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26話。御用商人を手に入れて食料問題を解決する
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「ややっ、黒死病で全滅寸前だと聞いていた街が復興しているワン! 驚きですワン!」
「しかも、騎士団長が留守なのに魔獣の群れを撃退しちゃうなんて、すごい軍事力だワン!」
おそるおそる幌付きの荷馬車から降りてきたのは、僕の腰くらいの背丈の犬型獣人たちだった。
彼らは警戒心と興味が混ざったような顔で、あたりをキョロキョロと見回している。
「ご領主様、紹介いたします。イヌイヌ族の行商人たちです!」
「お初にお目にかかります。僕はベオグラードの領主、マイス・ウィンザーです」
騎士団長に紹介されたので、僕から先にあいさつした。
「こ、これは、ごていねいにマイス・ウィンザー様。ボクたちはイヌイヌ族の商人ですワン! お目にかかれて光栄ですワン!」
イヌイヌ族たちは恐縮したようにお辞儀した。
「この神々しい聖獣ユニコーンとエリクサーを錬成されたと聞いて、ぜひマイス様と取引させていただきたく、やってきましたワン!」
「それはありがとうございます。今、ベオグラードは復興の真っ最中で、物資が不足しているため助かります」
「こちらこそ、お会いできてうれしいですワン! マイス様はベオグラードまで聖獣ユニコーンに乗って旅をされたとお聞きしました。マイス様が立ち寄れた街では、マイス様のお噂でもちきりになっておりますワン!」
それは知らなかった。聖獣ユニコーンはイヌイヌ族たちの信用を勝ち取るために役立ってくれたようだ。
ユニコーンは誇らしげにいなないた。
「犬獣人ですか……?」
ティニーが警戒した目つきになる。街を襲った獣人との関連を疑ったのだろう。
「大丈夫だ、ティニー。彼らはイヌイヌ族といって、人間と友好的な種族なんだ。それに正直者なことで有名で、うれしいと無意識に尻尾を振ってしまうんだ。ほらね」
「あっ、ホントです。かわいいです」
二頭身のイヌイヌ族たちが尻尾を振っているのを見て、ティニーが相好を崩した。妹はかわいいモノに目が無いのだ。
「兄様は博識ですね。私の配下にはいない種族だったので、知りませんでした」
「さっそくですが、マイス様はエリクサーを錬成して、領地を救われたとお聞きしましたワン! ぜひ、ボクたちにエリクサーを売っていただきたいですワン!」
「お願いしますワン!」
イヌイヌ族たちが一斉に頭を下げてくる。
エリクサーの在庫は心許ないので、どう返事するべきか一瞬考えた。
「こちらの美しいお嬢様は、妹君ですかワン? お近づきの印に、王都で流行している焼き菓子を献上いたしますワン!」
「兄様、売ってあげましょう。かわいい子たちの頼みです」
お菓子の入った箱を受け取ったティニーは、さっそく籠絡されていた。
この商人たちは、やり手のようだ。
「そうですね。では、この荷馬車いっぱいの牛肉と、エリクサー一本を交換ではいかがでしょうか?」
食料問題の解決は、領民の命がかかった真剣勝負だ。
僕はまず、かなり強気に出ることにした。
交渉は断られてからが、本番だ。
僕は固唾を呑んで、相手の出方をうかがう。
「……へぇ? そんな破格の条件でエリクサーを譲っていただけるのですか、ワン!?」
「し、信じられない安さだ、ワン! ありがとうございますワン!」
「マイス様のお気が変わらないうちに、書面での契約を交わすんだワン!」
イヌイヌ族たちは飛び上がらんばかりに驚いて、猛烈な勢いで尻尾を振り出した。
うん……?
「ご領主様、お人が良すぎるのでは!? エリクサーは王国に7つしか現存していない国宝級の霊薬ですぞ!?」
騎士団長が慌てて僕をたしなめる。
「えっ、エリクサーは回復薬(ポーション)の数だけ生産できるから、もう国宝なんて扱いはおかしいじゃないか?」
「はっ……いや、しかし」
「エリクサーの大量生産のことは、すでにイヌイヌ族に伝えていると思ったけど違うのか?」
騎士団長の顔を見るに、どうやらその話はしていなかったらしい。
「はっ、あまりにも突拍子もない話なのに加えて、ご領主様の商売のお邪魔をしてはならぬと思いまして……」
「はぇええええ!? まさかとは思っておりましたが、マイス様はエリクサーの大量生産に成功されたのですかワン!?」
「黒死病の撲滅は、それが理由ですかワン!?」
「こ、こんなことは伝説の大錬金術師パラケルススでも不可能ですワン!?」
イヌイヌ族たちは取り乱して大騒ぎとなった。
「はぁ、兄様は正直すぎです。そこが良いところではありますが……」
「いや、嘘や隠し事をして取引なんてしたら、長期的な信頼関係は築けないでしょう?」
情報を隠して短期的な利益を追求するより、オープンにして長期的な信頼関係を築いた方が、領地の発展に繋がると僕は思う。
「さすがはご主人様です! イヌイヌ族のみなさん! ご主人様は、私たちに無償でエリクサーを配られたのですよ! こんな慈愛に満ちた貴族様は世界広しといえど、ご主人様だけです!」
エリスが胸を張って、自慢そうに吹聴した。
「はひぃいいい!? 信じられないですワン!」
「と、とにかく、お取引は、その条件でお願いしますワン! 正直、まったく釣り合いが取れない条件で、恐縮ですワン!」
「マイス様の高潔なるお心に感服いたしましたワン! できればボクたちをマイス様の御用商人にしていただけないでしょうかワン! マイス様のためにできる限りのことをさせていただきますワン!」
イヌイヌ族たちは、平身低頭になって頼んできた。
「本当ですか!? 助かります」
野菜や果物は【スーパー促成肥料】で大量生産できるようになったけど、肉はそうはいかないので、イヌイヌ族から大量に購入できるのはありがたかった。
「ありがとうございますワン! 今日は人生最良の日だワン!」
「こんな素晴らしいご領主様と取引できるなんて、夢みたいだワン!」
イヌイヌ族たちは飛び上がって、大歓喜した。
僕にとっては有利過ぎる条件だけど、それで彼らに利益が出るなら申し分ない。
Win-Winの関係が結べて、良かったな。
「しかも、騎士団長が留守なのに魔獣の群れを撃退しちゃうなんて、すごい軍事力だワン!」
おそるおそる幌付きの荷馬車から降りてきたのは、僕の腰くらいの背丈の犬型獣人たちだった。
彼らは警戒心と興味が混ざったような顔で、あたりをキョロキョロと見回している。
「ご領主様、紹介いたします。イヌイヌ族の行商人たちです!」
「お初にお目にかかります。僕はベオグラードの領主、マイス・ウィンザーです」
騎士団長に紹介されたので、僕から先にあいさつした。
「こ、これは、ごていねいにマイス・ウィンザー様。ボクたちはイヌイヌ族の商人ですワン! お目にかかれて光栄ですワン!」
イヌイヌ族たちは恐縮したようにお辞儀した。
「この神々しい聖獣ユニコーンとエリクサーを錬成されたと聞いて、ぜひマイス様と取引させていただきたく、やってきましたワン!」
「それはありがとうございます。今、ベオグラードは復興の真っ最中で、物資が不足しているため助かります」
「こちらこそ、お会いできてうれしいですワン! マイス様はベオグラードまで聖獣ユニコーンに乗って旅をされたとお聞きしました。マイス様が立ち寄れた街では、マイス様のお噂でもちきりになっておりますワン!」
それは知らなかった。聖獣ユニコーンはイヌイヌ族たちの信用を勝ち取るために役立ってくれたようだ。
ユニコーンは誇らしげにいなないた。
「犬獣人ですか……?」
ティニーが警戒した目つきになる。街を襲った獣人との関連を疑ったのだろう。
「大丈夫だ、ティニー。彼らはイヌイヌ族といって、人間と友好的な種族なんだ。それに正直者なことで有名で、うれしいと無意識に尻尾を振ってしまうんだ。ほらね」
「あっ、ホントです。かわいいです」
二頭身のイヌイヌ族たちが尻尾を振っているのを見て、ティニーが相好を崩した。妹はかわいいモノに目が無いのだ。
「兄様は博識ですね。私の配下にはいない種族だったので、知りませんでした」
「さっそくですが、マイス様はエリクサーを錬成して、領地を救われたとお聞きしましたワン! ぜひ、ボクたちにエリクサーを売っていただきたいですワン!」
「お願いしますワン!」
イヌイヌ族たちが一斉に頭を下げてくる。
エリクサーの在庫は心許ないので、どう返事するべきか一瞬考えた。
「こちらの美しいお嬢様は、妹君ですかワン? お近づきの印に、王都で流行している焼き菓子を献上いたしますワン!」
「兄様、売ってあげましょう。かわいい子たちの頼みです」
お菓子の入った箱を受け取ったティニーは、さっそく籠絡されていた。
この商人たちは、やり手のようだ。
「そうですね。では、この荷馬車いっぱいの牛肉と、エリクサー一本を交換ではいかがでしょうか?」
食料問題の解決は、領民の命がかかった真剣勝負だ。
僕はまず、かなり強気に出ることにした。
交渉は断られてからが、本番だ。
僕は固唾を呑んで、相手の出方をうかがう。
「……へぇ? そんな破格の条件でエリクサーを譲っていただけるのですか、ワン!?」
「し、信じられない安さだ、ワン! ありがとうございますワン!」
「マイス様のお気が変わらないうちに、書面での契約を交わすんだワン!」
イヌイヌ族たちは飛び上がらんばかりに驚いて、猛烈な勢いで尻尾を振り出した。
うん……?
「ご領主様、お人が良すぎるのでは!? エリクサーは王国に7つしか現存していない国宝級の霊薬ですぞ!?」
騎士団長が慌てて僕をたしなめる。
「えっ、エリクサーは回復薬(ポーション)の数だけ生産できるから、もう国宝なんて扱いはおかしいじゃないか?」
「はっ……いや、しかし」
「エリクサーの大量生産のことは、すでにイヌイヌ族に伝えていると思ったけど違うのか?」
騎士団長の顔を見るに、どうやらその話はしていなかったらしい。
「はっ、あまりにも突拍子もない話なのに加えて、ご領主様の商売のお邪魔をしてはならぬと思いまして……」
「はぇええええ!? まさかとは思っておりましたが、マイス様はエリクサーの大量生産に成功されたのですかワン!?」
「黒死病の撲滅は、それが理由ですかワン!?」
「こ、こんなことは伝説の大錬金術師パラケルススでも不可能ですワン!?」
イヌイヌ族たちは取り乱して大騒ぎとなった。
「はぁ、兄様は正直すぎです。そこが良いところではありますが……」
「いや、嘘や隠し事をして取引なんてしたら、長期的な信頼関係は築けないでしょう?」
情報を隠して短期的な利益を追求するより、オープンにして長期的な信頼関係を築いた方が、領地の発展に繋がると僕は思う。
「さすがはご主人様です! イヌイヌ族のみなさん! ご主人様は、私たちに無償でエリクサーを配られたのですよ! こんな慈愛に満ちた貴族様は世界広しといえど、ご主人様だけです!」
エリスが胸を張って、自慢そうに吹聴した。
「はひぃいいい!? 信じられないですワン!」
「と、とにかく、お取引は、その条件でお願いしますワン! 正直、まったく釣り合いが取れない条件で、恐縮ですワン!」
「マイス様の高潔なるお心に感服いたしましたワン! できればボクたちをマイス様の御用商人にしていただけないでしょうかワン! マイス様のためにできる限りのことをさせていただきますワン!」
イヌイヌ族たちは、平身低頭になって頼んできた。
「本当ですか!? 助かります」
野菜や果物は【スーパー促成肥料】で大量生産できるようになったけど、肉はそうはいかないので、イヌイヌ族から大量に購入できるのはありがたかった。
「ありがとうございますワン! 今日は人生最良の日だワン!」
「こんな素晴らしいご領主様と取引できるなんて、夢みたいだワン!」
イヌイヌ族たちは飛び上がって、大歓喜した。
僕にとっては有利過ぎる条件だけど、それで彼らに利益が出るなら申し分ない。
Win-Winの関係が結べて、良かったな。
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