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第五章
君に、捕らわる 【9−2】
しおりを挟む――そろそろ、スキー講習の残り時間も少なくなってきた。もう一本滑れば、今日の予定時間は終了だろうか。
空を見上げる。鉛色の空は、昨日と変わりない。
どんよりとしたそこから、舞い降りる粉雪の光景も同じだ。せつないほどに白い、無数の雪の欠片を見ながら。
昨日、彼女に天花の話をしたことを思い出す。たった1日しか経っていないのに、彼女に抱く感情は昨日までの比じゃない。それは決して、うきうきと浮かれる類のものだけではなくて——。
ふっ。
昨日の俺が今日の俺を見たら、いったい何て言うんだろう。
あれから、何度か加賀先生と一緒にリフトに乗ったが、他愛ない話ばかりしていた。「続きは、また後で」と言っていた割には、その事には一切触れず。なぜか武田の話がメインだった。どうやら、アイツを気にいったようだ。
自分を好きか、という問いについては、俺自身が考えて出す答えだということだろう。仮に答えが出たとして、俺がそれを先生に報告するかどうかは、わからないが。
実は、もう俺の中では、ほぼ形になっている。だが、それを答えとして確定していいのか、今ひとつ自信が持てない。まだ、何かピースが足りない気がするんだ。
「ねぇ? 今日は、これで講習終わりだけど。君、答えは出たかな?」
お馴染みのペアリフトでの移動。乗りこむなり、加賀先生からの質問が飛んできた。
「すみません。即答出来る内容ではないので」
取りあえず、正直に答えてみた。俺から切り出すのを待ってるんだとばかり思っていたが、どうやら思い過ごしだったようだ。この先生、あまり辛抱がきかない性質なんだな。
まぁ、このタイミングを待っていたとも言えるが。
「全く、君は……そんなところまで、私に似てるのね」
苦笑するように溜め息をついて。仕方ない、とでも言いたげに、頭に手が置かれた。
今の、どういう意味だ。似てる? 俺と、この人が?
「なぁに? 質問?」
「あ、いえ」
聞いてもいいのか?
「先に言っとくけど。今、私が言った『似てる』云々については、スルーしていいわよ」
あ、先手を打たれた。もう聞けないじゃないか。ま、いいか。別に。
いや、良くない。
「先生。そろそろ手を離してください」
「えー! いいじゃない、別に。今、ものすごーく撫でてあげたい気分なんだから」
そんな気分は捨ててくれ。
「そういうのは、ペットにでもしてください」
「あら。ペットになら、してきたわよ? 今朝も」
ニンマリと上がった口角を見て、なぜか、ある姿が浮かんできた。
本当に動物のペットかもしれないのに、どうしてか、ものすごく不愉快なあの姿が。
「君が今、何をどう思い浮かべたのか全然わからないけど」
いや。それ、わかってる顔だろ。
というか、本当にペット扱いにしてるのか? アイツ。アキラのこと。
「君にもいるでしょ? 専属のワンコが」
やっぱりか。おい、やめてくれ。
自然と浮かんできた、武田がはしゃいで纏わりついてくる姿を、即座に抹消した。黒マジックで。
「まぁ、君にはいろいろ言っちゃったけど。最後に、もうひとつだけ付け足すとすれば」
「君。観察眼は優れてるんだから、ちゃんと視なさい」
ようやくその手が離れたと思ったのと同時に、抽象的な言葉が放たれた。言い聞かすように、ゆっくりと。
「昨日、私が言った、ちゃんと確認することって、そういうことよ?」
ちゃんと視る。確認する。
俺へのアドバイスだという、その言葉が示すものは、何だ?
頂上が近づいてくるのを見ながら、残りの時間を熟考にあてる。俺は、何が視えていない?見落としているものとは何だ?
何か、とても重要なことをスルーしてしまっているのだろうか。それは、いつ? いったい何を――。
「真剣に考えてる御褒美に、大サービスでもうひとつ追加ね。〝視点を変えてご覧なさい〟」
リフトを下りてすぐ、大サービスだというアドバイスを追加してもらった。
視点を変える。つまり、俺の思考が凝り固まったものだということか?
伝えてくれた時の加賀先生の目は真剣だった。口元には、いつもの笑みを浮かべていたけれど。この行事の期間だけの先生と生徒の間柄の相手に、真剣に言ってくれてるのがわかる。
なら、俺もそれに応えよう。ここにいる間に、答えを出してみせようか。
「ラスト一本いきますよー。最後だから一気に下のゲレンデまで滑っちゃいましょう。はい、スタート!」
秋田を先頭に、今日最後の滑降が開始された。何度も滑って、カーブの角度も頭に入っている。いや、身体が覚えている。
この滑降を終えれば、また逢えるだろうか。また……アイツが、傍に居るんだろうか。
それでも、いいよ。君の傍に誰が居ても、俺の気持ちは揺るがないから。
でも、出来るなら、俺を見てほしい。
逢いたい。君に、逢いたい。
「ストップ! 待ちなさい! 土岐くん、ストップ!」
……ん?
もう、下のゲレンデまで後少しというところで、コース脇に立っていた加賀先生から制止の声がかかった。
――ザザッ!
スピードに乗っていたが、何とかブレーキをかけることが出来た。
今の制止の声は、俺に向けたものか? 確かに、名前は呼ばれたが。
険しい表情で、こちらに近づいてくる先生を見ながら。原因がわからないまま、その場で待った。
「ちょっと、君っ!」
張り上げた声は怒りを含んでいる。
「真面目にやる気あるのっ?」
いきなり両肩に手がかけられて、後ろに押し倒された。先生の身体ごと。
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