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第五章
君に、捕らわる 【7−1】
しおりを挟む――あぁ、退屈だ。
昨日の曇り空が嘘のように晴れた朝、空を振り仰いで、軽く息をつく。
突き抜けるような青空って、こういう色のことを言うんだろうか。透明なくらいに青く澄んだ空と、その光を受ける一面の銀世界の対比が眩しい。
この景色を一緒に見たかった人は、ここには居ない。それだけで、こんなにも退屈な気分に陥ってる。
「土岐くん。一人でも大丈夫だと思うけど、スキー講習の間はチカたちと一緒に行動しようよ」
「あぁ、そうする」
秋田と笹原と俺の三人は、上級者コースの講習を受けるため、集合場所のスキーロッジ前で待機中だ。
「このロッジでお昼休憩の予定だから、山田くんたちとはその時に合流だね」
「そうだな」
山田と明石は初級者コースだから、スキー講習は別行動になってる。昼食と休憩をとるだけでなく、不測の事態のために教師が待機するのも、このロッジだ。
ということは、彼女もここに来る。いや、もう来てるのか? 少しだけでも顔を見たいな。それとも、昼食の時間までお預けだろうか。
「ねぇ、チカちゃん? この『ロッジKAGA』って、もしかして?」
「あ、うん。チカも、もしかしてって思ってたよ」
何だ? ロッジの名称に何かあるんだろうか。
笹原と秋田の会話の意味がわからないが、集合時間をもう二分過ぎているのも気になる。インストラクターはまだ来ないのか。
「あらぁ? 今日は可愛い子ちゃんとペアじゃないの? もしかしてフラレちゃったかな? S顔くん?」
インストラクターの姿を求めて視線を横に向けると、逆側から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「えっ、みいこ先生っ?」
「わっ、みいこ先生だ!」
「うふふっ。皆さん、おはようございます」
「おはようございます!」
にこやかに挨拶した女性の目線が、笹原、秋田、俺の順で動いた。君は挨拶しないのか、とでも言うように。
「……おはようございます」
「おはよう。上級者コースの受講者は二十名だけなのね? ま、中三だもんね。希望者がこれだけ集まっただけでも立派よねぇ」
他の班の生徒たちをも見回して、うんうんと一人で納得してるが、この人、もしかして……。
「さて、スキー講習、始めましょうか!」
「えぇっ! みいこ先生がインストラクターなの?」
「そうよー。今日もよろしくね? 秋田くん」
驚く秋田と笹原に、先生が満足げに笑う。いや、俺も充分驚いてはいるが。
「皆さん、おはようございます。上級者コースのインストラクターを務めます、|加賀美衣子です。あのね、私も祥徳の出身なの。構えずにフランクに接してくれると嬉しいわ」
よく通る声で、今日初めて会う他の生徒たちに、にこやかに話しかけて。
「あ、それと。このロッジも、うちの経営なの。祥徳学園さんには、いつもお世話になってまーす」
目の前のロッジを指して、笑いも誘っている。昨日も思ったが、場の空気を自分のペースに持っていくのが上手い。
「あっ! ロッジKAGAって、もしかしてって、美也ちゃんと話してたとこなの」
「あ、気づいてくれてたの? よく私の名字覚えてたわね、秋田くんたち」
本当だな。俺なんか、この人がいつ名乗ったのかさえ覚えてないぞ。
「さて、皆がリラックス出来たところで、ひとつお伝えしときますね。私ね、誰が相手でも指導の手は抜きません。うーんと厳しくするわよ」
雪上に居るせいか、聞こえてくるその声は良く通り、ピンと張ったような緊張感を纏わせている。
「充分、覚悟しといてね?」
――にやり。ゆっくり上がった口角に、その場に居た皆がぞくりとするものを感じた瞬間だった。
「さてと。まずは、初級者コースを滑ってもらおうかしら。皆さんの滑りをチェックしますね」
手前のリフトに誘導された。講習の開始だ。
「じゃあ、ペア同士でリフトに乗って。滑るのもペア単位で滑ってください。それで……」
そこでいったん区切って、手にしていた名簿から顔を上げられた。
「ペアの相手がいない土岐くんは、私と一緒にリフトに乗ってください。一番に滑ってもらいます」
「……は?」
今、何て言った?
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