溺婚

明日葉

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王様はお怒りです 1

 ものすごく不機嫌な天羽を宥めすかすでも何をするでもなく。
 けろっとした顔で、絢佳は見上げる。

「じゃあ、会場戻りましょう。とーや、主役でしょ?聞いてなかったけど」


 聞いてなかった、と、さらっとちくっと言ってみたけれど、そこではないところに反応したようで不満げな顔をされる。

「戻る?」

「戻る」

 うん、と頷いて返せば、聞いていた剣城が耐えかねたように笑い出した。


 別口で戻って、遠目に愛でてる、と、絢佳には意味不明なことを言って、なおも笑って去っていく男前な女の人の後ろ姿を目で追っていれば、おい、と、天羽の低い声が降ってくる。


「もう、休んでいいんだぞ。この状況でお前に何か言える人間なんて、いないんだ」
「?側にいるんでしょ?」

 きょとん、と返され、こんな状況なのに天羽は悶えそうになる。絶妙に噛み合わない感じが、苛々するのに面白い。わざと外されているような気がする。


 と思って、目を細める。


 わざと?と。



 しっかりと抱え込んだ天羽の腕の中で、絢佳はちょいちょいと浅葱を手招きしている。
 何やら言いたげな顔で、それでも近づいた浅葱の袖口をきゅ、と握って、絢佳は見比べるように大柄な男2人を見上げた。


「今日も、両手に花だわ」


 ほくほくとした顔に脱力しそうになりながら、天羽の気を逸らすためにわざとやっていると確信を深めて、浅黄の袖口を握る手を掴み上げる。なぜか、浅葱や綾部相手なら良いと思っているようだが、いいわけがない。




「あんなので引っ込んでたら、いつまで経っても同じこと繰り返すよ?ちゃんと会場に戻って、やることやって、頃合い見て、下がるのが良いと思うの」



 手元から浅黄の袖口を奪われたことを不満げに、一瞬口を尖らせながら絢佳はけろりとそんなことをいう。


 そう言えば、気の強い女だったと。
 ただ、怖くないわけではないのは、抱えているからこそ、手を取り上げたからこそわかる。微かに震えているのに、微塵も感じさせない眼差しに、負けた、と思う。


 見下ろして目が合えば、こんなに頼もしい人が2人もついているんだからと、とてもいい笑顔で言われれば…腹が立つ。なんで、と言われそうだけれど。自分だけで十分だと言いたいのに。
 気づかぬ絢佳は、もうこんなことしないから、と浅葱に謝っている。気にしない浅葱はまた手を伸ばして絢佳の髪を撫でていて。


 遠ざけるように絢佳を抱え直しながら、天羽は不敵に笑った。



「離れるなよ」













 会場に戻ると、最初に入った時とはまた違う注目を浴びる。
 しっかりと絢佳の腰を抱えた天羽。天羽の腕に絢佳が手を添える形だと、絢佳の意思でまたフラフラと離れかねないからと却下された。
 そして、絶妙な距離で歩く浅葱はまるで、そのたくましい風貌も相まって護衛しているようにも見えて。実際そうなのだけれど。




 探るような、怯えた目をしている人たちは、天羽を足止めしていたという人たちか。それとも何が起きたかを耳にしていて、こんな場に居合わせて巻き込まれたことを恐れる人たちか。
 苛烈な男が何もなかったように、愛おしげに妻を引き寄せてこの場をぶち壊しにすることもなく参加し続けることを、かえって恐ろしいものを見るように直視できずに横目で居場所を確認し続ける。



 そうこうする間に。
 会場から、そんな怯えたものたちが次第に消えていく。頃合いを見計って場を辞したのか。



 閉会になる頃には、絢佳を実際、その後一瞬たりとも僅かなりとも離さなかった王様は、ようやく本性を見せるように吐き捨てた。




 さっさとこうしていればよかった、と。




 こうするための材料がなかったのだけれど、いくらでもそんなもの、作れるのだから。






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