キミとふたり、ときはの恋。【いざよう月に、ただ想うこと】

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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】

いざよう月に、ただ想うこと【6−3】

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「涼香ちゃん。休憩、入ってくださいねぇ」
「あっ、はーい。ありがとう」
 一時間後。交代で取れる休憩時間になった。
 休憩の声かけをしてくれた萌々ちゃんに返事をし、私と交代でウェイトレスさんに入ってくれる満里奈ちゃんにトレイを預けた後、同じ時間帯に休憩をとるメンバーと一緒に教室を出た。
「わぁ、今年もこんなにたくさんのお客様が来てくださってるのねぇ。すごいわぁ。祥徳の学園祭って、ほんとに人気なのね」
 教室の外に出て、初めて、たくさんの方が来てくださってることを実感した。
 去年、転入してきた私は、ここの学園祭は二度めの経験になる。でも、中等科は高等科と違って、模擬店は禁止とか色々と活動制限があったから、自分が参加する学園祭として楽しめるのは今年が初めてと言ってもいい。
「そっか。白藤ちゃんは、うちの学園祭、二回目の参加だったよな」
「あ、そうなの。今ちょうど、私もそのことを考えてたのよ」
 隣を歩く武田くんを見上げて、お返事をした。
 一緒に休憩に入った武田くんは、ずっと私の隣を歩いてる。なぜなら――。
『涼香ちゃん。私、涼香ちゃんのためにボディーガードを雇ってありますから、その人と一緒におばあちゃんのとこに行ってくださいねっ』
『え? ボディーガード? え?』
『ジャーン! 白藤ちゃんボディーガード2号・ヴァンパイア慎吾、参上! さっ、白藤ちゃん。宮さまのばーちゃんに会いに、さくさく出発だ!』
 なんてやり取りが、休憩に入った直後に交わされてたから。

 萌々ちゃん製作の衣装を身につけた、太陽みたいに明るくて健康的なヴァンパイアさんは、なぜか私のボディーガード2号らしい。
 どうして『2号』なのか聞いたら、『そりゃ1号は土岐だからじゃん? つーか、1号の枠、空けとかないと。俺、明日から背後に気をつけて生きてかなきゃだもん。ボディーガードに限らず、白藤ちゃん関係のオリジナル枠は常に空けとくに限るっ』というお返事が返ってきたのよ。
 大部分がよくわかんない内容だったけど、ニカッと笑った武田くんに「休憩時間なくなるから早く行こうぜ」って言われて、聞き返さずに慌てて廊下に出た。
 タイミング逃しちゃったから、もう今さら聞けないけど。1号とか2号とか、そんなの関係ないと思うの。
 だって奏人は、ボディーガードじゃなくて『彼氏』なんだもん。
 そもそも、校内を歩くのに、ボディーガードなんて必要ないよね。
「白藤ちゃん。こっち側がすいてるから、こっちに寄って」
「あ、はい」
 でも、人にぶつからないよう誘導してくれる武田くんには、すごく感謝だわ。
 もしかしたら、方向音痴の私のために、来園者でごった返す校内で迷ったりしないよう、萌々ちゃんが気遣ってくれたのかもしれない。
 うん、そうかもー。

「わっ、白藤ちゃん! ミニスカなんだから、スキップしながら歩くのは、やめたほうがいいって!」
「えっ? はぁい。気をつけまーす」
 あら、いけない。つい、ウキウキが行動に出ちゃってたみたい。
 各教室前にいらっしゃる大勢の来園者の皆さんの間を縫いながら、おばあ様が待っていてくださる中庭までもうすぐだというウキウキが、私の心を弾ませていた。それと、あともうひとつ。
「ふふっ。明日、奏人とどこを回ろうかしら」
 明日、校内を回る約束をしてる奏人と、どこの模擬店や出し物に寄ろうか。
 ずーっとニマニマしながら、周囲をくまなくチェックしつつ歩いてたから。
「あっ、宮ちゃん先生、見っけ! 白藤ちゃん、あそこ! こっちに手ぇ、振ってくれてるよ?」
「うん、ほんとね」
 中庭に出てすぐ。パァっと開けた視界の中に、私も花宮先生の姿を見つけていた。武田くんが声をかけてくれたのと同時に、花壇をバックにすらりと立つスーツ姿を。
「おばあ様っ!」
 そして、その隣にいらっしゃる車椅子の女性。おばあ様に向けて大きく手を振った。

 お会いするの、ひさしぶりだ。先月お見舞いに伺った時に、次は新しい薬玉《くすだま》をお届けするって約束したけど、色々あってその約束は果たせてない。実は、もう何個か作ってあるのに。
「すずちゃん、こんにちは」
 手を振りながら駆け寄る私に、同じように手を振ってくれたおばあ様からの声が届いてきた。
 目元をくしゃっとさせて見上げてくださる表情は、先月と変わらない優しい笑み。それが嬉しくて、一気に傍まで走った。
「おばあ様、おひさしぶりですっ」
 花宮先生が微笑みながら手で指し示してくれているベンチに、会釈してから座った。おばあ様のすぐ隣に座れるよう、予め車椅子の位置を調整してくださってる。
 目の高さが合ったおばあ様が両手を差し出してこられ、私もすかさず、ぎゅっと握り返した。優しい手触りの手のひらから、温かな熱が伝わってくる。
 嬉しい。また、お会いできた。


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