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キミとふたり、ときはの恋。【第五話】

冬萌に沈みゆく天花 —告白—【6一4】

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「ほんとだよ。それで、部屋にこもって、ずっと考え事してた。君のこと、花宮先輩のこと、自分のこと。時間はたっぷりあったから、先入観を捨てて一から考え直してみた。思い出せる限りの記憶をさらって。そうしたらね、見えてきたんだ」
 何を? と聞きたいけど、じっと堪えて次の言葉を待つ。
「俺がすごく情けないヤツだってことが、わかった」
 え……その結論だけは、間違いだと思われ……。
「少し冷静になれば、すぐに気づけることだった。俺の彼女は、大した理由もなしに恋人に隠し事を貫ける性格じゃないって」
 あ……。

「それを貫いているということは、深刻な事情があるんだろうってね。数ヶ月も抱えてきた問題だったのに、呆気なく答えに辿りついたよ。そんな簡単なことが見えなくなっていた俺は、大馬鹿者だ」
 違う。
「自分の目が節穴なのを棚に上げて、君に恨み言をぶつけた。情けなさの極みだ」
 奏人、違う。
「俺は我慢してきた。その我慢を君が否定するな、なんて言ってしまった。涼香の性格で秘密を抱えることは、どれほどのストレスになるか、俺こそが気づかなくてはいけなかったのに。被害者面して、幼稚な八つ当たりをした」
 違うよ。奏人、違うの。悪いのは私。

「だから、今回のことは、全面的に俺が悪い」
「違っ……」
「違わないよ。涼香、もう少しだけ黙って聞いててくれるかな。俺が、自分を愚か者だって言う理由はもうひとつあるから」
 悪いのは、あなたじゃない。そう反論する声は遮られた。不意に吹きつけてきた横風が巻き上げた私の前髪を整えてくれる、優しい所作とともに。
「一番大事なことが後回しになったけど、ちゃんと気づいたから許してくれる? ——俺の彼女の涼香は、俺を裏切ることは決してしない」
「……っ」
「過去にどんなことがあったとしても、後ろ暗いことは何ひとつ無いから俺の彼女として隣にいてくれる。この、一番重要な〝事実〟を見ようとせずに、下らない嫉妬で君を疑って泣かせた馬鹿な俺を、どうか許してくれないかな」
「かな、と……ちが……だ」
 声が出ない。違う。あなたが謝ることで解決するのは駄目だと言いたいのに。

「あ、許すついでに許可も欲しいんだけど、いい?」
 何だろ。嗚咽を堪えながら顔を見ると、今日初めて見る微笑みが私を出迎えた。
「仲直りのキス、したい」
 え……。
「真昼間だし、公園っていうオープンな場所だし、嫌かもしれないけど。俺がしたいから、していい?」
 ええええぇ? それ、許可が欲しいと言いつつ、私に拒否権ないのでは?

「——涼香」
「あっ」
「泣かせてごめん」
「……かな、っ」
 絡め取られた視線を外せないまま両手が掬い取られ、直後、唇が重なってた。


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