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第1章 カイラス・ヴァレンティア
4話 「2人の決意」
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あれから数日が経った。
エルム区の騒動の後、婆さんから少女をコロニーまで護衛する話の詳細を聞かせてもらい、頼むよと最後に念押された上で内層に戻ってきていた。
婆さんがそこまで俺を頼りにする事自体初めてだ。もう長くないであろう婆さんの願いの1つや2つ、叶えたい気持ちはある。
あの人なら何かしらの魔法で50年後も平然と生きてそうにすら思うが、それは喪失前のよくある幻想にすぎない事を理解している。
だから、今出来ることをするのだ。
「入れ」
甲冑を着た兵士の響く声を聞いて、俺は扉を開く。
外層の騒動の件、それを踏まえた外層の補強に関する打診をコロニー上層部の人間にしにきたのだ。
「お時間頂き光栄です」
目の前に現れたのは、コロニーの上層部3人だった。
左右に座る2人は、肥えた腹に脂の乗った肌をしたいかにもな金持ちという風貌。
中央に座るのはガタイが良く、ギラりとした目付きをこちらに向けるこのコロニーの最高責任者だ。名はヴァリウス。
絢爛な衣服に身を包む左の男、その膨れ上がった顎から言葉が発せられた。
「構わん、君の活躍はこちらでも聞き及んでいる。して、要求は何かね」
「先日、外層にて大規模な崩落がありました」
左右の2人はこちらの喋りを遮るように知っているか?いいや、知らないと会話を交わす。
まだこいつらの耳には届いていないのか。そう思い、あの凄惨な被害から語っていく事にした。
死傷者、重傷者数から、外層の無情さを列挙していく。
一通り語り終え外層の補強を頼んだ後、右の男が口を開いた。
「気持ちは察するが……君は外層出身の人間だろう?」
……何が言いたい?
「皆一緒なのだよ、自分らの区域を豊かにして欲しいのは。それと、君の言ってることには幾つか嘘が混じっている」
「虚偽は断じてありませんが」
「じゃあお前」
肥えた豚が、もう1匹の豚に同調を求めるよう横を向いた。
「24日前にあったミリドネ区重傷者2名の崩落とやらを知っているか?」
「いいや、聞いた事がないな。それに事実なら金が出ているはずだろう?」
それは内層民にのみ適応される制度だ。
外層民に補助金など聞いた事もない。
だがそれを訂正する人間はこの場におらず、そのままの調子で俺のあげた事例のいくつかが虚偽として扱われていく。
「悲惨さを唱え、自身の区を豊かにしようとするしたたかな故郷愛は尊敬に値するが、我々は君の愛情に付き合うことは出来ないのだよ。そうだろう?ヴァリウス」
俺は少しの期待をした。
ヴァリウスはこのコロニーのトップにして、頭の切れる御仁と聞き及んでいたからだ。
元々俺がここに来たのは左右の豚と話す為ではなく、この方と話す為だ。
だかそんな俺の期待を引き裂く様に、うむ……と声を上げる。
「我々は順次、崩落の危険のある箇所を修繕して回っている……。既に計画は決まっており、外層の本格改修はまだだ」
「ですが……」
「貴様の職務は軍事だ、ヴァレンティア」
赤子の間違いを正すように、ゆっくりとした口調でそう告げてくる。
その言葉を皮切りに、彼らは俺の話を真面目に取り合ってはくれなくなった。
ーーー
無気力になって、ベットに突っ伏す。
こんな風に自分の無力感を実感したのはいつぶりだろうか。
人工太陽の光はほとんど遮られ、消灯の時間とともに自分の活力が燃え尽きるような感覚に陥った。
想像してた以上に、上層部は腐っていそうだ。
崩落に関しては感知していないものの方が多く、惨状を聞いても現実味を感じれていない様子。
それもそうか。内層のさらに中央で育った金持ち達は、よほどの物好きでない限り外層なんて訪れない。
1人づつ、外層民の顔を思い出していく。
肩口を溶かされた女も。
足から内蔵にかけてを食われた少年も。
婆さんにその弟子たちも。
逃げ惑い、明日を不安に生きる全ての人々。
あと……あの少女も。
きっと外層民は、幸福に生きる権利がある。そうじゃなきゃ、あいつらが感じた絶望と釣り合わない。
ふと、遠い日の記憶が蘇る。
まだ何も持たない少年の頃。
あの頃も、同じような景色を見て、ひどくショックをうけた。
未来へのイメージが湧かない。明日へのイメージが湧かない。飢えに飢えたそんな時、水を生成する魔術に目覚めなければ、それを使って水と食料を交換してもらい続け婆さんに見つかっていなければ、俺はあそこで野垂れ死んでいただろう。
魔法は、不平等な代物だ。
天性の才能によってほとんどが決まると言われ、この世界と同じように足掻く人々に無関心。
だからもし、自分が何か力に目覚めたらそれは誰かの為に使おうと弱者であった頃は妄想にふけっていたんだ。
いつから忘れていたんだろう。
あの頃より力がついた今、その頃の自分への誓いを忘れている事は重い罪のような気がしてくる。
コロニー003まで連れていけば、あの子は助かる。
その言葉を確かめるように、脳内で反復する。
もしあの子が昔の俺と同じで、この世界になんの希望も未来も見えないのなら、俺はあの子に手を差し伸べる義務がある。
婆さんがしてくれたように、昔の俺と誓ったように。
俺はきっと彼女を、コロニー003まで送り届ける。
そう決意して、瞳を閉じた。
ーーー
「ヴァレンティアがコロニーから脱走を企んでいる……だと?」
このコロニーの最高責任者、ヴァリウスは重々しくそう口にした。
「へい。可能性は高いかと……」
「そうか……」
ヴァリウスは考えた。
確かに彼ほどの戦力なら、故郷を裏切り資源の豊富なコロニーに赴く事も可能か。
彼を失えば、どの程度の損害となるか。
その阻止に、どれほど力を注ぐべきか。
そして結論を出す。
「逃がす訳には、いかぬな」
決意の決まったヴァリウスは、その情報の提供者に感謝を告げる。
「密告、感謝するぞ。グロム・バーナード」
グロムはニヤリと微笑んだ後、カイとヴァリウスの戦いを想像した。
――――――――――――――――――
第1章 カイラス・ヴァレンティア -終-
次章
第2章 コロニー128脱獄計画
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エルム区の騒動の後、婆さんから少女をコロニーまで護衛する話の詳細を聞かせてもらい、頼むよと最後に念押された上で内層に戻ってきていた。
婆さんがそこまで俺を頼りにする事自体初めてだ。もう長くないであろう婆さんの願いの1つや2つ、叶えたい気持ちはある。
あの人なら何かしらの魔法で50年後も平然と生きてそうにすら思うが、それは喪失前のよくある幻想にすぎない事を理解している。
だから、今出来ることをするのだ。
「入れ」
甲冑を着た兵士の響く声を聞いて、俺は扉を開く。
外層の騒動の件、それを踏まえた外層の補強に関する打診をコロニー上層部の人間にしにきたのだ。
「お時間頂き光栄です」
目の前に現れたのは、コロニーの上層部3人だった。
左右に座る2人は、肥えた腹に脂の乗った肌をしたいかにもな金持ちという風貌。
中央に座るのはガタイが良く、ギラりとした目付きをこちらに向けるこのコロニーの最高責任者だ。名はヴァリウス。
絢爛な衣服に身を包む左の男、その膨れ上がった顎から言葉が発せられた。
「構わん、君の活躍はこちらでも聞き及んでいる。して、要求は何かね」
「先日、外層にて大規模な崩落がありました」
左右の2人はこちらの喋りを遮るように知っているか?いいや、知らないと会話を交わす。
まだこいつらの耳には届いていないのか。そう思い、あの凄惨な被害から語っていく事にした。
死傷者、重傷者数から、外層の無情さを列挙していく。
一通り語り終え外層の補強を頼んだ後、右の男が口を開いた。
「気持ちは察するが……君は外層出身の人間だろう?」
……何が言いたい?
「皆一緒なのだよ、自分らの区域を豊かにして欲しいのは。それと、君の言ってることには幾つか嘘が混じっている」
「虚偽は断じてありませんが」
「じゃあお前」
肥えた豚が、もう1匹の豚に同調を求めるよう横を向いた。
「24日前にあったミリドネ区重傷者2名の崩落とやらを知っているか?」
「いいや、聞いた事がないな。それに事実なら金が出ているはずだろう?」
それは内層民にのみ適応される制度だ。
外層民に補助金など聞いた事もない。
だがそれを訂正する人間はこの場におらず、そのままの調子で俺のあげた事例のいくつかが虚偽として扱われていく。
「悲惨さを唱え、自身の区を豊かにしようとするしたたかな故郷愛は尊敬に値するが、我々は君の愛情に付き合うことは出来ないのだよ。そうだろう?ヴァリウス」
俺は少しの期待をした。
ヴァリウスはこのコロニーのトップにして、頭の切れる御仁と聞き及んでいたからだ。
元々俺がここに来たのは左右の豚と話す為ではなく、この方と話す為だ。
だかそんな俺の期待を引き裂く様に、うむ……と声を上げる。
「我々は順次、崩落の危険のある箇所を修繕して回っている……。既に計画は決まっており、外層の本格改修はまだだ」
「ですが……」
「貴様の職務は軍事だ、ヴァレンティア」
赤子の間違いを正すように、ゆっくりとした口調でそう告げてくる。
その言葉を皮切りに、彼らは俺の話を真面目に取り合ってはくれなくなった。
ーーー
無気力になって、ベットに突っ伏す。
こんな風に自分の無力感を実感したのはいつぶりだろうか。
人工太陽の光はほとんど遮られ、消灯の時間とともに自分の活力が燃え尽きるような感覚に陥った。
想像してた以上に、上層部は腐っていそうだ。
崩落に関しては感知していないものの方が多く、惨状を聞いても現実味を感じれていない様子。
それもそうか。内層のさらに中央で育った金持ち達は、よほどの物好きでない限り外層なんて訪れない。
1人づつ、外層民の顔を思い出していく。
肩口を溶かされた女も。
足から内蔵にかけてを食われた少年も。
婆さんにその弟子たちも。
逃げ惑い、明日を不安に生きる全ての人々。
あと……あの少女も。
きっと外層民は、幸福に生きる権利がある。そうじゃなきゃ、あいつらが感じた絶望と釣り合わない。
ふと、遠い日の記憶が蘇る。
まだ何も持たない少年の頃。
あの頃も、同じような景色を見て、ひどくショックをうけた。
未来へのイメージが湧かない。明日へのイメージが湧かない。飢えに飢えたそんな時、水を生成する魔術に目覚めなければ、それを使って水と食料を交換してもらい続け婆さんに見つかっていなければ、俺はあそこで野垂れ死んでいただろう。
魔法は、不平等な代物だ。
天性の才能によってほとんどが決まると言われ、この世界と同じように足掻く人々に無関心。
だからもし、自分が何か力に目覚めたらそれは誰かの為に使おうと弱者であった頃は妄想にふけっていたんだ。
いつから忘れていたんだろう。
あの頃より力がついた今、その頃の自分への誓いを忘れている事は重い罪のような気がしてくる。
コロニー003まで連れていけば、あの子は助かる。
その言葉を確かめるように、脳内で反復する。
もしあの子が昔の俺と同じで、この世界になんの希望も未来も見えないのなら、俺はあの子に手を差し伸べる義務がある。
婆さんがしてくれたように、昔の俺と誓ったように。
俺はきっと彼女を、コロニー003まで送り届ける。
そう決意して、瞳を閉じた。
ーーー
「ヴァレンティアがコロニーから脱走を企んでいる……だと?」
このコロニーの最高責任者、ヴァリウスは重々しくそう口にした。
「へい。可能性は高いかと……」
「そうか……」
ヴァリウスは考えた。
確かに彼ほどの戦力なら、故郷を裏切り資源の豊富なコロニーに赴く事も可能か。
彼を失えば、どの程度の損害となるか。
その阻止に、どれほど力を注ぐべきか。
そして結論を出す。
「逃がす訳には、いかぬな」
決意の決まったヴァリウスは、その情報の提供者に感謝を告げる。
「密告、感謝するぞ。グロム・バーナード」
グロムはニヤリと微笑んだ後、カイとヴァリウスの戦いを想像した。
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第2章 コロニー128脱獄計画
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