【完結】魔物世界と太陽の鳥 ~魔法軍最強の俺はコロニー上層部が腐ってるので少女を連れて別のコロニーを目指す~

中島伊吹

文字の大きさ
31 / 38
第6章 コロニー003

31話 「真相」

しおりを挟む
「私の名は、アルヴァン・フローラではない。本当の名は、アルヴァン・エリオス。君を騙してここまで旅をさせた事を詫びよう」

「……何故俺に隠す必要があった」

「君ほどにこの旅の適任者が居なかったからだ。なんとしても君に頼むために、この選択をした」

「全てを話せば、俺が降りるような内容なんだな」

「私は君の顔も境遇もこの目で見ていない。そのため君に限定した話ではないな」



 ミリーは背中に隠れ、俯いている。

 まさかいきなり武力行使という事は無いだろう。

 それならこんな睨み合いの場は設けない。



「ミリセア君を君に連れてこさせたのは、端的に言えば私達の研究の一環だ。ここに居る者は皆私の部下でね。研究を共にする仲間という訳だ」



 アルヴァンは一段階低い声になり、そう告げる。



「唐突だが君は100年前、人類がどうやって人工太陽を作ったのか知っているか?」

「詳しくは知らないな。炎魔法の応用だかで作られたってくらいだ」

「そうだ。人工太陽は大いなる力を持つ炎魔術士の、魔力を拝借する事で作られている。明確な基準値としては、炎の紋章を持つ程の魔術師である事だな。そうして人類は100年の安寧を築き上げた」



 安寧か。

 見てもいない100年前を持ち上げる訳じゃないが、少なくともコロニー128の現状を安寧だと、俺は思えなかった。



「だが、ここ数年異変が各所で起こり始めた。人工太陽が黒く腐食したという報告が、様々なコロニーで報告されたのだ。君もここに来るまでに目にしただろうが、私達のコロニーでも1つが機能を失い、巨大な置物となっている」



 コロニー236の時の黒い太陽。あれもそうなのだろう。

 太陽が機能停止したと仮説を建てたが、どうやらあの時の考えは当たっていたらしい。



「事態は緊急を要し、私もこの研究に就いた。そしてひとつの仮説に辿り着いた。それが、人工太陽の寿命だ」

「……」

「魔力を測定する際に使われる装置を使い、黒い太陽と、現存する太陽とで比較した結果だ。黒い太陽は魔力が完全に枯渇し、現存の太陽も数値に出すと、100年間誰も指摘しえない程わずかに魔力が減少していると分かった。

 元が人間の魔力なのだ。人が衰えるのと同じように、太陽も人と同じような寿命を機に衰えた。経年劣化と言い変えてもいいな」



 確かに、それならば筋は通る。



「それで、このコロニー003の為ミリーに新しい人工太陽を作らせようって訳か?」

「いかにも」



 そう言われながら、思考を巡らす。

 奴の話に不可解な点は無いだろうか。



「炎魔法の紋章持ちってのは、そんなに居ない物なのか?俺のコロニーはここの人口のざっと8分の1だ。わざわざミリーを使わなくとも、コロニー003の魔術師をあたる事はできただろう」

「居ない。私の知る限り、ミリセア君の他に1人たりとも」

「冗談だろ?100年前は国中に、異常な速度で人工太陽が設置されたのにか?」

「そこには、私達も頭を悩ませていた。だが、つい最近これにも信憑性の高い仮説が出来た。簡潔に言えば、人類は正しい渇望の仕方を忘れている」

「渇望?」



 アルヴァンは手を組み換え、落ち着いた声で話し出す。



「君は、人が魔術を使う為になにが必要か分かるかね」

「こっちじゃ才能を持った奴が強い願望を持った時に魔術に目覚めるってのが通説だな」

「そうだ。願望。渇望。具体的には一定以上の値を出す程の強い枯渇が必要なのだ。君程の魔術師なら、明確に強い渇望を持った事があるのではないか?」

「……あぁ。あったな」



 俺は飢えに飢えて、水を強く求めた時水の魔術に目覚めた。

 そこからも内層民に這い上がり、失った人生を取り戻すという強い渇望で軍で力を付けた。自分では、そう解釈していた。



「だが先程も言った通り、我々人類は炎魔法に関しての正しい渇望の仕方を忘れた」

「人の変異のような話か?」

「少し遠いな。渇望の仕方という物には明確な正解があるのだよ。風を求めるには風を想像し、水を求めるには水を想像するだろう。炎魔法も例外ではない。太陽の紋章を出現させられる程の人間は、太陽への正しい渇望を持たなくてはならない。そしてその願いは、本物の太陽を人類が見なくなった事により、潰えた」

「人類が地下で暮らし始めた弊害という訳か」

「そうだ。そして100年前急速に人工太陽が広まったのは人類が地下で営みをはじめ、本物の太陽を知っている者が正しく求めたからだと言える。今の世代を作った、本物の太陽を見た事の無い人々と違ってな」



 アルヴァンの話は理路整然としている。

 だがまだ気になる点があった。



「じゃあなぜ、ミリーは炎の紋章持ちになれた?」

「ミリセア君は恐らく、正しい渇望の仕方を知っていたのだよ。君のコロニーでは崩落が多かったのだろう?賭けてもいい。ミリセア君は紋章を出現させる前に一度でも、本物の太陽を見た経験がある」



 記憶を呼び戻す。

 そういえば旅を始めた直後、一度本物の太陽をみた経験があるとか言っていた。

 そしてそれに感動して、コロニー内全てがそんな風に明るければ、というような話もしていたな。

 それがミリーの持った、正しい渇望という事か。



 全てが繋がっていく感覚があった。

 コロニー003で炎の魔術師が出ないのは、立派な構造をしている故に崩落事故が発生せず、本物の太陽を見る人間の母数が極端に少ないからなのだろう。



 軍人共はこのコロニーでも太陽の元へ出向いているだろうが、それが習慣化する軍人は太陽への渇望を持ちにくい。

 その為太陽を知り強い渇望を持つのは、崩落事故を経験した外層民が適切。



「それで婆さんとコネがあってミリーの話を聞き、俺へと繋がったという訳か」

「そうだ」



 婆さんは元々内層で魔術を教える人間だった。

 誰よりも魔術師を見る役職。

 炎魔法の紋章持ちを見かけたら連絡しろという旨の話が通っていてもおかしくはない。



「以上が私の知る全てだ。私が心血を注ぎ研究したこの数年間の結晶とも言える。ミリセア君を、渡してくれないか」

「……いいや、まだ聞きたい事がある」

「なにかね」

「その研究は、本当に……安全なんだろうな?」



 1つ思い出した事がある。

 旅に出る前、婆さんの反応だ。



 ミリーを抱きしめて、ごめんごめんと謝罪を繰り返していた。

 挙句こんな事をさせるのは申し訳ないと思っているとも言っていた。

 あの時は無茶な旅をさせる事への謝罪だと思ったが、もしこの研究を知っていたのなら……。



 心臓の鼓動が早くなる感覚があった。

 なぜだか胸がざわつき、落ち着かない。

 それはきっと少女に、あの日から続いた罪を肯定してもらえたからで。



「君には悪いが、少女には器となり、大いなる犠牲となってもらう」



 アルヴァンは冷酷に、そう告げた。

 魔力の全てを抽出すると人は朽ちるのだと付け加えてくる。

 言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

 淡々という奴の姿に唖然とし、次に怒りが湧いて出た。

 半開きになっていた口を開き、なるだけ平静を装って次の言葉を吐いた。



「馬鹿げてる。悪いがこの子の命はそんなに安くない」



 そう言い放った。

 言い切る事こそ、ミリーが救われる方法なんじゃないかと思って。

 だが次にアルヴァンの紡いだ言葉にまた、衝撃を受けた。



「運命を決めるのは君ではない。ミリセア君だ。彼女はこの旅に来る前に既に、器となる事を了承している」



 俺はすぐ、後ろに隠れるミリーをみやった。

 俯いていて、表情は見えない。



「そうだろう?ミリセア君」



 俺含めその部屋に居た多くの大人の目がミリーに向けられる。

 ミリーは顔を上げてそれに気が付くと、掴んでいた俺の服の裾を手放して言った。



「……はい。いいです。太陽に、なります」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...