花霞にたゆたう君に

冴月希衣@商業BL販売中

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第四章

天花舞う【5−2】

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「はい、どうぞ。熱いから、気をつけてくださいね?」
 両手で、慎重に手渡してくる。俺の手に珈琲がしっかりと乗ったのを見届けてから、ゆっくりと離れていく小さな手。
「ありがとう。じゃあ、これは俺から白藤さんに」
 右手に持っていた抹茶オレを、その小さな手に戻す。
「ありがと」
 両手で受け取って、また御礼を言ってくれた。真っ直ぐに向けられた微笑みに、俺の笑みも深くなる。
「ふふっ……これって、奢り合いっこになるね?」
「あ、あぁ……そうなるね。じゃあ、戻ろうか」
「はい」
 なんて顔で笑うんだろう、この子は。俺の心臓を壊す気だろうか。
 おまけに、上目遣いは反則じゃないのか? 鼓動の跳ねようがハンパないんだが。

 席に戻ると、他のメンバーはもう既にお菓子を広げて盛り上がっていた。
「涼香ちゃん。このパウンドケーキ、すごく美味しいよ!」
「わぁ! 私もそれから食べようと思ってたの」
「レシピもゲットしたし、今度部活でも作れるように、先輩にお願いしてみようか?」
「それ、嬉しい! 楽しみだね」
 彼女と秋田は、同じ料理部の所属だ。
 秋田が、部活の入部先に迷っていた彼女を自分のところに誘った。いつも、とても楽しそうに、二人でレシピや味の感想の話をしている。
 慣れない編入先で戸惑っていた彼女がすぐに打ち解けられたのは、秋田の力が大きい。
「あの、土岐くんもケーキ、好きなの?」
「え? あぁ、食べるよ。そんなにたくさんじゃないけど」
 俺が、同じようにパウンドケーキを食べてるのを見た彼女が質問してきた。
「他のケーキも? あの! 例えばチョコとか、チョコレートケーキとかは食べますかっ?」
 ぐいっと、身を乗り出すようにして尋ねられる。
 何だ?
 彼女の真剣な瞳に、疑問を抱きながらも正直に答える。
「うん。もちろん、好きだけど」
「あっ、そう。そうなんだ! あ、ありがとっ」
「……ん? うん、どういたしまして」
 何だろう?
 急に落ち着きを失って、ワタワタし始めたように見える。
 下を向いたその頬と耳が赤いのは、どういうわけだ? さっきの質問は、何だったんだろう。
 その後、笑顔を向けることはしてくれてたが、特に会話することはなく。ただ、穏やかに時を過ごしただけだった。

「――秋田。そろそろ出たほうがいいんじゃないか?」
「あっ、そうだね。ありがとう、土岐くん」
「いや、まだ充分間に合うけど。女子は余裕を持って行動したほうがいいだろう?」
 本音を言えば、俺ももう少しここでの時間を楽しみたい。
 だが、夕食の時間ギリギリにホテルに戻って、彼女たちを慌てさせるのは避けたいから。今、ゆっくり戻るほうが賢明だろう。


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