【完結】魔物世界と太陽の鳥 ~魔法軍最強の俺はコロニー上層部が腐ってるので少女を連れて別のコロニーを目指す~

中島伊吹

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第5章 グロム・バーナード

27話 「隠していた本心」

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 ミリーはこちらを見ると安堵した表情を浮かべて、次にバツが悪そうな顔をした。

 走り、俺の元まで近づくと治癒魔術をかけてくれる。

 体中の痛みがみるみる引いていき、血の熱さが消えていく。



「ミリー、お前、なんで……っ」

「まだ痛いんでしょ。喋んなくていいから、ちょっと待って」

「……悪い」



 その治癒の精度は、俺と同等かそれ以上だったろう。

 何から何まで疑問しかないが、なぜ少女がそんなにも魔術を使えるのか。

 当然のような表情をするからには、元々使えたのだろう。

 今までの旅では、隠されていたのか。



 脳内で旅を振り返る。

 思えばそれらしき仕草はあった。



 脳裏に浮かんだのはヴェイルヴィンドの時、役に立てなくてごめんと謝るミリーの姿。

 あれは自分が能力を持っていながら戦闘に参加していない事から、強く罪悪感を感じていたのではないか。



 初めて出会った日、エルム区の崩落事故の時も、確かそうだ。

 杖を握り、重傷者にごめんなさいと謝る少女の姿が印象的だった。

 あれも魔術を使えるのにも関わらず魔術を隠し、崩落事故の対処に参加しない自分を悔やんでいたからなのか。



 やがて体が五体満足の状態にまで戻り、感覚が戻る。

 すっと痛みは引き、それを確かめるようゆっくりと立ち上がった。



「……大丈夫?」

「あぁ。残った傷1つない」

「そっか、よかった」



 単刀直入に、切り込んでみる事にした。



「その魔術は、旅に出る前、俺と出会うより前から使えたのか」

「……うん。そうだよ」



 ミリーはその首元から服を下げ、肩口を見せてくれる。

 そこには、太陽のような紋章があった。



 紋章。魔術を極めた者に浮かび上がる証。

 知らない見た目をしていた。恐らく、炎魔法の紋章だろう。



 思えば、ミリーが風呂場で泣いていそうだという話になった日。

 風呂にやたら厳重につっかえ棒のような物を土魔術で作っていた事に気が付いた。



 あれは、間違っても肩口を見られてはいけなかったからか。

 少女にとって紋章を見られることが、不都合だったから。



「なぜ、黙っていたんだ」

「お婆さんにね、絶対に隠しておきなさいって言われてたの。コロニー003に着くまで、誰にも言っちゃいけないって」

「なぜだ」

「……言えない。ごめん」



 訳が分からなかった。

 俺が要らない程に魔術が使えるのなら、なんの為にこんな危険な旅に出たのか。



「俺はお前が無力で、コロニー003まで行けなければ酷い仕打ちを受けると聞いたからこの話を受けた。その力があれば軍でも人助けでも、生きていく方法は無数にあっただろう?なぜそれをしなかった。お前は、1人で生きていけるだけの力があったんじゃないのか」

「……そうかもね、1人で生きていけるだけの力は、多分あった」

「……」



 疲労感は、全くと言っていいほど収まらなかった。

 むしろこれまで緊張の糸で結ばれていたのが切れたように、体中に倦怠感と眠気が広がる。

 思案する脳も、限界だった。

 少女が理解できない。十数日共に旅をして、理解していたかのように誤解していた。



「お前の知る事を、教えてくれ。ここまで来て教えられないの一点張りはないだろ」

「……言えない」

「どうしてそうなる」

「だから、無理なんだって」



 少しずつ苛立ちが募るのが分かった。

 もう考える事を放棄したかった。疲れ切った脳は思考を拒絶する。

 だがそれでも1つ、どうしても聞かなければならない事があった。



「……お前はグロムを、助けられたかもしれないのか」

「……かもね」



 少女の全てが理解できないような感覚に陥り、次に後悔が広がった。

 俺は何かこの旅の重要な部分を知らされず、ここに来たのか?

 それは俺が知り得てはいけない情報だったのか。

 少しずつ心に負の感情が溜まり、それが出所を失っていき、怒りへと姿を変える。



「ならお前が……」



 お前が力を貸してくれればと言おうとして、言葉に詰まった。

 怒りが湧いて、彼が死んだことを少女のせいだとして。

 そんな自分が、惨めに思えたから。



 こんな年端も行かぬ少女の持つ力に期待し、お前のせいだと言いそうになる自分が弱く、惨めだと気付いた。



 やがて怒りは自分への物に変わり、それが行方を失った自己嫌悪へと変わった。

 少女と居れば、頭がおかしくなりそうだった。

 だからただ1人で休みたくて、咄嗟に、その言葉を吐いてしまった。



「ならお前はもう、1人で生きていけるだろ」

「……カイ?」

「勝手にコロニー003にだろうと向かってくれ。これ以上、お前と旅をする理由なんか無い」



 そう、言ってしまった。

 体に強い疲労感と倦怠感が溜まり、その場で視界が暗闇に落ちていくのが分かった。



ーーー



 夢を見た。

 俺はまだ19歳になろうかという年齢で、軍で働いている。

 見渡しても茶色の土しかない地下で、皆に混じり上司の話を聞いていた。



 右の席をみやると、やけに座り方の悪いグロムが居た。

 今よりも肩幅が狭く、まだ剣士として発展途上の軍人。



 確か出会ったばかりの頃は何かにつけて因縁をつけてくるグロムを、うっとおしく思っていたんだっけ。

 それが派手になると上に注意され、その度形式ばった仲直りだけした。



 親密になったのは、同じ配属先になった時だ。

 グロムがメキメキと実力を付け、俺と同じ仕事をするようになった。

 最初は互いに不服だったが仕事をするにつれ誤解が解けた。



 視界の先にあった昔の俺達は消え、暗転して心地よい浮遊感が残る。

 黒い世界を漂い、そこに誰かが居る事に気が付いた。



 そこには今の、大人になったグロムが居た。

 浮かない表情で目が合い、何も語ろうとしない。

 心にズキリと何かが刺さる感覚があった。

 こちらの心を見透かされるような錯覚。



 ……なぁグロム、聞こえているのか。

 俺はお前をこんな旅に連れ出してしまった。

 呪いをかけ、若い頃のお前も追いつめてしまった。



 でも俺はどこかこの旅の中、本当の相棒になれた気がしたんだ。

 身勝手な話と思うかもしれないが、本当に、そう思ったんだ。



 グロムは表情を変えない。やはり届いていないのか。

 未だ冴えない顔で、何かを伝えようとしているのかと思う。



 ……いや、本当はもう分かっている。

 俺はここにいちゃいけない。

 少女を連れて、コロニー003を目指さなければ。



 グロムに託されたのに、こんな体たらくじゃ報われない。

 少女と、ちゃんと向き合わないといけない。



 そう覚悟を決めると、やがて視界が霞む感覚があった。

 少しずつ白色に包まれていき、グロムが見えなくなる。



 暖かく、意識が覚醒していくのが分かる。

 過去と向き合い、少女と向き合わないといけない。

 きっとグロムは最期にそれを伝えに来てくれた。

 そう思いながら、目を覚ました。



――――――――――――――――――



第5章 グロム・バーナード -終-



次章

第6章 コロニー003



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