天界へ行ったら天使とお仕事する事になりました

mana.

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出会い〜天上界へ

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___瑠佳ルカ……笑って…よ…___


そう言って、俺の大切な幼馴染イツキはこの世を去った。
おばさんはずっと自分を責めていた。
1年目は泣いて暮らし、3年目はふとした時に泣き7年目は昔を思い出して泣く。
完全に笑って過ごす日はない。
命日には必ず顔を出した。何となく自分の不甲斐なさを払拭したかったのか言い訳なのか分からない。
小学生の頃からサッカーが得意だった樹は、中学では当然サッカー部に所属した。
1年ですぐにレギュラー入が決まり、人に好かれる樹を妬む者は誰もいなかったのだが…

最初の試合の後に樹は倒れた。

この命日だけは出来る限り通っておばさんと仏壇の前で線香をあげ、幼馴染の写真を見ながら昔の話をする。
命日に通う友達は3年で俺だけになり、10年が過ぎた頃…おばさんは「もう、大丈夫。」と言った。
おばさんは俺にスマホの中にある1枚の写真を見せた。
「あの子の成長の代わりにね…樹を植えたの。あの子と同じ『樹』…イツキは…こんなヒョロヒョロした子だったわよね。でも…中学に入ってから少し逞しくなって楽しみだったけど…あっと言う間だった。代わりではないけど…ほら、見て…この樹をあの子の代わりとして一生懸命育てるわ。」

今のお墓事情は親の時代よりバリエーションが多いらしい。樹の下に納骨するという形もあるらしく、家にいたイツキの骨壷は移動して今はそこで眠っているそうだ。
おばさんは愛おしそうにスマホの待受に映る、笑顔の樹を撫でていた。

「ゴメン、おばさん…何も出来なくて…」

見てるだけしか出来なかった。

「ううん、良いのよ。」

小さな頃からずっと一緒にいたのに、樹の異変に気付かなかった。

「隠すのが上手な子だったもの。」

サインを見逃したんだろうか?
10年経った今も分からない。
倒れて救急車で病院へ運ばれ、検査をしたら小児癌と分かったのだ。
今考えると関節が痛いとたまに話していたのは成長痛と思っていたが…それなのか…たまに朝に顔色が悪かったのはレギュラーのプレッシャーではなく病気の初期サインだったのか…

「それより、瑠佳くん顔色が悪いわ。貴方はもうウチの子のようなものよ。お母さんはお父さんの転勤で一緒に行ったし、今は近くに頼れる人がいないでしょ?私達が第2の家族として、いつでも来てちょうだいね。」

俺が大学進学と共に地方へ転勤になった父に、丁度独り暮らしを始めたタイミングもあって母は父に付いていった。

「うん。おばさん、ありがとう。」

幼稚園の頃からお世話になってるおばさんが玄関まで見送ってくれる。
ニッコリ笑う姿に樹の笑顔が蘇った。


___瑠佳…好き…なんだ___


中学1年の夏休み、樹の部屋で告白された。
そして病気が分かってから…2人きりになった病室で、恋人のキスなんて分からなくて何となくやってみた。
フニフニして…ちょっと唇がカサカサで…キラキラした雰囲気じゃなかったけど、俺達はそれで満足した。
俺は樹が好きだった。
キスしても嫌じゃなかった。
でも…それ以上の経験は先に進むことはなかった。

……それを知る前に樹がいなくなったから……


___パァァァンッ!___


「危ないっ!」

「わぁっ!」

法事の帰り道。
横断歩道でどうやら俺は赤信号で渡りそうになってたらしい。

「…あっ…すみません…!」

「危ないじゃないかっ。君、死んでたよ!」

「ほんと…すみません…」

引き寄せて助けてくれた人は、俺より大きくて…良い匂いがする男の人。

「…っ…」

「すまない、急だったから…どこか痛めたか?」

「…いえ……」

心配してオロオロしながら俺を見てるこの男の人は…金髪で瞳の色も違うけど、大人になったらこんな人になりたいと聞いていた樹の理想そのものだった。
サッカーでゴールキーパーをしていた樹は、筋トレも『将来ムッキムキになるからな!』と毎日頑張っていた。
スーツ越しに感じる強い身体。
病室でどんどん痩せ衰える樹の……こうなりたいと思っていた姿だ。

「本当にすまない、俺は普通の人よりちょっと力が強いから恐がらせてしまったな。」

「大丈夫です。俺も考え事して歩いてたのがいけないんで…あの…助かりました。」

「そうか?君が無事で良かったよ。」

ニッコリと笑う顔が、おばさんの笑顔と重なる。

「…っ…」

「どうした、本当に大丈夫か⁈」

「…えっ……?」

気が付くと俺は泣いていた。
そして、涙が止まらない。

おばさんじゃない…樹の…笑顔だ…

「……っ…ふっ…」

樹に似た男の人は俺の肩に手を置くと「知り合いの店がこの近くにある、そこへ行こう」と、俺の歩くペースに合わせながら店へと誘導してくれた。

___チリンチリン…___

「いらっしゃいま……あら、どうしたの?」

「すまない。ちょっとこの子を休ませてくれ。」

「どうしたのよ、こんな可愛い子……っ…アンタッ…攫ってきたの?」

「そんな訳ないだろ?車に轢かれそうな所を俺が引き寄せたんだ。多分…力が強過ぎて気分悪くなったかもしれない。」

「あ~…アンタ、馬鹿力だもんねぇ。良いわ、オネェさんが助けてあげる♡」

「…お兄さんだろ?」

「失礼しちゃうわねぇ、オネェっつ~てんだろうがよっ!」

あれ?この人、めちゃくちゃ綺麗なのに…声が低い。

「あら、目が合ったわね♡こんにちわ、怪しいもんじゃないのよぉ。」

十分怪しいです。

「あ、涙は止まったようだね。君、コーヒーは飲める?」

「飲めます。」

いくつだと思ってるんだろう?

「じゃぁ、俺はグアテマラを。君は…」

「同じので良いです。」

コーヒーの種類なんて分からないし。

「そうか、良い豆が入ってるからそちらでも良いとは思うが。」

「いえっ…俺はよく分からないし。」

「もぅ、この子落ち着かせるために来たんでしょ?何追い詰めてんのよっ!良いわ、じゃぁ貴方に合いそうなコーヒーにしてあげるわね。」

カウンター越しで楽しそうにオネェさんがコーヒーを淹れてくれた。

「私はネル。みんなは『ネル姉さん』って呼ぶわ。」

「ネル…姉さん…?」

「いやんっ♡可~愛~い~い~っ!」

カウンター越しに引き寄せられて抱きしめられると柔らかいものが当たる。

あれ…これ……

「んぷ…っ…あっ…ごめんなさ…っ!」

「やめろ、この子が汚れるっ!」

「酷いわねっ、汚れないわよっっ!母性の愛でしょ⁈」

「お前のは母性じゃないだろ!すまないっ、大丈夫か⁈」

ネル姉さんから慌てて剥がされる。
フフッ、この人も面白い人かも。

「大丈夫です。あ…俺は瑠佳ルカって言います……えっと…貴方は…」

「ルカ…光をもたらす者…か……良い名だな。俺は、アルエル。アルと呼んでくれ。君の事はルカと呼んでも?」

「えぇ、どうぞ。」

「あっ、アンタ…っ!」

「どうかしましたか?」

「いえ…何でもないの…はい、コーヒーお待たせ。」

少しネル姉さんが動揺してた気もするけど…出してくれたコーヒーはとても美味しかった。
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