【完結】魔物世界と太陽の鳥 ~魔法軍最強の俺はコロニー上層部が腐ってるので少女を連れて別のコロニーを目指す~

中島伊吹

文字の大きさ
29 / 38
第6章 コロニー003

29話 「到着 前編」

しおりを挟む
 アビスティアから少し離れた辺り。

 ぽつぽつと建物が減っていき、郊外のような場所にその入り口はあった。



 物々しい雰囲気の門に近づくと、数人の武器を構えた人間がこちらを警戒している様子。

 恐らく軍の人間だろう。その中心にいた大剣を担ぐ女に語り掛けられる。



「あんた、どこから来んだい?このコロニーの人間じゃないだろ?」

「あぁ。アルヴァンという男に頼まれてここまで来た。悪いが通して貰えるか」

「アルヴァン様の……あぁ、そうか。到着はもう少し先だと思っていたから失念していたよ。あたしが案内する事になってるんだ。ついてきてくれ」

「頼む」



 トントン拍子で会話が進み、女が門を開く。

 こちらの手を煩わせないよう、アルヴァンが軍人に手を回していたのだろう。

 塔で木霊する3人の靴音と、そこに流れる独特の緊張感を感じながら一段一段と階段を降りていく。

 その階段や外壁全てが128や236とは違うしっかりとした物で、このコロニーの技術力の高さが伺える。



「ミリーは、まだ休まなくて平気か?」

「うん。夜は一応見よう見まねでいつもの家も作って、ちょっとだけ寝てたから」

「そうなのか」

「ただ寒くて、やっぱり火つけよって思って、しばらくしたらカイが起きたの」



 思えばミリーは料理の準備の際、小さな食器も作ってくれていた。

 恐らく土魔術も出来るのだろう。

 末恐ろしい実力だと思うのと同時に、魔術全般で俺の上をいかれていたのなら立つ瀬が無いな、なんて事を思った。

 ……俺どこかで意気揚々とミリーに魔術のコツなんか教えたりしてないよな?



 魔力は大人になるにつれ伸びる。

 13歳でこれなら、10年後、どころか5年後には今の俺も、現役時代の婆さんをも超える魔術師になりうる。

 勿論ミリーが魔術の道に進むのならだが。

 その時が楽しみでもあり、末恐ろしくもあった。



「よっ……と」



 最下層まで辿り着き、大剣持ちの女が戸を開く。

 するとそこに広がっていたのは、あまりに広い地下空間と整備された建物の数々だった。



「すごい……」



 道は大通りへと続いており、かなりの人数で賑わっている。



「ここが中央区だよ。コロニー003は大きく3つの地区に分かれている。中央区、農業区、工業区。基本的に居住地は中央区に集中してて、今アルヴァン様は工業区で仕事をしているはずだ」

「アルヴァンはやはり偉い立場の人間なのか?」

「あぁ。アルヴァン様は、称えられるべくして称えられた人だよ。このコロニーの食料問題から廃棄物の処理まで、色んな問題を改善へと率いた現代の偉人だ」

「アルヴァンは貴族というより、政治家に近いのか?」

「いいや、どちらかというと研究者だね。というか、そんな事も知らないで来たのかい?」



 少しイメージとは違った。

 てっきり良い家柄の朗らかな家族のような物を想像していたが、随分きちっとした技術の開拓者らしい。



 やがて辺りが人の家の立ち並ぶ景色から、煙突の並ぶ蒸気の都へ姿を変える。

 その中でもひときわ大きな建造物の前で女は足を止めた。

 ここで少し待っててくれと一言告げて建物へと入っていく。



 どうやらここが俺達の目的地らしい。

 アルヴァンの職場というのでミリーがここで暮らす事はないだろうが。

 そう思っていると、ミリーにねぇと話かけられた。



「カイ、上のあれ、見た?」

「……あぁ、あれは、少し不気味だな」

「ね、カイがあのコロニーで見たって言った奴って、あんな感じ?」

「そうだ」



 ミリーと2人で上空を見やった。

 そこにはあのコロニー236で見た物と同じであろう、黒い太陽が浮いていた。

 勿論、光は発していない。



 どうやらこのコロニー003には人工太陽が複数あるようで、中央区、遠くにうっすらと農業区にもそれらしき物が見えた。

 そして工業区の人工太陽。これだけが黒く、光を失っている。



 わざわざ置いてあるという事は、何か俺達も知らない意味があるのか、昔は太陽のように光を発していたかのどちらかだろう。

 実際工業区は少し灯りが足りていないようにも思える。

 コロニー128の外層程じゃないが、工業区の奥地はかなりの暗がりが広がっていそうだった。



 すると奥に行った女が帰ってきて、申し訳なさそうにこう告げた。



「悪いが、あんまり早い到着だから向こうも準備が整ってないらしい。すぐに呼ぶべき人を呼ぶから3時間後にまたここに来てほしいだってさ。これは、アルヴァンからの駄賃だ」



 金貨3枚を渡された。

 太っ腹な待遇だと一瞬思ったが、コロニー128とは金の価値が違いそうだ。

 となればこの金額も妥当かと思い、受け取る。



「適当に街をぶらついていろという事か?」

「あぁ、特にさっきの中央区の出店は賑わってるよ。行ってみる事を薦めるね」

「了解した」



 俺達は女と別れ、またミリーと2人になる。

 言われた通り引き返すように中央区へと歩いた。



「流石にわたし達、早すぎたんだろうね」

「コロニー236で送り返した鳥から、おおよそ5日後辺りだと予想されてたんだろうな」

「カイが頑張ったおかげだね」

「あぁ。それと……グロムのおかげだ」

「……うん。そうだね」

「ミリーのおかげでもあるな。龍を仕留めてくれた」

「じゃあ、皆のおかげだよ」



 中央区の出店の立ち並ぶ大通りに辿り着く。

 街は活気で賑わい、人が波のように並んでいる。

 こんな景色は128じゃ、何かの祭りの時ぐらいしか見られないだろう。



 ひとまずは物価が気になる。そう思い店を覗こうかと思った時、ミリーがある物を見ている事に気が付いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...