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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】
いざよう月に、ただ想うこと【5−3】
しおりを挟むどうして見てしまったんだろう。互いを笑顔で見つめる男女を。
夕陽を弾いてキラリと光ったもの。それが何なのか、どうして覗いて確かめてしまったんだろう。
その輝きが、すごく綺麗だったから?
違う。その前に、とっくに見つけてた。夕陽を弾いて光っていたのが眼鏡のレンズだと気づく前に、私の目は奏人の輪郭を捉えてた。
例え、その人がこちらに顔を向けていなくても。濃茶色の髪と、その存在は、絶対に見間違わない。
そうして、カフェテリのテーブルに片肘を乗せ、頬杖をついた姿勢でそこにいる人が、私が絶対に見間違わない人だっただけだ。
ただ、違うのは、その表情。向かいに座ってる女の子がテーブルに置いた本を一緒に覗き込み、相手の言葉に頷いてるその口元には、柔らかな笑みが浮かんでる。
普段、あまり感情を表に出さないその人が、気を許した相手にのみ見せる笑みを、私は知ってる。静かで、穏やかな笑みだ。
「……違う」
でも、違う。『これ』は、違う。
「どう、して?」
どうして、その笑みを見せてるの? どうして、都築さんにその笑みを向けてるの?
「嘘、でしょう?」
その、柔らかで甘い笑みは、私のものじゃなかったの? 私だけのもの、じゃなかったの?
「……痛い」
胸の奥で、チリッとした痛みが走った。
針で刺されたようなこの感覚、覚えがある。重苦しい何かが、心の表面をざらりと撫でていく。
どろりと渦巻く、黒い、黒いさざ波。それが、胸の中を塗り潰すように荒れ狂い、奥深く埋め込まれたまま、いまだ抜けてくれないトゲの位置をまた私に教えてきた。
痛い。息苦しい。もう、見たくない。ここに、いたくない。
「あ、お財布……」
教室に戻ろう。そう思い、提げていたトートバッグを持ち直した時。そこで初めて、手から滑り落ちていた財布のことを思い出した。
「あった」
視線を下に向けると、それはすぐ足元に落ちていた。
俯いた私の黒い影の横で、芝生の葉に乗っている透明な水滴に触れ、夕陽の中でキラキラと光っている。
「冷た……」
芝生にしゃがんで財布に手を伸ばした私の全身を、少しの湿気を含んだ冷たい風が撫でていく。
秋霖が残していった水滴は財布を手にした私の手をも濡らし、吹きつけてきた夕暮れの風の温度が、さらにその冷たさを増長した。
「……っ、や……だ」
ねぇ? 私、おかしいの。
風がすごく冷たいせい、かな? 立てない。
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