同居人は王子様。

mnkn

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戸惑いのハッピーバースデー。

#27

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よし、明日やる予定だったぶんも途中まで終わらせた。

時計を見ると19時半。
いつもよりちょっと時間が伸びちゃったな。

ここから家に帰ると20時半には帰れるはずだ。

「今から帰ります、っと」

レオンにメッセージを送信して、鞄を手に取る。

するとまもなくして、返事が返ってくる。

"ああ、早く帰ってこい"

これが私たちのいつものやりとりだ。



早く電車来ないかなあ。

あの後駆け足で会社の最寄り駅に向かった。

のんびりイヤホンで音楽を聴きながら、あおいは乗車列に並んで待っていた。

あ、電車来た。

そう思って、あおいが前を向いた瞬間だった。

あおいの目の前に立っていた男の人が、線路に飛び降りたのだ。


え....?


呆然としているあおい。

周辺がざわつき始める。

「ただいま当駅で人身事故が発生しました______」

やがて構内全体がざわつき始めた。

悲鳴や泣き声が漂っている。

目の前で飛び降り自殺を目撃してしまったあおいは、へなへなとその場に座り込むしかできなかった。





20時半を回った。だがしかし、あおいが返ってこない。

またこの間と同じだ。

ただ、今日は真っ直ぐ帰ると言っていたはずだ。

だとしたら遅延か?

そう思って調べてみると、あおいの会社の最寄り駅で人身事故があったようだ。

となると、遅くなるのだろうか。

心配してレオンは、家の最寄り駅まで迎えに行くことにした。



21時、、、まだ帰ってこない。


22時、、、まだ。


もう、23時にもなろうとしている。


俺が家を出た時に、今どこにいる?とメッセージを送ったが返信は来ていなかった。


電話、かけてみるか。

電車の中だと悪いからと思って電話はしていなかったが、レオンは意を決して発信ボタンを押した。



するとその数秒後、ホームから押し寄せてきた人混みの中に、あおいを見つけた。

鞄の中で振動している携帯に気がついて、あおいは電話を取る。


「おい、あおい。改札前の看板の方みろ」

自分の存在に気づいてないであろうあおいにそう言うと、二人の視線がバチっと合った。 



その瞬間だった。


あおいが駆け出したと思いきや、俺に思いっきり抱きついた。





「.....あおい?どうした?」


行動を不信に思ってレオンは問いかけるが、返事が帰ってこない。



.....こいつ、泣いてる?


そう気づいたのは、あおいから鼻をすする音が聞こえたから。


「レオン.....ぎゅってして」

いつもの強気な女からは、想像のつかない発言だった。


「え.....?」

驚きのあまり、レオンは戸惑ってしまう。

「目の前で、死んだの......怖い、体の震えが止まらない......」

泣きながら呟くあおいに、レオンは大体のことを察した。

恐らく、あおいの目の前で、人身事故があったのではないか.....

「あおい、怖かったな....」

ぎゅっとレオンが抱きしめると、あおいはさらにレオンの胸に顔を埋めた。




ひとしきり泣き終えて、もうすぐ23時半。

俺の誕生日は終わろうとしている。

でも、今のあおいはそれどころではなかった。

家に向かう間のいつもの道も、ぎゅっと俺の手を掴んで離さないあおい。

よほど怖かったんだろう。



でも、すごく不謹慎なことを言うと、この状況に何故かドキドキしている自分がいた。




さっき、あおいを抱きしめた時の柔らかさ。


女を抱きしめたのは初めてだった。


こうして、手を繋いだのも初めてで。


昔、20年くらい前のあの頃、俺は兄上に抱きしめられることで安心感をもらっていた。


でも今は逆だ。



俺が抱きしめることで、こいつを安心させたい。俺の手で守ってやりたい。


あおいの泣き顔を見たとき、そう感じた。


そして、俺は気がついた。


これが、誰かを大切に思う気持ちだと言うことに。



今まで生きてきて、ちょうど23年。


俺は、愛するということを知った。
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