56 / 72
キミとふたり、ときはの恋。【第四話】
いざよう月に、ただ想うこと【8−1】
しおりを挟む「ふーん、ふん、ふふふふ、ふーん……ララララーン」
中庭の中央に設《しつら》えられたステージから聞こえてくる、軽音部のミニコンサート。そのメロディーに乗せた声が低くこもり、鼓膜に反響する。
立てた膝に、顔を埋めてるからだ。
カサカサと乾いた葉ずれの音を聞かせてくる木の根もとにうずくまり、身体を丸めてるから。
「ふふふん、ふーん、ラララン……」
コスプレカフェは、盛況のうちに初日を終えた。
赤ずきんちゃんの衣装から制服に着替えた私は、奏人からの連絡をただ、ぼうっと待つことに耐えられなくて、人目につかない場所に身を置いている。
「告白、されてるのかな? 今頃」
ぽつりと、低い呟きがこぼれ落ちた。
「やだなぁ……やっぱり、すごく嫌」
聞こえてくるミニコンサートの曲がロック調に変わり、風に乗って届く賑やかな音に、メロディーに乗せて歌うことをやめた私の暗い声がかぶさる。
『行ってらっしゃい。また後でね』
ちゃんと明るく笑って見送れたはずなのに。
奏人は、私の言葉に微笑んで頷いてくれたのに。忙しい合間を縫って、私のところに先に顔を見せてくれたのに。こんなことばかり呟いてたら、バチが当たっちゃうのに。
この後、中夜祭の企画を一緒に見ようって約束してくれてる。
用が終わったら、すぐに連絡してくれるって言ってくれた。私と過ごす時間を楽しみにしてくれてるって、笑ってくれてた。なのに――。
私、駄目駄目だ。真っ黒い感情が噴き出してくるのを、やっぱり抑えきれない。
『どうして、今さら告白なんて、するの?』
『奏人は、私の彼氏なのに』
『それを知ってるくせに、どうして……!』
いくら我慢しようとしても……堪えなくちゃと思っても、どろどろとした汚い感情が胸の内でうねるのを止められない。
私、彼女失格だ。
あの人は、奏人の大事な幼なじみなのに。こんなこと思ったりしたら、駄目なのに。こんなんじゃ、いつか奏人に見放されちゃう。
嫌われちゃうかもしれ……。
「涼香?」
あ……。
「お前、どうした。なんで、こんなとこで独りでいるんだ?」
誰にも見つからないと思って潜んでいた木陰に響いた、甘い低音。とてもよく知っている、耳あたりの良いその声に、のろのろと顔を上げれば。
「……煌、せんぱ……」
漆黒に白銀の縁取りがされた軍服に身を包んだ長身の人が、訝しい視線を鋭くこちらに向けてきていた。
10
あなたにおすすめの小説
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる