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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】
いざよう月に、ただ想うこと【6−7】
しおりを挟む「母たちの会話を目《ま》の当たりにして驚いたのではないですか? この人たち……いえ、母が祖母と話すと、いつもこんな感じなんですよ」
「あ……」
なんとお返事していいかわからなくて、声を失った。
確かに、お母さまがおばあ様に向ける口調のきつさには驚いたけど。でも、そのお母さまへのおばあ様の対応が意外にも、にこやかなもので。その様子にも驚いていたのは、事実だから。
「母はね。直情径行というか、もともと歯に衣《きぬ》着せぬタイプなんですが、祖母に対してはそれがさらに増長するんです。知らない人が見たら、まるで喧嘩してるみたいに見えるほどに。本当は、仲が良すぎて、こうなってしまうのにね」
「そう、なんですか。はい。なんとなく、わかった気がします」
小声で「全く、仕方のない人たちです」と続けて苦笑された花宮先生のお言葉で、おばあ様たちのやり取りに納得できた自分がいる。
うん。ストンと、納得できた。
「だいたい、長時間、車椅子に座ってたら疲れちゃうくせに。体力のない年寄りは、そろそろ帰らないと駄目よ」
「あら、私はまだ大丈夫よ。鏡子は疲れたの? あ、そうだわ。さっき学生さんが売ってたプリンを買ってあげましょうか?」
「そういうことじゃないのよ!」
今、目前で交わされてる、このやり取りで。
攻撃されるようにきつい口調で話されるお母さまだけど、その内容はおばあ様への気遣いの言葉。
そして、それに対するおばあ様が、まるで幼子のわがままを笑って許してるお母さんって感じなんだもの。
実の娘なんだから、この例えは本当はおかしいんだけど。おばあ様の表情からは、お母さまのことが可愛くて仕方ないって気持ちが溢れてるから。
花宮先生がおっしゃった通り、おふたりは『仲良し親子』なんだなぁって、実感したの。
そして失礼だけど、最初、お母さまの態度に胃がキュッてなるくらいびっくりしたぶん、かなりホッとした。
「ねぇ、すずちゃん。また遊びにきてね」
「はい、近いうちに必ず」
結局、花宮先生もお母さま同様、病院へ戻るよう勧められ、そのお言葉を受けて、おばあ様は帰院されることになった。とても名残惜しいけれど。
「絶対よ。鏡子はこんな気性だけど、気にしないで来てね。この子はね、口うるさいけど悪い子じゃないのよ。すずちゃんなら仲良くしてくれるわよね?」
うっ、どうしよう。
これ、おばあ様なりのフォローなのよね? でもでも、こう言われると余計にお返事しにくい……。
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