花霞にたゆたう君に

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
46 / 69
第五章

君に、捕らわる 【10−3】

しおりを挟む



 何だろう。この、ムクムクと込み上げてくる、嬉しさとは別の感情は。愉悦? 満足感? どちらにしても、それを俺に与えてくれるのは、この子だけってことだ。
「ちゃんと見えてるよ? 元々、視力はそんなに悪くないんだ。ただ、強めの乱視だから眼鏡かけてると楽なだけ」
「あっ、そうなの?」
「だから、ちゃんと君のところに辿りついたでしょ?」
「あ……あれ、すごくびっくりした。私が駆け寄ってたはずなのに、来てくれたから」
「行くに決まってるよ。アキ……あの人に追いかけられてるように見えたから」
 君とアキラの姿を見た、あの瞬間。他の何も見えなくなった。
「あ、あれは私が急に飛び出したから……」
「俺が、加賀先生と抱き合ってると思ったから?」
「えっ? あ、えと。そう、です」
 君も、俺と同じだった? そう思ってもいいんだよね? なら――。
「ねぇ、聞かせてくれないかな? なんで、あの人とこんなところまで来てたの?」
 ずっと気になってた。俺への気持ちは聞かせてもらったけれど、それに対するモヤモヤは晴れてない。
 だから、聞かせて? 『こんな二人乗りのスノーモービルになんか乗って』って台詞だけは、かろうじて飲み込んだ俺に免じて。

「あ。そ、それは、無理ぃ」
「どうして?」
 急に顔を強ばらせて。同時に、首がふるふると振られた。
「だって! 絶対に、引かれるっ。き、嫌われたくないもん」
 きゅっと、唇が噛みしめられて。
「だから、無理、です」
 最後は、小さく上目遣いで呟かれた。
 何だ、この可愛さは。そんなに、俺に嫌われたくないの?
「引かないよ? それに、白藤さんを嫌ったりしないよ。絶対に。だって――」
 うるうると、瞳を潤ませてしまった彼女を安心させるように、そっと頬に触れた。
「こんなに、好きなのに」
「……ふ、ふぇっ」
 え、何でだ?
 安心させるつもりで言ったのに、相手は泣き出してしまった。どうしよう。俺、何を間違えたんだ?
「白藤さん? えーと、大丈夫?」
「あ、ごめんなさい。いきなり、泣いたりして」
「いや」
 こうして、その涙を拭いてあげられる立場にいるって実感出来るのも、悪くない。

「えと。土岐くんの『好き』が、すごくすごく嬉しかったの。あと、自分が恥ずかしくて」
 恥ずかしい? どういうことだろう。
「ほんとに。ほんとーに、引かないでね? あのっ、あのね? 私、土岐くんを見にきたの」
「え……」
「土岐くんが滑ってる姿をどうしても見たくて。午前中もロッジの窓やバルコニーから、ずっと見てたんだけど」
 午前中、ずっと? あそこから?
「でも上級者コースは、山頂まで上るし。双眼鏡を使っても全然見つけられなくて」
 双眼、鏡?
「それで落ち込んでたら、アキラさんがここまで連れてきてくれたの。良く見えるポイントがあるから、見に行こうって」
 アキラ、わりと良いヤツだったんだな。
「そしたら……そしたらっ」
 あぁ、そうか。
「俺が押し倒されてたんだよね? ごめんね。いきなりのことで、避けられなかったんだ」
「すごく、嫌だったのっ」
「だから、飛び出してくれたの? 足を痛めてるのに」
「だってっ」
 ついと、彼女の手が俺の肩に伸びてきた。
「ねぇ? 怪我したとこ、どこ?」
「ん? ここだけど」
 彼女の脈絡のない質問にも、即座に反応出来てる自分に驚く。
 彼女の手が、動いた。俺が指し示した左の二の腕に、ピンクの手袋がそっと触れる。
「いい?」
「うん」
 何が? なんて、聞かない。この子のしたいようにさせてやりたいから。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編9が完結しました!(2026.3.6)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

処理中です...