ヒュゲリ

明日葉

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 凪瑚には高いキッチンで、時折鼻を啜る音がする。片付けはする、と言う凪瑚に任せて、琥太狼はソファで凪瑚が預けてくれたスマホのデータを見ていく。
 凪瑚が残したい、というデータは、多分、この凪瑚の親友、紬と琥太狼が一度だけ会ったその前後くらいから始まっている。
「写真も見ていい?」
「うん」
 躊躇いなく答える凪瑚に苦笑いする。見られて困るものはない、という様子。実際、彼女にとってはそうなのだろう。食べ物の写真や、犬や猫の写真。よく写っている犬は、実家ででも飼っているのか。そして、シャープな印象の中性的なとはいえ、明らかに女性、と思える人が、おそらく紬。最初出てきた時は、わずかに記憶に残る人とは随分人相が違い、胸がざわついた。病気で亡くなったと聞いたが、これほど容貌が変わったのか、と。自分の記憶が曖昧だからではないだろう。
 写真の中には、この間まで凪瑚の恋人だった男の写真もあって、それは楽しそうに笑っていたり、写真を撮ろうとされていることに気づいていない様子だったり。少し、どころではなくざわつきながらトーク画面に戻って、2人でやりとりしたアルバムに気づいてそちらだけにする。
 いつの間に洗い物が終わったのか、凪瑚が手元を覗き込んでいて琥太狼は顔を上げた。
「凪瑚、このさ」
 トーク画面を示そうとして、見れる?と一度確認をした。予想外に柔らかい顔で頷かれてほっとする。
「1人じゃないと、大丈夫な気がする」
 そんな言葉に思わず腕を伸ばして凪瑚を自分の足の間に座らせながら、凪瑚のスマホの画面を操作した。
 凪瑚たちのやりとりの、最後の方。
「これは?」



 僕が撮った動画のデータは、全部まとめてあるから。佳都と奏真に必要だったら見せて。必要なければ、なーが持っててよ(笑)



「ああ」
 琥太狼の腕の中で緊張したように体を固くしながら、凪瑚はその画面に目を落とす。慣れない密着に緊張はするのに、体温とか抱き込まれた狭さとか、心音とか、色々なものが心地よくて安心もする。
「けいちゃんがお腹にいる頃からかな。むぎ君、面白がってよく、動画を撮ってたんです。面白がって、というか…む」
「凪瑚、なんで敬語」
「あれ…えっと」
「まあいいや、続き」
 ペナルティ、と軽くキスをすると、気づいていなかったのか面食らった顔をする。緊張していたのと、話の記憶に強張っていた様子が少しほぐれるのを触れる腕から感じながら、琥太狼は凪瑚のスマホを一度テーブルに置く。
「むぎ君、時々どうしようもなく自分の状況を受け止めきれない時とかがあって。いつもわたしがその場にいるわけじゃないから、動画撮っておいて必要な時は見る、ていうのが最初だったと思う。でも途中から、チビたちが大きくなった時に見せてやるって記録みたいになってたな」
「病気のことがあったから?」
「病気のことは、本当に、ぎりぎりまで分からなかったよ。そうちゃん産まれてからわかったの。自覚症状あったはずなのに、他の何かだと思い込んでいて。だから、そっから早かった。撮っててよかったね、なんて、話にはなったけど」
「そうか」
 それも、見てよければ見せてな、と凪瑚の腰に腕を回してぎゅう、と抱き締めながら、琥太狼が言うと、凪瑚が頷く。


「あー、だめ。限界」
「え?」
 聞き返そうとする凪瑚の動きと同時に、琥太狼の手が動いた。服の裾から忍びこみ、もう片方は凪瑚のパンツのホックを器用にはずす。軽い舌打ちに凪瑚は慌てて琥太狼の手を押し留めようとする動きが止まる。
「お前、またこれ履いてる」
「落ち着かないんだってば、ないと。というか、ちょ」
「ずーっとおあずけて会ってもくれないって、もう、限界」
 引き寄せられている腰が、硬いものに当たって凪瑚が固まる。
「凪瑚、このデータ、俺に任せて。こっちに保管してから手元に残せるように作業するから」
「ん…それはもちろん、頼めたらありがたいんだけど。こたろ、くん…んんっ」
 胸の頂を弾かれて、耐えるように凪瑚が背中を丸める。その拍子に、琥太狼の屹立にちょうど尾てい骨の骨のあたりを擦り寄せるようになり、琥太狼が息を呑んで凪瑚を引き寄せる腕に力がこもる。
 性急にパンツを引き抜いて、先ほど舌打ちした着圧スパッツも引き抜く。もどかしげに下着に指を忍ばせて、ぐちゅ、という粘度のある湿り気に熱く息を吐いて耳を喰んだ。
「凪瑚、期待してた?」
「んんっ」
 むずかるように反応する凪瑚に低く笑って、なぞるように指を這わせる。時折くすぐるように指を立てられて、凪瑚はしがみつくものを探すように手を彷徨わせ、ソファのクッションを掴んだ。座っていられないように力が抜ける凪瑚が落ちないように凪瑚を抱き上げ直し、向き合わせながら唇を重ねた。
 上顎を舌でなぞりながら、凪瑚の手が縋り付くクッションを奪い取る。無機物でも、凪瑚が頼る先が自分じゃないのは許せない。
「ごめん、我慢できない。あと、クッションじゃなくて、捕まるなら俺」
 低く途切れ途切れに言われて、凪瑚はただとにかく頷くしかない。頭が回っていないから、しがみつくクッションを奪われて手近な琥太狼の首にしがみついて首筋にこめかみを擦り寄せてこらえる。
 それでブル、と震えをやり過ごした琥太狼は、そのまま立ち上がった。不安定さに驚きながらさらにしがみつく凪瑚は、すーすーする下肢の間から琥太狼の手がさらないことへの羞恥から逃げようと腰を揺らすけれど、逆にそれが強請っているように見えてしまう。
 片腕は背中に回して凪瑚を支えているけれど、逃げようとすれば自重で琥太狼の指が入ってくる。その刺激に、ひん、と鼻を鳴らして、逃げ場がない凪瑚は、足も琥太狼に絡めてしがみつくことで自分の体を支える。
 甘えるような様子に琥太狼はジーンズの中で痛いほどに主張する自身を宥めながら、大股に寝室に凪瑚を連れこんだ。




 凪瑚をベッドに下ろしながら服を脱がせ、自分も琥太狼は服を脱ぐ。
 割れた腹筋と、厚い胸板。見事な造形美に目のやり場を求めて凪瑚が目を泳がせるのを、琥太狼は大きな手をその頬に当てて自分の方に向けさせ、そのまま唇を重ねる。
 柔らかいそれに触れるだけでも高揚する。それなのに、その熱の中を蹂躙せずにはいられない。
「凪瑚…なこ」
 凪瑚の手を掴んで、その手を自分の屹立に誘導する。触れた細い指先がぴくり、と反射的に遠のきかけるのをそっと止めると、おずおずとその指先が触れてくる。
 目を泳がせる凪瑚の表情を伺うと、嫌悪感はなく、どちらかというと好奇心で。
 ただ、そちらに視線を向ける勇気はまだ出ないらしい。それはまた、と思いながら、凪瑚の手を誘導して握らせる。自分が興奮して固さと大きさを増した自覚はある。
 驚いたように息をのむ凪瑚が、それでも、好奇心に負けてその形を辿る指先がもどかしい。強く握って、擦ってほしい。そう思っていたところで、不意打ちのようにその細い指先が先端を甘く引っ掻いた。
「くっ…こら」
「ごめ、痛い?」
 驚いたように手を引く凪瑚の体を抱きしめてやり過ごしながら、我ながら余裕がなさすぎると思いながら凪瑚の蜜壺に指をまた埋める。硬いそこをほぐして、凪瑚が恥じらうくらいに水音を立てると、凪瑚が両足を擦り合わせるように動かすから腕が挟まれてしまう。
「なこ、それは動けない」
「ん…でも」
「うん。凪瑚、ごめん、余裕ないや。痛かったら、言って」
 ず、と先端を当てて押し進める。苦しげではあるけれど、痛そうではない。そう思いながら、息を吐いてやり過ごしながら進めていく。
 また、枕に縋ろうとする凪瑚の腕を、自分の腕で邪魔をしてそこにつかまらせた。ぎゅう、としがみついた凪瑚が、甘えるようにそこに頬を擦り寄せるから、その仕草で、ずくん、と血液が集まる。
 声もなく息を吐き出す凪瑚の下腹に、凪瑚がつかんでいない手を当てる。
「凪瑚、わかる?ここに入ってる」
「言わ…ないで…んんっは」
 きゅん、と締まり、蠕動するようにナカが蠢く。馴染んできたそんな動きに、我慢できずに琥太狼の腰が揺れて凪瑚が揺すれる。
「凪瑚。きもちイ?」
「わかんな…」
 気持ちよさそうな声に、琥太狼は低く笑う。わからない、のは、凪瑚の経験の低さ。恥じらいや理性の壁を突き破れずに身を任せずにきっと、今まで身を委ねたことがない甘さ。
「なーこ」
 耳を甘噛みしながら声を流し込むと、ナカが締まる。少し意地悪するように、きっとまだ中だけでは気持ち良くなりきれない凪瑚のそこは擦らないようにする。でもきっと、そんな違いもこの溜まっていく熱の発散の仕方も知らない。
「気持ちいいって、言って?」
「んーん」
 いやいやをするように首を振るけれど、その動きが結局凪瑚が抱えた腕と手のひらに擦り寄っているような動きになる。
「凪瑚、言ってみて。これが、気持ちいい、だよ。声に出すと、ちゃんとわかるから」
 甘やかすように、誘うように耳に声を流し込むと、泣きそうな声で凪瑚が息を吸っている。
 葛藤を甘やかすように、胸や凪瑚の前や、微妙にずらして撫でてやわやわと揺する。正直、自分もきつい。

「き…」

 やっと、小さな声が音を作る。


 気持ち…きもちい



 こたろくん


 大きな手の中で、頬をすり寄せて、やっと細く言った声の湿り気と熱が、手のひらに当たる。
 ぐ、と奥まで入って、ぎゅうと抱きしめて焦らしていた部分を全身で刺激してやる。

 びくん、と跳ねようとする背中を強く抱え込んで、大きく腰をグラインドさせた。手加減しないと、と思う頭の片隅の声に従おうとするのに、難しくて。
 しかも、それを許すように凪瑚の腕が琥太狼の首に縋るようにしがみついた。






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