それで、要らなくなったら涼香に渡せ」
「え、私?」
「うん。預かっといてくれる? 荷物になっちゃうから悪いけど。俺、もう行くから」
「あ……」
もう? もう、行っちゃうの?
手早く足を拭いて靴を履いてる奏人の目の前に、慌てて立った。
「私! 入り口まで送る!」
「いや、いいよ。涼香はここでもう少し涼んで、身体を休めておいて?」
「でも……」
「ウォーキングラリーは、午後のほうがきついよ? ちゃんと休憩しといてくれるほうが、俺も安心なんだけど」
さらり、と、髪がひと撫でされる。そのまま指先が滑って、耳のすぐ下で止まった。
「水分は、まめに摂取するんだよ? 先にゴールで待ってるから。班の皆と一緒に頑張って歩いてね」
「うん」
数秒、慈しむように見つめられて。首筋をかすめた優しい指は離れていった。
「武田」
「おう、諸々、りょーかいだぜ。お任せあれ!」
名前を呼んだだけなのに、親指を立ててニカッと笑い返した武田くんに奏人も小さく笑った。
「ん、頼むぞ。涼香、気をつけてね」
「うん。奏人も! 奏人も、気をつけて! 頑張ってね!」
歩き出した奏人にちょっと大きめに声をかけたら、軽く手をあげて、笑みを返してくれた。
それでも、リュックを片方の肩にだけ掛けて足早に去っていく背中は、もう私を振り返ることはなくて。寂しいけど、後でまたたくさん楽しい報告が出来るように、私は私で頑張ろうと思えた。
でも、ひとつだけ。ひとつだけ、モヤモヤしちゃうことがある。それは、奏人が肩出ししたまま行っちゃったこと。
ううううっ。たくましい腕を晒した、眩しい状態のまんまよー。奏人にドキドキする女子がいたら、どうしようっ?
10
あなたにおすすめの小説
僕らの10パーセントは無限大
華子
青春
10%の確率でしか未来を生きられない少女と
過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと
やたらとポジティブなホームレス
「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」
「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」
もし、あたなら。
10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と
90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。
そのどちらを信じますか。
***
心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。
追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。
幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
