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キミとふたり、ときはの恋。【第四話】
いざよう月に、ただ想うこと【6−16】
しおりを挟む「……あっ、タオル外した。武田くん。今、タオル取ったわよ」
「ほんとだ。しかも、『敏光様Tシャツ』の上に学ラン羽織ってる。土岐のことだから、ぜってぇ、きっちりと前ボタン留めるぜ。いやぁ、これで安心だな。白藤ちゃん」
「うんうん。これで、プリティーTシャツを身につけた『ガテン系タオル男子さん』の格好のまま体育館に乗り込むわけじゃないってことを確認できたわ。やれやれ、ひと安心ね、武田くんっ」
「おうよ。土岐のアレは、神レベルでヤバかったからな。んじゃ、安心できたところで、俺たちも戻るか」
「うん、そうしましょ」
後で、と爽やかに奏人と別れた私たちだったけれど、実はその場から一歩も動かず。いったん模擬店に戻った奏人が、体育館に向かっていく後ろ姿をしばらく観察するという、ほんのりストーカー行為を披露していた。
だって心配だったんだもん。奏人はすごくかっこいいのに、自分は地味で目立たないって思い込んでる無自覚な天然さんなのよ。
別れてすぐにそのことを思い出した武田くんと私。ソッコー、『体育館にはTシャツのまま行かないでね。半袖で風邪ひいたら大変だから』って内容のメッセージを送ったわ。ふたり同時に。
ふぅぅ、やれやれ。奏人がすぐにメッセージ読んでくれて良かったぁ。
「ところで白藤ちゃん。俺ら休憩なのに、なんも食ってねぇな。何か食いながら戻らねぇ?」
「あっ、私も今それを提案しようとしてたとこよ。男子バレー部さんのベルギーワッフルはどう?」
男バスさんのライバルの模擬店で買うのは気が引けるけど、ワッフルなら歩きながらサクッと食べられる。
奏人が炒めた焼きそばは、私が煌先輩と話してる間に武田くんがちゃっかりとゲットしといてくれたから、それは後でゆっくり食べるとして、今はお腹を満たさなきゃ。
「おっ、その提案に乗ったー。男バレのワッフルさ。噂では、黒糖味が旨いらしいぜ」
「えっ、何それ美味しそう! 食べたいっ」
「だろ? んじゃ、有馬キャップに見つかんねぇよう、コッソリ買いに……」
「おーい、慎吾ー! ここ、寄ってってよー。売上げに協力、よろしくーっ!」
え?
「ぎゃっ、ひーちゃん! 今まさに、そこにコソッと行こうとしてんのに、んな大声で呼びかけんなよ。有馬キャップにバレるだろっ」
え? え?
突然、前方の模擬店から武田くんにかけられた大声に驚き、立ち止まった。
ひーちゃん?
「慎吾ってばー! なんで、そっち向いたのー? 男バレのワッフル、めちゃ美味しいんだから買ってってよ。おーい!」
知ってる。
「だから、俺の名前叫びながら駆け寄ってくんなよぅ。目立つだろおぉぉ」
こっちに向かって手を振り、走ってくる、すらりと背の高い人。武田くんが『ひーちゃん』って呼んだこの人のこと、私、知ってる。
「やっほー、慎吾! それから、はじめまして、かな? 白藤さん?」
「あ……はじめまして。瀧川《たきがわ》、さん」
直接、言葉を交わすのは初めてだから、『はじめまして』で合ってる。
でも、ハスキーな声を持つ、この相手のことはよく知ってる。瀧川ひかるさん。女子たちの話題によく出てくる、『バレー部のひかるちゃん』だ。
大人っぽい見た目なのにいつも明るく笑ってる、ショートカットの美人さん。女子バレー部の人気者で。
「ほら、慎吾。男バレのベルギーワッフル、すんごい美味しいんだから買っていきなよ。キャプテン同士の売上げ競争とか、この際、関係ないって。さっき、鮎佳《あゆか》も全種類買ってってくれたよ?」
都築さんの親友、だ。
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