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週末でどこまで歩み寄れるか 1
浴室から、なんとか無理やり、天羽を絢佳は追い出した。
最初は、自分の方が逃げ出そうとしたのだけれど、完全に遊んでいるかのように軽々と連れ戻される。
であれば、追い出して鍵のかかる浴室に引きこもるしかない、と。
とはいえ、着替えないんだよなぁ、と風呂に入るのを逡巡していると、外から呆れた声がかかる。もはや帰らせてもらうという選択肢は、今日のところは諦めた。まさかの、ほぼ初対面にして外堀を一瞬で埋められるとか、意味不明すぎる。
「出たらそこにあるバスローブ、羽織ってろ」
先ほどまでの攻防の間に、絢佳が着ていたもの一式、既に洗濯に回されていて。
とにかく、もう、さっさとお風呂を済ませよう!ひと様のおうちで、長風呂とかあり得ないし。
石鹸類は、使わせてもらおうと手を伸ばせば、少し心が落ち着いた。香りが強いのは苦手なのだけれど、男性だからか、きつい香りもせず、心地よい香りで。
そして、烏の行水でも一応は、と、広すぎる湯船に身を浸して、不覚にも感動した。
前進、無駄毛処理をされたというのに、ヒリヒリも何もしないなんて。温泉に泊まりに行くとか、誰かの結婚式があるからとりあえずとか、必要に迫られて自分でやると、しばらく痛いのに。原因は分かっているのだけれど。
そしてこれまた、手触りの良いバスローブを羽織ってそろそろとドアを開け、覗くように伺おうとすれば、外側からぐいっと扉が引き開けられてしまった。
「わっ」
「…大胆だな」
扉に引きずられてバランスを崩せば、原因を作った男に向かってつんのめるようになってしまい。悔しいほどに均整のとれた体に抱き留められて皮肉を言われても、もう、言葉を返す元気もない。
「なんで髪、乾かしてないんだ。出してあっただろ」
「…いや、早く出ないと、と」
「何、早く出てオレの顔を見たかった?」
「…脳みそ、腐ってます?」
「オレもそう思う」
くつくつと笑いながら、天羽は手に持っていた紙袋を絢佳に寄越した。
「へ?」
「下着」
「は!?」
平然と言われて聞き返すけれど、そんな絢佳の方がおかしいと言わんばかりの顔で見返される。
「すぐそこで買ってきた。オレは、そのままで一向にかまわんけどな」
にやり、と言われれば、慌てて絢佳は背後の脱衣室にとって返し、紙袋を除いた。
可愛い、ショーツ。なぜ下だけ?と思うけれど。それだけでもありがたい。もう、落ち着かなくて仕方ない。
値札とか、全部外してあるし、と思いながら履こうとすると、閉めたはずの扉を遠慮なく開け放たれる。
「おい、まだか」
「せっかちっ!」
慌ててしゃがみ込み、それでも背に腹は変えられず、不器用にようやく下着をつければ、腕を引いて立ち上がらされた。
当たり前のように、リビングに連れて行かれて、抱え込むように座らされる。抵抗をものともしないこの手慣れた感が、腹立たしい。
腹立たしかったのだが。
背後からドライヤーで髪を乾かし始める天羽の指が心地良くて、つい目を細めてしまう。
サイドの髪に触れながらそんな表情に気づいた天羽は、つい楽しくなってしまう。今まで、女の世話をするなんて考えたこともなかったけれど。手がかかるのに、面白い。素直じゃない動物でも飼っているみたいだ。
しっかりと乾かしてから、今度はその手に化粧水を落とし、自分の体温で温めてから絢佳の顔に触れた。
驚いた顔をする絢佳を視線で黙らせ、手入れをしてやる。
「…なんでこんなことまで知ってるんですか。普段わたし、何もしないんですけど」
「何もしないとか…よし、分かった。これを毎晩やって欲しいってことだな」
「なぜ!?いや、それなら自分で」
「ちょっと黙れ?」
慌てる絢佳を黙らせて、顔のスキンケアが終わったら、今度はボディクリームを手に取る。本人に確認は取っていないが、万が一肌が弱かった場合に困らないように、肌が弱くても問題がないと言われたものを買ってきていた。
「やめてくださいほんと。恥ずかしすぎる」
「肌に刃を当てたんだぞ?大人しくしてろ」
嘘でしょう??と、今日何度目かの言葉を胸の内で叫びながら、羞恥で絢佳は目のやり場もない。
天羽が、ようやく満足するまでにゆうに30分以上。
満足げに天羽がうなずき、じゃあ、と自分も浴室に入ろうとしたところで、天羽のスマホが鳴る。
相手を見て、舌打ちをしながら出た天羽が、短く答えて電話を切った。
「仕事の呼び出しだ。お前は寝てろ」
「え、いやいや。一緒に部屋を出て帰りますって」
「……」
天羽の目が不穏に細められ、大股で絢佳に近づくと、有無を言わせずに肩に担ぎ上げた。
「うっわ…??」
無言で歩く天羽が怖い。
奥の扉を開ければ、どこのホテルですか?ってくらいの大きなベッドがあって。
そこにぞんざいに放り投げられる。
身を起こして逃げようとするのを、当たり前のように押さえつけられて、乱暴に唇を奪われる。
「寝てろ、って、聞こえなかったか?大体お前、出ていける格好じゃないだろう?」
その通りなのだが、何か、安いシャツとか…なさそうな家ですよね、と目を逸らす。
「オレは急いで行かないといけないから、お前の支度を待つ時間はない」
「は…なら。どうぞ、いってらっしゃい」
「ほう、さっさと行け、と」
「あは」
触れるほどの至近距離で、天羽は釘を刺していく。
「お前、鍵かけられないんだから、出ていくなよ?よかったな。明日は土曜日だ」
最初は、自分の方が逃げ出そうとしたのだけれど、完全に遊んでいるかのように軽々と連れ戻される。
であれば、追い出して鍵のかかる浴室に引きこもるしかない、と。
とはいえ、着替えないんだよなぁ、と風呂に入るのを逡巡していると、外から呆れた声がかかる。もはや帰らせてもらうという選択肢は、今日のところは諦めた。まさかの、ほぼ初対面にして外堀を一瞬で埋められるとか、意味不明すぎる。
「出たらそこにあるバスローブ、羽織ってろ」
先ほどまでの攻防の間に、絢佳が着ていたもの一式、既に洗濯に回されていて。
とにかく、もう、さっさとお風呂を済ませよう!ひと様のおうちで、長風呂とかあり得ないし。
石鹸類は、使わせてもらおうと手を伸ばせば、少し心が落ち着いた。香りが強いのは苦手なのだけれど、男性だからか、きつい香りもせず、心地よい香りで。
そして、烏の行水でも一応は、と、広すぎる湯船に身を浸して、不覚にも感動した。
前進、無駄毛処理をされたというのに、ヒリヒリも何もしないなんて。温泉に泊まりに行くとか、誰かの結婚式があるからとりあえずとか、必要に迫られて自分でやると、しばらく痛いのに。原因は分かっているのだけれど。
そしてこれまた、手触りの良いバスローブを羽織ってそろそろとドアを開け、覗くように伺おうとすれば、外側からぐいっと扉が引き開けられてしまった。
「わっ」
「…大胆だな」
扉に引きずられてバランスを崩せば、原因を作った男に向かってつんのめるようになってしまい。悔しいほどに均整のとれた体に抱き留められて皮肉を言われても、もう、言葉を返す元気もない。
「なんで髪、乾かしてないんだ。出してあっただろ」
「…いや、早く出ないと、と」
「何、早く出てオレの顔を見たかった?」
「…脳みそ、腐ってます?」
「オレもそう思う」
くつくつと笑いながら、天羽は手に持っていた紙袋を絢佳に寄越した。
「へ?」
「下着」
「は!?」
平然と言われて聞き返すけれど、そんな絢佳の方がおかしいと言わんばかりの顔で見返される。
「すぐそこで買ってきた。オレは、そのままで一向にかまわんけどな」
にやり、と言われれば、慌てて絢佳は背後の脱衣室にとって返し、紙袋を除いた。
可愛い、ショーツ。なぜ下だけ?と思うけれど。それだけでもありがたい。もう、落ち着かなくて仕方ない。
値札とか、全部外してあるし、と思いながら履こうとすると、閉めたはずの扉を遠慮なく開け放たれる。
「おい、まだか」
「せっかちっ!」
慌ててしゃがみ込み、それでも背に腹は変えられず、不器用にようやく下着をつければ、腕を引いて立ち上がらされた。
当たり前のように、リビングに連れて行かれて、抱え込むように座らされる。抵抗をものともしないこの手慣れた感が、腹立たしい。
腹立たしかったのだが。
背後からドライヤーで髪を乾かし始める天羽の指が心地良くて、つい目を細めてしまう。
サイドの髪に触れながらそんな表情に気づいた天羽は、つい楽しくなってしまう。今まで、女の世話をするなんて考えたこともなかったけれど。手がかかるのに、面白い。素直じゃない動物でも飼っているみたいだ。
しっかりと乾かしてから、今度はその手に化粧水を落とし、自分の体温で温めてから絢佳の顔に触れた。
驚いた顔をする絢佳を視線で黙らせ、手入れをしてやる。
「…なんでこんなことまで知ってるんですか。普段わたし、何もしないんですけど」
「何もしないとか…よし、分かった。これを毎晩やって欲しいってことだな」
「なぜ!?いや、それなら自分で」
「ちょっと黙れ?」
慌てる絢佳を黙らせて、顔のスキンケアが終わったら、今度はボディクリームを手に取る。本人に確認は取っていないが、万が一肌が弱かった場合に困らないように、肌が弱くても問題がないと言われたものを買ってきていた。
「やめてくださいほんと。恥ずかしすぎる」
「肌に刃を当てたんだぞ?大人しくしてろ」
嘘でしょう??と、今日何度目かの言葉を胸の内で叫びながら、羞恥で絢佳は目のやり場もない。
天羽が、ようやく満足するまでにゆうに30分以上。
満足げに天羽がうなずき、じゃあ、と自分も浴室に入ろうとしたところで、天羽のスマホが鳴る。
相手を見て、舌打ちをしながら出た天羽が、短く答えて電話を切った。
「仕事の呼び出しだ。お前は寝てろ」
「え、いやいや。一緒に部屋を出て帰りますって」
「……」
天羽の目が不穏に細められ、大股で絢佳に近づくと、有無を言わせずに肩に担ぎ上げた。
「うっわ…??」
無言で歩く天羽が怖い。
奥の扉を開ければ、どこのホテルですか?ってくらいの大きなベッドがあって。
そこにぞんざいに放り投げられる。
身を起こして逃げようとするのを、当たり前のように押さえつけられて、乱暴に唇を奪われる。
「寝てろ、って、聞こえなかったか?大体お前、出ていける格好じゃないだろう?」
その通りなのだが、何か、安いシャツとか…なさそうな家ですよね、と目を逸らす。
「オレは急いで行かないといけないから、お前の支度を待つ時間はない」
「は…なら。どうぞ、いってらっしゃい」
「ほう、さっさと行け、と」
「あは」
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「お前、鍵かけられないんだから、出ていくなよ?よかったな。明日は土曜日だ」
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