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第五章
君に、捕らわる 【5−2】
しおりを挟む「――はい、終わったよ」
「あ、ありがと」
包帯の端をテープで留めて、踵を支えたまま見上げた。小さな謝礼の声と、向けられたはにかむような笑みに、俺も笑みで返す。
細い足首に、固定する為に分厚く巻いた包帯が痛々しい。
今夜は痛むだろうな。
あぁ……俺が、代わってやれたらいいのに。
「さっきみたいに足首をクッションに乗せて安静にしとくのがいいんだけど。――あの、保科先生」
「え? ちょっと待って。忘れないうちにメモしとかなきゃ」
聞きたいことがあったが、スマホの入力が終わるまで待たされそうだな。
俺が包帯を巻いてるのを見ながら、保科先生はずっとスマホに指を滑らせていた。
ぶつぶつと呟きながらガン見されて、ものすごくやりにくかった。が、撮影されるよりは、ずっとマシだったと思うことにしよう。
事実、包帯を巻いてる途中で何度かストップがかかった。
「ちょっと待って。今のところ、もう一度見せて?」
と言われて、やり直しさせられたこと数回。
「ねぇ、どうも見えにくいのよ。だから、こうしない?」
挙げ句の果てには、跪いた俺の太股の上に彼女の踵を乗せて巻く羽目に。いったい、何の羞恥プレイかと思ったが、意外にも彼女が拒否しなかったために、最後までそのままの体勢だった。
「ねぇ。本当に写真もムービーも駄目なの?」
「駄目です」
「だって、土岐くんの巻き方が滑らかすぎてメモが追いつかないのよ」
「ゆっくり巻きますから。撮影だけは駄目です」
こんなやり取りもしたな。彼女の生足の撮影なんか、許せるわけがない。
「土岐くんの指の動きって、艶めかしいって言うか、なんかエロチックよねぇ」
そして、これは独り言だと判断してスルーした。
「はい、お待たせ! 何? 土岐くん」
ポケットにスマホを入れながら、やっと顔を上げてくれた先生に尋ねる。
「明日まではあまり動かさないほうがいいので、夕食後は車でホテルに戻られるように手配できないでしょうか?」
「あー、そうね。じゃあ、ロッジのオーナーに相談してみるわ」
うん、それがいい。ここからホテルまで歩いて帰るのは可哀想だ。
「じゃ、遅くなっちゃったけど夕食に行こうか。笹原さん。私と一緒に白藤さんを支えてあげてくれる?」
「はい。涼香ちゃん、ゆっくり行こうね?」
「うん。ありがと」
二人に支えられて、そろそろと歩き出した彼女の後ろに、荷物を持った明石と続いた。
痛めた左足をかばいながら、一段ずつぎこちなく階段を下りていく華奢な姿。ここを上がってきた時は、俺の腕の中におさまっていたのにな――。
「……あ!」
その後ろ姿に思いを巡らせていたら、大事なことを忘れていたことを思い出した。
「え? ……あっ!」
「きゃっ! もう! 土岐くん、いきなり何? 危ないでしょ!」
「すみません」
俺の声に反応して、振り返ろうとした彼女がバランスを崩しかけて。それを慌てて支えた保科先生に叱られてしまった。
本当に申し訳ない。今度は俺のせいで怪我をさせるところだったと思うと、冷や汗が出そうになる。
「びっくりさせて、ごめんね?」
ジャージのポケットの中を探りながら、彼女が立っている一段上まで下りていく。
あぁ、良かった。落としてなかった。彼女を助ける時に結構激しく動いたからな。
それがちゃんとポケットの中に収まっていてくれたことに安心しながら、差し出した。
「はい。これ、使って」
「それ、何?」
「火傷の塗り薬です」
白藤さんより先に聞いてきた先生に答える。武田と彼女のことが起きる前に、医務室にもらいにきてポケットに入れたままだったんだ。
「えぇっ! 白藤さん、火傷もしてたの?」
「あ、お昼にちょっと……ありがと、土岐くん」
驚いて尋ねた先生から俺へと顔が動いて、差し出した薬を受け取ってくれた。
「早めに塗り直してね。痕が残ったら大変だから」
「うん」
あ、今の。「はい」じゃなくて「うん」っていうの、すごく良いな。
そんな他愛ないことに感動した俺は、しばらくその場から動けずにいて。
「土岐くん、何してるの? 早くいらっしゃい!」
保科先生にどやされた。
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