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キミとふたり、ときはの恋。【第五話】
冬萌に沈みゆく天花 —告白—【5一2】
しおりを挟む「チカちゃん」
長い沈黙の後、顔を上げる。テーブルの向こうのチカちゃんは、私が再び口を開くまで黙って待ってくれている。
「まだ間に合うよね。私、今から奏人にメッセージ送ろうと思う。話し合いをしたいって、私から言う」
「うん、いいと思う」
「遅くないよね。今更って思われないよね。私、すごく深い溝を作っちゃった自覚があるんだけど」
「大丈夫! 土岐くんに限ってそれは無いよ。それに、万一、溝が出来てても埋めていけばいいんだよ。涼香ちゃんは頑張れるでしょ?」
「うん……うん、頑張る」
「それからね。土岐くんの態度や言葉に、相当、傷ついたと思うけど。人っていうのは、それまで胸に秘めてたことを唐突に吐き出し始める生き物、なんだよ」
え?
「たいてい、前後の脈絡なく、ね。チカも土岐くんがその部類に入るとは実は思ってなかったんだけど、だからこそ、彼にとって涼香ちゃんが特別だっていう証拠になる。他の誰にも、土岐くんはそういう自分を見せないって断言できるからね。つまり、今日は『初めての喧嘩・記念日』だよ。何でもポジティブに受け取っちゃおう!」
「あ、ありがと。ポジティブは大事、よね……うん、ありがと」
チカちゃん、ありがと。
いつも相談に乗ってくれて、ありがとう。不注意ばかりの私に、大事なことを気づかせてくれてありがとう。
不安や焦り、嫉妬。そういう負の感情に苛まれる自分を恥じる気持ち。それが奏人の中にも生まれるんだってことを、私は考えもしなかった。
好きだから苦しい。我慢できない。感情が爆発する。
嫉妬心を平気な顔で取り繕うことなんて、到底無理。
奏人と都築さんとの絆に対して抱いてた私の黒い感情と同じものが、丸ごと奏人の中にも巣くっていた。
知らなかった。見えてなかった。
私にとって奏人は、冷静で聡明で、行動に無駄がなくて、気遣いも完璧な優しい彼氏。でも、私がそういうフィルターで見てたから、「君の前では、物分かりのいい彼氏でいたかった」と言わせることになったんだ。
自分に厳しくてストイックなあの人を、私が追い詰めた。
本来、奏人の気性なら絶対に口に出すはずのない、自分はずっと我慢してた、という言葉を引き出してしまうほどに。
謝らなくちゃ。わかってもらえるまで。
言葉と心を尽くして、誠心誠意、伝えなきゃいけない。
——私にとっての奏人が、私自身よりも大切な、かけがえのない人だってことを。
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