彼はオレを推しているらしい

まと

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あれから無事に帰宅して少しだけ時間がたった。戸惑う脳内を無理矢理落ち着かせ、とりあえずは冷静になれたとは思う。

別に何も気にすることなんてないじゃないか。

有馬とは誤解も解けた訳だし、明日からは挨拶くらいは交わす仲になっているだろう。

多少おかしな事を言われたり、おかしな事があったかもしれないがそれも有馬なりのコミュニケーションの取り方なのかもしれない。

もしくは有馬って...本物のド天然??

実は2本の傘を持っていながらも男同士で相合い傘をしたり、濡れるからと言って男の肩を抱き寄せたり、…オレごときを本気まじな顔をして可愛いと言ってみせたり…。

「うまっ、このゴリゴリ感たまんねー」

………やっぱ有馬って変わってる。可愛い女の子ならまだしも、オレなんかにあんな感じでくる?!いやこないでしょ!

もしかして有馬って…オレの事、好き…だったりして?!

どうしよう?!もしそうならオレどうしたらいいんだ?だってだってオレも有馬も男だし、いくら有馬がイケメンで美形だからってオレは女の子が好きなわけで...。

だけど有馬って優しいよね...実はあの静かな話し方もいいなと思う。なんか良い匂いもしたし..抱き寄せられても嫌な気持ちにならなかった。

(だーーー!!何考えてんだか!)

「まあオレはマカダミアナッツよりアーモンド派だけどね」

「じゃあ食べるなっ!うるさいよ、さっきからぁっ!!てか人のベッドに寝転ぶな!」

先程から堂々とオレの好物のマカダミアチョコレートを勝手に奪っていくのは弟の央二おうじ、中学3年生だ。

反抗期なのか何度やめろと言っても人の部屋に勝手に入り、人のベッドで寛ぐのを止めない。そのうえ人の大切なおやつを奪っていく不届き者だ。

「一花、ゲームしよ」

「しない。お兄ちゃんは少し考えたい事があるから今すぐ部屋から出て行きなさい」

「いやだ、暇だもん。今日部活なかったしめちゃ暇。さあさあゲームしようや」

こいつ、言うこと聞きゃしないな。まあいいや、放って置こう。


テーブルの上で頬杖をつき、鏡を見る。


「…はあ、オレってそんなに可愛いのかな」

「きもい」

「言われるまで知らなかったなぁ」

「いや滅茶苦茶平凡。寝起きは平凡以下というかブスだよ?」

「うっさい!こっちは色々と考えんだよ!..っとになんでお前みたいなのがモテるんだか」

「顔がいいから」

「ちっ!!!」

世の中顔か!結局顔なのか?!

この弟、食い気と泳ぐ事しか頭にないくせに(水泳部)、いわゆるイケメンの類に分類されているらしく学校ではかなりモテているらしい。

そんでもって部活で鍛えているからなのか、身体も引き締まっていて格好良い。身長もとうの昔に越されてしまった。

傍から見ればきっと、オレの方が弟に見えるだろう...オレ、どちらかというと母親似の童顔だし。(央二はキリッと顔の父親似)

(くそ!何から何まで簡単に兄を超えていきやがって)


「なに?誰かに可愛いとか言われたの?」

「ま、まあ?オレだってそれなりにね」

「ふーん?まあちびでガキッぽい感じが可愛く見えるんじゃね?一花ってたまに私服も中学生っぽいし」

「お前は兄を泣かせたいのか?あと服は全て母さんのセンスだぞ。母さんに謝れ」

「いい加減自分の服くらい自分で選ぶようにしたら?どうすんの?大学行って、社会人になっても親に服選んで貰うの?自立しろよ恥ずかしい」

「…先程から堂々と人のモノを奪っておいて容赦ないなキサマ」

本当に血を分けた兄弟なのか不安になってくるレベルだぞ?もう少し兄を敬え。

「これでも心配してるんだけどな。一花みたいな単純な人間には、オレみたいな弟がうってつけなんだぜ?」

「へえ…こんな鬼みたいな弟が?ははは」

「あとな一花」

「まだ続くんだ?まだエグッてくる気だ?」

はあ…困ったやつめ。年頃なのかこうも兄に対して生意気だとは…まあ反抗期なのだろうと苦笑いする。

なんだかんだで可愛い弟だもの。広い心で受け止めてやるさ。

「さっきの話しだけど簡単に女の言うことを信じて鵜呑みにするなよ?悲しいけどその一花に対する『可愛い』は恋とか愛とかそう言った類のものじゃないからな」

「うんうん、それで?」

「要は男にも色気ってのが大事なんだよ。従姉のまゆ姉も、一花は一生童貞だと思うって言ってたぞ」

「はっ…、はあぁあああ?!!そっ、そんなの分かんないじゃんっ!ていうかお前まゆ姉となんつー話ししてくれてんの?!」

一体従姉とどんな話してんだよ。そもそも現時点でオレが童貞とは限らないだろ?!

...そりゃあまだ?ど...童貞だけどさ。

「まあ一花はあれだ。マスコットとか犬や猫と同じジャンルの『可愛い』だ。トキメキよりも和むみたいな?」

「ぐ…ぐぬぬ…」

全くもって嬉しくないが、確かに有馬もオレを小動物みたいで可愛いと言っていた。
そうか…そういった意味合いでオレを見ていたのか。

そりゃそうだ。なんてったってオレ達は男同士だし、あのモテモテ有馬がわざわざオレに対して特別な感情を持つはずなんてないし。

「女にモテたきゃさ、異性として意識されるようになってみなよ。オレが教えてやろう。まずはそのマヌケヅラを磨きあげなさい」

「誰がマヌケヅラじゃい!勝手にモテ講座開くなアホ!」



(はあ...でも)

頭の中、本当に冷静になったみたいだ。

ムカつくけど単純なオレには、やはり央二のような弟が必要なのかもしれない。

耐性のないオレは「可愛い」とか少し優しくされるだけで勘違いしてしまうのだから。

困惑の中に確かにあったフワフワした感情が、シュルシュルと音をたてて萎んで行くのを感じた。

(もう少しで変な勘違いをするところだったな)


だけど有馬は本当に良いやつだった。仲良くなれるものなら仲良くしたい。

傘のお礼、しないとな。


「よしっ、央二!暇ならお兄ちゃんとコンビニ行こう!」

「なに?一花の奢り?」

「...欲しい物1個だけな」

「じゃあ肉まんピザまんかれーまんね」

「1個だって言ってんじゃん!」






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