舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

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第72話 蓮の過去①出会い

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「で、蓮は何があったの?」
「あ、いや……えっと」

とたんに蓮の歯切れが悪くなった。

「……ねえ、たくさん喋って喉乾いたから上行かない?」
「あ、ああ」

下っ端達を残し、葵は蓮と共に幹部部屋へ向かった。

「ありがとな……」
「え、何が?」
「俺を止めてくれて、ありがとう。あと、あいつらの前じゃ話にくかったから……」

蓮はソファーの前に立つと、対面に座る葵に頭を下げた。

「え? あたしはただ喉乾いただけだよ。で、何があったの?」
「……葵の家族ってどんな?」

ソファーに腰掛けた蓮は眉を寄せると真剣な顔をする。

「え、あたしの? そうだな……親の言う通りにしなかったから、ほぼ縁切った感じかな? 唯一おじいちゃんだけがあたしの味方かな?」
「……味方がいるのはいいよな。俺はいなくなった」

蓮はそう言うと影を落とした。

「いなくなった?」
「ああ。俺も親と縁切ってて、兄貴だけが唯一味方だったんだよ。……っ! けど、それが……」

蓮は口を真一文に結び、膝に置かれた拳はきつく握りしめられていた。

「え、杏佳さんは?」
「あいつは結婚したから味方じゃない。兄貴も……結婚したから……」
「味方じゃなくなった?」
「ああ」

それから蓮は話し始めた。

♢♢♢

── 3年前。

スイと蓮ちょっといいか」

部屋に居た睡と蓮に父はリビングから声を上げる。

睡は蓮の4歳離れた兄だ。

姉の杏佳は家を出ている為、この場にはいなかった。

2人がリビングに行くと、そこには父の他に女性がいた。

目鼻立ちがハッキリとした綺麗な女性だった。

2人と目が合った女性は軽く会釈をする。

ひとつに束ねた長い髪の毛が揺れる。

「父さん、その人は?」

睡は父が口を開く前に問いかけた。

その顔は蓮の目元にそっくりだった。

「ああ。紹介が遅くなったな。彼女とは結婚を前提にお付き合いしていてな、2人にも紹介しようと思って連れてきたんだ。お前たちのお母さんになる人だ」
「やだっ! なんで……なんでっ! 母ちゃんは………母ちゃんだけだもん!」

蓮は声を上げると足早に部屋へ向かった。

彼女と目を合わせることなく。

「(なんで……父さんは母ちゃんのこと嫌いになったの……? 新しいお母さんなんていらない)」

蓮はドアを背にしゃがみ込んだ。

その瞳には涙を浮かべていた。

蓮の母親は 4年前、病気で他界している。

蓮は母によく懐いており、なんでも話せる友達のような存在だった。

学校から帰ってきた蓮が台所で倒れている母を発見した。

救急車で病院に向かうも母の意識が戻ることはなかった──

「蓮、大丈夫か?」
「……兄ちゃん」

睡の声が聞こえた蓮は恐る恐る部屋のドアを開けた。

「入っていいか?」
「うん……」

睡は蓮の部屋に入るとドアを閉めた。

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