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キミとふたり、ときはの恋。【第五話】

冬萌に沈みゆく天花 —告白—【1一3】

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 良かったぁ。私、料理部の活動が楽しくて、その延長で食物栄養学科を志望してみたんだけど。今はまだ、そんなふんわりな理由でもいいのかもしれない。これからもっと勉強して、進路に見合う自分になれるよう努力すれば……。
「でも、そうやって進路で悩んでる涼香ちゃんは偉いですねぇ。普通の高1女子なら『彼氏と同じ学部にするぅ』で、一発決定しちゃいそうじゃないですか? お手軽にっ」
「えっ、そんな! お手軽にって……そんな理由では無理よ。自分の進路なのに……」
 大きな目をクリクリっと煌めかせて萌々ちゃんが放った言葉に、即座に首を振った。普通の高1女子ならって言うけど、自分の将来なんだから、みんな真剣に考えるはず。
 そもそも奏人は、薬学部志望なんだもの。同じ学部に行きたいなんて、簡単に言える進路じゃない。

「ふふっ、涼香ちゃんは真面目ですねぇ。まぁ、『お手軽に』は私も言い過ぎましたけど、好きな相手と同じ進路を選びたい女の子は、実際にいると思いますよー?」
「あ、うん……それは、ね」
 いたずらめいた表情を苦笑っぽく変えた萌々ちゃんに、私も微妙な表情を返す。返事も、同様に微妙だ。
 先日、武田くんから聞かされた情報が、お互いの脳裏に浮かんでるせいだと思う。
 それは、武田くんが進学を志望してる医学部を、彼の幼なじみの女子も志望してるという話。
 内部進学希望と言っても、学部が違えば通うキャンパスも違ってくる。
 祥徳大学の医学部は埼玉県に程近い区にキャンパスがあって、そこには薬学部の学舎も併設されてる。それ以外の学部のキャンパスは、都心寄りの別の区だ。
 つまり、薬学部志望の奏人と医学部志望の武田くん。それから、お父様と同じ美容外科医を目指すという都築さんが同じキャンパスで。生活科学部志望の私は別のキャンパス、ということ。

 武田くんから、自分と同じ進路を都築さんが選んだらしいという話を聞いた時、心が波立たなかったと言うと嘘になる。
 でも、仕方ない。私と奏人は目指す進路が違ってて、都築さんが志望する学部がたまたま奏人と同じキャンパスだというだけの話だ。
 モヤモヤはある。『やだな』って、正直思う。けど、仕方ない。
 奏人も都築さんも、ふたりともが、家業を継ぐために選択した進路なんだから。


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