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武田慎吾の災難
chapter【4−2】
しおりを挟む「チカもだからね。武田くん、一緒に頑張ろ?」
「み、みんなぁ」
奏人の『一緒につき合う』宣言に、チカも同調し、全員が自分に向けてくれる笑みに武田の胸が一気に熱くなった。
「お前らぁ……ううっ、ありがとう! ありがとう! やっぱ、お前らは、俺の大事な幼なじみだぜ!」
「ふふっ。大袈裟だなぁ、武田くんは。――あっ、大変! 兄さん、もう時間だよ? 行かないと!」
「あぁ、そろそろか。おい、皆、行くぞ」
「じゃあね、武田くん。さぁ、皆、急いで! 時間厳守じゃないと、いっちゃんが面倒くさくなって帰っちゃうかもしんないよ?」
「へ? もう帰っちゃうんか? てか秋田! 『いっちゃん』って、まさかっ! み、みっ、宮城先輩のことじゃっ……」
「ん? そうだよー。この後、お疲れ様会で、いっちゃんもチカたちと一緒に焼き肉食べに行くの。今日の大会を見にきてくれてね? 今も下のロビーで、チカたちを待っててくれてるんだぁ」
「うえぇぇぇっ! マジか!」
宮城先輩が、俺の試合を観戦してくれてたのか? しかも、今、この病院に来てる?
俺の憧れ! 歩くフェロモンボンバーの宮城壱琉《みやぎ いちる》先輩がっ?
「おっ、俺も行く! 焼き肉、食うっ!」
「えー? 駄目でしょ。明日まで観察入院なんだから。ねっ、兄さん?」
「慎吾、お前はドクターストップだ。明日まで、おとなしく点滴に繋がれとけ。じゃあな」
「そんなぁ……お、俺も、宮城先輩と一緒に焼き肉食いたいんだよぅ」
武田の切なる声はあっさり無視され、「またね!」と軽快な足取りで病室を出たチカに続いて、成親も軽く片手を上げて去っていった。
秋田、待って! 嘘だろ? お前、俺のマジ天使だったんじゃねぇの?
武田が伸ばした手が、虚しく空を切る。
「武田」
「あっ、土岐! 土岐、俺っ」
「お前、そんなに宮城先輩のことを……そこまで、あの人が好きなのか?」
「へっ? 何? なんか言った? 『お前』の後が全然聞こえなかったよ?」
どうしたことだろう。穏やかに微笑んでいたはずの奏人の眉間に、深いしわが刻まれている。その原因と理由が思い当たらず、しかも、話しかけられた内容も全然聞き取れなかった。
「えと、土岐?」
なんか、俺に聞きたいこと、あんの? 言いたいこと、とか……。
「……いや、何でもない。お前、今日のところは、成親さんの言う通りおとなしく安静にしとけ。体調が良くなったら、俺がいくらでも焼き肉につき合ってやるから。いいな?」
「や、やだっ。置いてかないでくれよぅ、土岐ぃ」
最後に残った奏人も、頭にポンと手を乗せ、優しく言い含めると、あっさりと病室を出ていってしまった。
その事実に、何か言いたげだった彼の様子に自分が疑問を抱いていたことが霧散していく。奏人にしては珍しく、物寂しい様子と、明らかな嫉妬の言葉が前面に出ていたというのに――。
「うわーん、土岐ぃ! 俺もっ! 俺も、土岐と宮城先輩に挟まれて焼き肉食いたい! 愛のハーレム焼き肉、腹いっぱい食いたいんだようぅ!」
うおぉぉおう! これから、ちゃんと自己管理するから!
だから! だから俺も! 大好きなお前と一緒に! 一緒に、連れてってくれぇぇぇっ!
すーっと静かに閉まった病室の扉に向けて武田が発した声と心の叫びは、誰の耳にも届くことはなかった。
【了】
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