【宇宙漂流記外伝】─邂逅の宇宙─

─邂逅の宇宙─

　　　
　
「ブリッヒ艦長かんちょうまた残されてますね。
　やはり宇宙食はお口に合いませんか？」


そう言って私を見つめる若い士官の女性、
イーシャン・フロイル。

星々のキラメキにも劣おとらぬ、
そのブロンドを見つめ思う。


若いな。


「いや、そうじゃない。
 宇宙食だから不味まずいと言う訳わけじゃないんだ」

いや事実、
栄養のバランスを考え抜かれた宇宙食は、
地球で食べるどんなご馳走ちそうよりも
美味おいしかった。

「やはり宇宙では味覚みかくが鈍にぶるので、
　味気あじけなく感じますか？」

確たしかに宇宙では味覚が鈍るが、
そのため宇宙食は味付けが濃くされている。

決けっして味気ないわけではない。

「いや美味しいよ。
　ただ私は昔、とんでもなく美味しいものを
　口にしてしまってね。
　それからは何を食べても、
　たいして美味しく感じられないんだよ」

そう、それは味が薄いとか濃いとかを
超越ちょうえつした味だった。

「そんなにですか？」

「生涯しょうがい、私が忘れる事の出来ない味だよ・・・

あれは私がまだ１３、いや１４だったかな、
そこいらははっきりしないが、
そのとき食べたあの味だけは、
今でも鮮明せんめいに思い出すよ」

彼女はその言葉に何かを感じ取ったらしく、
息を飲みつぶやいた。

「アストロノーツ強奪事件ごうだつじけん・・・　」

そう小さくつぶやいた彼女を見つめ思う。

やはり似にてるな。

似ている。

深遠しんえんの宇宙で果てたかつての友に。

かつての少女に。

私の手で失った、かつての温もりに。


「もう５０年か・・・　」


ブリッヒはぼんやりつぶやき、
その頃ころの邂逅かいこうをくゆらせた。


そう私がそれを口にしたのもその頃ころ・・・


情緒多感じょうちょたかんな少年期。


今でも忘れられない味・・・