花霞にたゆたう君に

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
35 / 69
第五章

君に、捕らわる 【7−2】

しおりを挟む



「聞こえなかったの? 土岐奏人くんはどこですか?」
 俺の顔を見ながら、わざと声が張り上げられた。この人、意地が悪いにも程があるな。
「はい。ここに居ます」
 眉が寄りそうになるのを堪えながら、平坦な声で返事をした。
「あら、そこに居たのね。良かったわ」
 すると、明らかに作り笑いとわかる笑顔が向けられた。全く、わざとらしい。

「さあ、サクサク行くわよ。皆、ついて来てね」
 きびきびとした動きでリフトに向かう後ろ姿に皆で続く。
「おっ、みいちゃん。今日はこっちの仕事かい? 子どもたち相手なんだから、厳しいのも程々にしときなよ」
 係員にパスを見せてリフト待ちの列に並ぶと、リフトの乗降の整理をしている係員が先生に話しかけてきた。この先生の指導の厳しさが有名なのだとわかる言葉に、なぜか少し笑いが込み上げてくる。
「野々村さん、おはようございます。生徒たちの前で、人聞きの悪いこと言わないでくださいよー」
「ありゃ、営業妨害になっちまったか? すまんなぁ」
 野々村さんと呼ばれた壮年の男性は、謝罪つつ、大きく破顔。
「君たち、中学生? みいちゃんは厳しいけど腕は確かだから、講習が終わる頃には目に見えて上達してるはずだよ。皆、頑張ってな!」
 励ましのつもりだろうが、これからの時間が過酷なものになると予言されたようなものだ。上級者コースを選んだ以上、俺としてはそれは望むところなんだが。今となっては、ここに彼女が居なくて良かったと思うべきなんだろうか。
 体育会系のスパルタ指導を受ける姿は、白藤さんには似合わない。いや。それでも、やっぱり一緒に過ごしたかったな。

「ねぇ、君? 昨日、私が投げかけたものに対する答えは出た?」
 先生とリフトに乗りこんで早々、不意にされた質問。
「答え、ですか?」
 あぁ、そう言えば……昨日、そば打ちを終えて別れる前に言われたな。アドバイスとも念押しとも言っていたが、正直、何を伝えたいのか全然わからなかった。
 というより、もう二度と会わない相手だと思っていたし、そんなに重要な事柄として記憶していなかった、が正しい。おまけに、昨日はとんでもないことが起きて、そんなことを思い出してる暇もなかったんだ。
「ちょっと! 聞いてるの? S顔くん!」
「あ……」
 先生が横から覗き込むように俺を見ているのに、やっと気づく。
 傾けた顔は、不快そうに眉が寄っている。しまった。昨日の彼女の姿や表情ばかりを思い出して、いつの間にか俯いていたようだ。
「すみません。考え事をしていました」
「何、そのしれっとした言い訳。もう、いいわ。リフトも着いちゃうしね」
「はぁ、すみません」
 別に、しれっとしてなどいないんだが。昔から、表情が乏しいせいで、たまにこういう誤解を受けることがある。
 まぁ、大方がどうでもいい相手だったりするから、俺もわざわざ訂正したりなんてしない。今のように、あまり心がこもっていないとわかる謝罪の言葉を並べるだけだ。
「はぁ……君ね。そういう、全てを諦めてるみたいな表情で心にもない謝罪なんてしちゃ、駄目よ。子どものくせに」
 ずばり、と。俺の思考の中心に鋭い切り込みが入れられた気がした。

「先生。今のお言葉は……」
「あら、もう上に着いちゃうわね。じゃあ、この続きはまた後で」
 思わずすぐに反応してしまったが、その後が続かず声を途切れさせると、あっさりと「後で」と切り捨てられた。
 まぁ、俺も今はこの会話が終わってくれて助かった気がしてる。が、曖昧なままの消化不良感に、すっきりしないのも確かだ。
「はい」
 そして、この返事は求められてないと知りつつ、それでも一応、口には出した。
「――さぁて! チャキチャキ滑ってもらうわよー。はい、まずは土岐くん。ピューッと行ってらっしゃーい!」
 元気よく両手を同時に振り上げて、スタートを盛り上げてもらったが。
「いえ、普通に滑ってきます」
 この先生の高いテンションに合わせるのは無理だ。
「ノリの悪い子ねぇ。まぁ、いいわ。ね、あそこ見て? あの赤い旗のところまで滑って、そこで待っててくれる?」
「わかりました」
 先生の指差した旗は、リフトに乗った場所と今居る地点とのちょうど中間になっている。まず、フォームを背後から見た後、他の角度からもチェックするんだろう。
「スタートしていいですか?」
「はい、どうぞー」
 承諾の声を合図に、ストックに力を込め、飛び出した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編9が完結しました!(2026.3.6)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処理中です...