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第四章
天花舞う【6−1】
しおりを挟む「わっ! 雪が降ってきてるよ!」
「ほんとだ! 雪、雪ーっ!」
外に出ると、小雪がちらつき始めていた。
「わぁ! やっぱり四月でも雪が降るんだねぇ」
「びっくりだね。でも、スキー場だから当たり前なのかな?」
「美也ちゃんのニット帽、素敵。綺麗な赤色だね」
「涼香ちゃんの帽子も可愛いよ」
笹原と顔を見合わせ、微笑んでる彼女のニット帽にも雪が舞いおりている。
薄桃色のスキーウェアに合わせたんだろう、少し濃いめの桃色に、真っ白な雪がその色を乗せていく。
ニット帽からはみ出した前髪にも雪の白がまとわりついて。それをそっとはらう指の細さ、軽やかなその仕草に何とも言えない艶めかしさを感じて、目が奪われていく。
まるで雪を愛でるような彼女の姿に、胸が騒いで仕方ない。
俺たちの上に、ゆっくりと降り続く雪。ほんの小雪とは言え、眼鏡のレンズが濡れて曇ってくるのが、そろそろ鬱陶しい。
水気を拭ってから、またかけ直すが、少し経つとまた同じだ。
数回、繰り返してから、とうとう諦めた。仕方ない。あれを出すか。
「きゃあぁっ!」
何だ? 彼女の声だ。
急いで声の方向を見ると、白藤さんが笹原にしがみついている。
何があった? 何やら興奮しているようにも見えるから、悪いことでも起きたのかと心配した。
が、よくよく見れば、キャーキャーと騒ぎながら楽しそうに笑ってるようだ。いや、手で顔を隠して恥ずかしそうにもしてるな。
笹原と握り合った手をぶんぶんと振ったり、ぴょんと飛び跳ねたり。忙しない動きの薄桃色の小さな姿。弾けるように笑って、紅潮しているように見えるその顔から、目が離せない。
あぁ、良かった。こんな笑顔が見たかったんだ。
だが、時折こちらに視線を向けては、また笹原と盛り上がる、を繰り返す彼女に怪訝な思いが拭えないのも確かだ。いったい、何があったんだ?
「土岐くん。眼鏡、外したんだ」
「あぁ。いちいち拭くのが面倒になったからな」
「そっかぁ。それ、ものすごく似合ってるね」
話しかけてきた秋田が邪気のない笑顔を見せるが、褒められても困る。
「これか? 似合うも何も、必要だから使ってるだけだぞ」
「土岐くんにとっては、そうだろうけどね。でも、かなり評判いいと思うよ? それ」
「評判? 馬鹿馬鹿しい」
何、言ってるんだ。単なるスポーツサングラスに、評判も何もないだろうが。
度つきで作ったし、偏光レンズだから、視界がクリアに確保されて便利っていうだけだ。
「ふふっ。馬鹿馬鹿しいかどうかは、すぐにわかると思うよ?」
「は?」
秋田にしては珍しく、いたずらっぽい笑みで、わけのわからんことを言われた。こんな遠回しなことを言うヤツじゃないはずなんだが。
「ところで、土岐くん」
「何だ」
「明日からのスキー講習、涼香ちゃんとペアになってほしいんだけど。いい?」
「あ、あぁ。わかった」
彼女とペア……うん、願ったり叶ったりだ。
「良かった。涼香ちゃーん! ちょっと、こっちに来てくれるー?」
俺の即答に少し笑った秋田が、数メートル前を歩いていた白藤さんに声をかけた。
「はーい! あっ……」
軽快な返事をして振り返った子が、なぜか表情を固めて立ち止まった。笹原の腕をがっしりと掴んで。
「涼香ちゃん。言い忘れてたんだけど、明日からのスキー講習、土岐くんとペアだよ。二人で頑張ってね」
「えっ?」
秋田の言葉を聞くなり、俺の顔が見上げられた。紅潮したままの頬に驚きの表情が浮かんで。直後、掴んだままだった笹原の腕に顔を埋めて、ふるふると首が振られた。
そして、くぐもった小さな声が、かすかに耳に届く。
「無理ぃ」
無理。そう、聞こえた気がした。
これって、拒絶されてるんだよな? 俺とペアになるのを拒否られてる?
聞き間違いかと思ったが、愛しい人の声だ。間違えるはずがない。
ついさっきまでの、この子との穏やかな時間が脳裏をよぎっていく。
静かに微笑んでいた横顔も。控えめに伏せられた目線も。あどけなく見上げてきた無防備な表情も。何やらアワアワと焦っていた様子も。柔らかい空気を共有出来たと思っていたのは、俺の勘違いだったんだろうか?
クラスメートとして、同じ班のメンバーとして。和やかに話せていたと思っていたのは、俺だけだった。
とんだ自惚れだ。思い上がっていた自分に、呆れてものも言えない。
同時に、彼女から発せられた言葉が、胸をぐさりと突き刺してきてる。『無理』って……。
うわ、駄目だ。自らリプレイして、落ちこんでどうする、俺。
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